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「メンタルヘルス不調」とはーその定義と対応について

職場のメンタルヘルス対策を行う時、「たびたびメンタルヘルス不調」という言葉は耳する。今回は、この「メンタルヘルス不調」に触れてみたい。メンタルヘルス不調の定義は、厚生労働省の指針で、以下のように定義されている。

メンタルヘルス不調
精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。

職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針
(厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構)

つまり、うつ病や発達障害などの精神科等で診断される病気や障害をだけでなく、病気と診断されなくても、精神的および行動上の問題を幅広く含むものが、「メンタルヘルス不調」というわけである。
この「メンタルヘルス不調」という表現は、専門家ではない人には直感的にわかりやすい表現とも思えるが、「・・・幅広くふくむもの」という基準があって無いような表現で、正しい診断に基づいて適切な治療を大切にする臨床医学からみると、極めて曖昧な感覚がある。
また、産業保健の現場でも

「これば病気ですか?」
「治らないのですか?」

といった質問をよくうけることがあり、一般的な社会でも、一定の診断基準を超えるかどうかが注目されやすい。
もう少し対象が絞られるような表現・定義のほうがよいのでは?とも思う方もいるかもしれない。

しかし、私は、職域においては、「メンタルヘルス不調」という病気以外も幅広く含む考え方がとても重要だと考える。
精神科領域の病気は、そもそも病気とそうでない状態の境界があいまいで、熟練の精神科医でも診療の経過のなかで診断が変わることもめずらしくない。さらに、職場においては、病気と診断されない状態でも問題になることがあるし、病気の前兆が行動の問題としてあらわれてくることがある。つまり、職域において病気どうかの判断はそもそも難しい、職場で判断できる視点で、問題かどうかを判断したほうが、対応に結び付けやすいのだ。
実際、私がよく人事担当者や上司に、

「病気かどうかは一旦置いておいて、仕事の成果とか、勤怠の状況、職場の人間関係など、皆さんが普段評価に使っている視点で問題かどうかを見てください。病気があっても仕事に問題がないなら問題ないし、逆に病気がなくても問題があるのであれば、対応を考えましょう」

とお伝えしている。職場を見渡せは、高血圧や糖尿病で治療している従業員が問題なく働いていることはよくある。精神疾患でも然りである。一方で、病気と診断されていなかったり、医療機関に受診していなくても、「ストレスや強い悩み、不安など」を抱えて、仕事に影響がある従業員には、適切な対応をしていくことが望まれる。

職場のメンタルヘルス対策を考えるときは、ぜひこの「メンタルヘルス不調」という表現を意識して関わっていただきたい。



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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」



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