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【連載小説】ライトブルー・バード<18>sideカエデ⑤

↓前回までのお話です↓

そして登場人物の紹介はコチラ↓

山田カエデ(17) 元1軍グループ女子。リーダーの板倉ナナエに刃向かったことで、イジメのターゲットにされてしまうが、幼なじみの井原サトシに窮地を救われる。現在はサトシの『偽カノ』だが、本当はもう一人の幼なじみである星名リュウヘイに片思い中。

井原サトシ(17) 運動神経抜群の高身長イケメン男子高校生。当然ながら校内で一番のモテ男子ではあるが、小3の頃から片思いしている山田カエデ以外は興味なし。悲しいかな、彼女がリュウヘイへに片思いしていることは了承済み。

今泉マナカ(17)  容姿端麗な真面目女子。バイト仲間のリュウヘイに恋心を向けられているが、それには全く気づいていない。アルバイト先の先輩だった大学生、荒川ヒロキ(21)のことを今でも想っている。サトシとはクラスが同じで、色々と(主に片思い関係)相談する仲。

星名リュウヘイ(17)  一応主人公。勉強が苦手なおバカだが、真面目で優しいチワワ系男子。高校の入学式でマナカに一目惚れをしたものの、気持ちを伝えるつもりはないらしい。基本鈍感なので、カエデが自分を想っているとは夢にも思わず…。

 まあ恋心相関図はこんな感じです↓

サトシ→💕→カエデ→💕→リュウヘイ→💕→マナカ→💕←ヒロキ(※マナカは知らない)

 クラスの女子たちから弾かれ、ひとりぼっちでお弁当を食べていた昼休みの時間。あの時に山田カエデを苦しめていたものは、寂しさでも惨めさでもなく、母親に対して『申し訳ない』…という懺悔に似た気持ちだった。

 娘の為に毎朝早起きをして、お弁当を作ってくれる母。彩り豊かで栄養も考えられているおかずは、どれもカエデの好きなものばかりだ。
 
 しかし、肝心の娘は誰とも会話することなく、弁当箱の中身をただただ口の中へと運んでいただけ…。哀しさが味覚を妨害し、味など全く感じていなかった。

 この事実を知ったら、母は何を思うだろう…。

 だから、カエデは優しい嘘をつくことを選んだ。

「ただいま、お母さん。お弁当美味しかったよ」


「サトシ…あのね、一緒にお弁当食べない?」

「へっ?」

 カエデが井原サトシの『偽』彼女になってから数日が過ぎた。廊下を歩いていると「ほら、あの子…」と囁かれることにもだいぶ慣れてきている。

 イケメン男子と付き合えば、嫉妬心によって新たなイジメが始まる可能性だってあったハズだ。しかしサトシの『番犬力』は想像以上で、今のところ、誰からも嫌がらせを受けていない。

 そう…、カエデへのイジメはパッタリとなくなった。それなのに心が穏やかになれない自分がいる。

「急にどうしたんだ? カエデ」

 サトシが驚くのも無理はない。前に「私は『偽』彼女だし、必要以上にベタベタはしないからね」と言っていたからだ。

「うん、実はね…」

 心配そうな表情をするサトシは、カエデの言葉を遮り、「オマエ…、弁当まだ一人で食ってんのか?」と聞いた。

「いやいや、むしろ今は一人で食べる方がいいんだよね。まだ心の中の整理が出来ていないから…。でもね、自分のクラスでお弁当広げていると、色んな子から『一緒に食べよう』とか『こっちに来なよ』って言われて、そのぉ、落ち着かないの…」

「ああ、なるほどね。ゲンキンなヤロー共だな」

 サトシは苦笑いをする。

 全員を恨んでいるワケではないが、サトシの(偽)彼女だと知った途端、手のひらを返すような態度を取るクラスの女子たちに、どのように対処すればいいのか分からない。

 更にイジメの『主犯格』側であったミサとアサミが、板倉ナナエに全ての罪を押し付けて、カエデにすり寄ってきた時には、呆れてモノが言えなかった。

 イジメられている最中は、緊張の糸が心のあらゆる場所に張り巡らされていたので、彼女たちへの不信感と向き合う時間はなかった。しかし糸が全部切れ、落ち着きを取り戻した今…、この負の感情が心の隅に残っていることに気がついてしまった…というワケなのだ。

「女子が学校で上手くやり過ごす為に必要なモノって、『リセット力』なんだよね」

「『リセット力』?」

「イジメた方も、イジメられた方も何事もなかったかのように振る舞えるスキル。学校生活にはゴールがあるんだから、本当は割りきった方がいいんだろうけど、今の私には…まだ無理かな」

「別に今すぐ許す必要ねーんじゃね? 時間かけて、本当に反省しているヤツだけ受け入れればいーんだし」

「そうなんだよね。…で、いっそ『彼氏』のところに行けば、さすがに誰も声を掛けないだろう…と思って来ちゃったんだ。サトシ、前言撤回してごめんね。勿論、他に約束があるなら無理はしないで」

「いや、俺は別にいーけどさ、今日だけは無理なんだ。実はこのあと現部長と一緒に顧問に呼ばれてんだよ。あの先生、話長いから、俺の昼休みは無くなると思う」

「そうなんだ。忙しいのに呼び止めてごめん。私なら大丈夫。自分で何とかするから」

「悪いな」

 その直後、カエデの両肩に誰かの手が置かれた。

「話は聞いたよ~ん」

 驚いて振り向くカエデ。そこにいたのは知らない女子だ。

「おう、平塚!」

 サトシに『平塚』と呼ばれた少女は、カエデの前に立ち、「山田さん、はじめまして!!」と人懐っこい笑顔を見せた。

「カエデ…、コイツは同じクラスの平塚メイ」

「あ、はじめまして。私は山田カ…」

「山田さんは自己紹介の必要ないよ。もう有名人だもの。井原、山田さんはウチのグループが預かるよ」

「平塚のグループが?」

 サトシは眉間にシワを寄せて、複雑なそうな感情を表に出す。

「何? 井原、私のグループじゃ、大切な彼女を任せられないワケ?」

「い、いや…そうじゃなくて…。あーっっっ!! もうわかった。平塚、カエデを頼む。カエデ、平塚の性格の良さは俺が保証するから、今日はコイツらとメシを食え。じゃ、俺はもう時間だから行くぞ」

 そう言い残すと、サトシは廊下の人混みへと消えていった。メイと2人になってしまったカエデは緊張した表情で「あっ…お願いします」と彼女に伝える。

「固い固い。山田さん固いよ。アウェイだから最初は緊張するかもしれないけど、みんな優しいから」

「ありがとう」

「それにしても大変だったね」

 メイが優しい眼差しを向けた。『大変』という言葉が指してしるのは、クラスの女子たちから受けたイジメに対してのことだろう。

「う、うん。でも、もう…大丈夫。たった1週間の出来事だったし…」

 本当は大丈夫ではないのだが、初対面のメイに辛かった気持ちを吐き出せるワケがない。

「1週間だろうが、1日だろうが、辛くて大変だったことに変わりはないよ」

「………えっ?」

「さあ、ウチらの教室へお入り!!」

 メイはカエデの背後に回りこむと、そのまま背中をひょいっと押して、3組の教室へと入れる。

「………」

 何故メイがサトシから信頼されているのか…、それが何となく分かったカエデだった。


「みんなぁ!! 山田カエデさんが飛び入り参加だよ。仲良くしてね!!」

 テンションが高いメイの紹介対し、他のメンバーも「おぉ!!」とテンションの高い反応を見せる。

「山田さん、ここに座りなよ」

「ありがとう」

「へぇ~、井原の好みは『美人』よりも『可愛い』系だったんだね」

 隣の席になった女子がカエデの顔をまじまじと見つめる。

「あっ…、いやぁ」

「…で、どっちから告白したの?」

「い、一応…向こうからかな」

 キャー!! と盛り上がる周囲。

「井原のヤツ、普段クールなクセして、どんな顔して告ったんだろっ!? 山田さんだけが井原のレアバージョンを知ってるんだね!!」

(いやいや、いつもの『しかめっ面』でしたが…。舌打ちもされたし)

 カエデは笑ってごまかした。

「ところで、ウチの『美人』は?」

「マナカなら、また男子に呼び出されてる。今度は1年」

「いやぁ、モテるねぇ」

(『マナカ』!?)

 カエデの心臓がドキンと跳ね上がった。メイからの誘いに対し、サトシが複雑な表情をした理由はこれだったのか…と。

 だって今泉マナカは『自分の本当に好きな人の好きな人』なのだから…。

「山田さんは知ってるよね? 今泉マナカ」

 メイの質問にカエデは首を縦に振った。それを確認した彼女は話を続ける。

「マナカって井原と仲がいいから、本人たちが否定しても誤解しているヤツが結構いたんだよね。でも山田さんが本当の彼女だって分かったから、井原に遠慮していた男子が『よっしゃぁ!!』って感じで…」

「へぇ~、そうなんだ」

(…私も『本当の』彼女じゃないんだけどね)

 マナカは綺麗な容姿の持ち主だ。以前から目をつけていた男子がいても不思議ではないだろう。

 リュウヘイは、何がきっかけで彼女のことを好きになったのだろうか…?

「ハッキリ言って、マナカにはありがた迷惑だよね?」

 別の女子が苦笑いした。

「ホントホント…。一途に大学生を想っているマナカが、『美人だから』っていう理由で告白する男子なんか相手にしないってwwww」

(えっ!?)

 先ほどよりも鼓動の振り幅が大きくなったので、自分の動揺が顔に出たかも…と、カエデは一瞬焦る。

(今泉さん、誰かに片思いしているんだ)

 サトシからは何も聞いていなかった。

 
 マナカも…

 リュウヘイも…

 そして自分も…

 それぞれが誰かに想われながら、違う誰かを見ている。

(リュウヘイは…知っているのかな?)

 周りに気が付かれないように、大好きな幼なじみのことを考えていると、マナカが教室に入ってくるのが見えた。

「おかえりマナカ」

「メイちゃん、ただいま」

 下がり気味の眉が、マナカの気疲れをしっかりと物語っていた。しかしカエデの存在に気がつくと、笑顔で会釈をする。

「マナカ、今日は井原が多忙だから、ウチらが山田さん預かったよ」

「あ、こんにちは今泉さん、えっ~と、お邪魔してマス」

 カエデも頭をちょこんと下げた。(やっぱり綺麗な女の子だな…)と心の中で思いながら…。

「マナカ、告白ちゃんと断れた?」

「うん、何とか分かってくれた」

「美人は大変だね。私は美人じゃなくて良かったよぉ」

 笑いを取るメイ。そしてマナカは曖昧な笑みを返し、保冷バックからお弁当を取り出した。

「…山田さんとマナカは接点あったっけ?」

「うん、前に井原くんと2人でバイト先に来てくれたよ。ね? 山田さん」

「うん」

 あの時は、マナカが『リュウヘイの好きな人』だとは気がついていなかったっけ…。

 そして、それぞれ気持ちが分かり、様々な事情が重なったことで、カエデは今、彼女と一緒にお弁当を食べている。何とも不思議な気分だ。

 目の前の美少女は、いわゆる『恋敵』なのだが、カエデは何故かこの言葉に違和感を覚えてしまう。

(何でだろう?)

「山田さん」

 マナカのことを考えている最中に、本人から声を掛けられたものだから、思わずビクッとしてしまった。

「えっ?」

「山田さんのお弁当、凄く美味しそうだね」

「……あ、ありがとう」

「うん、私もそう思ってた。お母さん? それとも自分で作っているの?」

「お母さんだよ。私はまだ下手だし…」

 このあともメイとマナカがさりげなく話題を振り、アウェイにも関わらず、カエデは楽しい時間を過ごすことが出来た。
 こんな感覚は久しぶりだ。よくよく考えてみれば、自分はイジメが始まる前から、ナナエの顔色をいつも伺っていて、心からお弁当を楽しめる状況ではなかったのだから…。

(あ、このハンバーグ美味しい💕)


 カエデが自分の教室へ戻ろうとした時、マナカに「私、そっちに用事があるから、一緒に行こう」と言われ、2人は連れ立って2年3組の教室をあとにした。

「メイちゃんってね…」

「うん?」

「中学時代の3年間、ずっとイジメに遭っていたんだって。だから山田さんのことを放っておけなかったんだと思う。そういうことだから、何かあったら遠慮しないで3組に来てね」

「そうなんだ」

 あの明るいメイが…、とカエデは驚いたが、どんな人間でも、属する集団次第でイジメに遭う可能性はゼロではない。

「私も…だけどね」

「今泉さんも!?」

「うん、部活でね…。結局引退までずっと続いたよ」

 カラオケへの誘いを、『校則違反』だからと断ったことで始まったマナカへのイジメ。それを聞いたカエデは苦々しい顔をした。

「今泉さん…、もしも、その子たちとどこかで会って、向こうが普通に話しかけてきたらどうする? 許せる?」

「う~ん、私にとってあの子たちは、もう『許すか許さないか』をジャッジする必要のない人間だと思っているからなぁ」

「結構言うね」

 カエデは笑いながら肩をすくめた。

「ただ、一瞬でも萎縮はしないで、毅然とした態度は取りたい。だって私のあの時の判断は間違っていないと思うから。かなり頑固なんだ…私」

「頑固じゃないよ。カッコいいよ今泉さん」

 思えば自分へのイジメは、マナカの悪口を拒否したことが始まりだった。

 改めて思う。

 悪口を言わないで良かった。

 例え本人の耳に入らなくても、言ってしまったことは自分自身がよく分かっているし、なかったことにも出来ない。

 そして、女子同士での『リセット力』が未熟な自分は、悪口を言ってしまった相手にこんなことが言えるワケがない。

「ねぇ今泉さん、『マナカちゃん』って呼んでいい?」

 困ったことに、マナカと話せば話すほど、彼女への好感度が上がってしまっている。

「うん、勿論いいよ。よろしくねカエデちゃん」

「ありがとう」

 今日、帰宅したら、早速母にお弁当の感想を伝えよう。勿論「友達が『美味しそう』って言っていたよ」ということも忘れずに…。


 次の日の朝

 カエデは体育館の横で朝練から戻るサトシと遭遇した。

「おはようサトシ。お疲れさま」

「オッス。なあ、今日の昼休みはどーすんの? 俺空いてるけど…」

「ありがとうサトシ。でも私、今日も3組に行って、マナカちゃんやメイちゃんたちと食べるつもり…」

 マナカたちを名前呼びしたことに気がついたサトシは、嬉しそうに「おっ?」と呟くと「あらら、それは残念…」と言葉を続けた。勿論、ちっとも残念がっていないのは一目瞭然だ。

「良かったな、カエデ」

「うん、サトシのおかげ。じゃあ、またね」

 カエデは手を振り、そのまま昇降口へと向かった。

 今日のお弁当には、母特製の唐揚げが入っている。昨日の夜からしっかりと味付けされたものだ。

 昼休みが楽しみなんて、いつ以来のことだろう…。

 スピンオフ&〈19〉に続きます。

♥️このsideのスピンオフを連続投稿しました↓もし、お時間があれば(⌒‐⌒)


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