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編集のあとで:農業のくらしの時間軸 kurashi027‐28

4月、5月と2か月連続で陸前高田のしょうが農家キクチさんのくらしを公開しました。くらしてんとしては初めて一人の人を連続掲載した記念すべき記事でした。そこから3か月。随分時間が経ってしまったけど、今回はその2回についてあとがきをまとめてみます。

農業のくらしの時間軸

「季節を通して写真を撮っておきましょうか?」

連続掲載の始まりは、撮影をお願いした時にキクチさん自ら提案してくれた言葉だった。くらしについてヒアリングさせてもらった時に、農作業の1日だけではキクチさんのくらしを伝えきれないということが確かにあった。特に彼の場合はしょうがの栽培や出荷だけではなくて、その後の加工や流通などマーケティングの工程も自ら行っているので、カメラを渡した時期だけではそのくらしをすべて映し出せない。

いつもは撮影用に写ルンですを1個だけ送って、撮り終えたら返送してもらう形にしているが、キクチさんのその提案に乗って、今回は初めてのことだけど、カメラの個数は限らず季節を通して撮影してもらうようにお願いした。

撮影後、カメラを現像に出してみると、”社会科の教科書に使えるのでは”と思えるくらい栽培から流通まで一連の工程が記録されていた。これがキクチさんの仕事であり、くらしのサイクルなのだ。

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季節を通して撮影してもらって正解だったな、と思うと同時に、私のくらしや仕事がいかにルーティンワークなのかを感じずにはいられなかった。

会社員である私の仕事には締め切りやマイルストーンはあるけど、季節性がない。季節性的なことでいうと、年末に入る頃に来年度の予算を確保して、3月になると駆け込みでプロジェクトを回す、というところかもしれない。でも目の前の景色は、同僚の服装が夏服から冬服に変わるくらいで、一年通して変わらない。

そんな毎日だから、キクチさんの仕事の風景から見える変化の鮮やかさに圧倒されてしまう。

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1日という時間軸と季節という時間軸。農業のくらしを追うことで、くらしの時間軸をどこに置くか、職業によっての違いに気づくことができた。そして、会社員という仕事の風景の色の無さにも。

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ストーリーとともに味わう

キクチさんの仕事の特徴はもう一つ、陸前高田がしょうがの産地ではない、という点にある。

しょうがの産地で有名なのは高知だが、キクチさんは気候が全く違う岩手の陸前高田でほぼ一人だけのしょうが農家だ。しょうが栽培のきっかけは、東日本大震災での寒さの厳しい避難所生活を目の当たりにした経験からだという。

冷えに効く”しょうが”は古来から薬にもされていて、食べたり、飲んだり、調味料にもなるスーパーフード。そこに注目して、産地ではない陸前高田に移住後、農家となり栽培を始めた。

産地ではないため、自分の作物を使ってもらい、食べてもらうところも一人で開拓しなくてはいけない。そのため、キクチさんはしょうがの収穫後に加工や流通まで自ら戦略を立てて行っている。

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ここは大船渡にあるJA施設での青空市。地元の人が来てくれるので、地元への認知度向上のためにこうした機会はできるだけ出店している。
(略)お店には農業もサポートしてもらっている親戚のおばちゃんに立ってもらって、作物の特徴や保存方法、調理法などを話しながら売ってもらっている。自分のような若手よりもお客さんの世代に合った人から売ってもらった方が信頼される。

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こちらは地元でのファーマーズマーケットでの出店。
大船渡の青空市と比較して20代~40代の若い層が来るので、ここでは”ジンジャー訴求”。(略)直接販売する時は来店する世代がどう使うか、使い方をイメージしてそれぞれに合った提案をするようにしている。

青空市でもファーマーズマーケットでも、来場者層を踏まえて売り子を変え、使い方を提案しながら客を開拓していく。このほかにもレストランやカフェなど、飲食店での顧客開拓もぬかりない。

キクチさんのSNSを見ていると、開拓した様々なお店や商品開発の様子などと一緒に三陸の自然が語られていたり、三陸の自然の一部かのようにしょうがの存在を感じられる。彼自身の活動がそのまま三陸ジンジャーをブランディングになっているようだ。こうして自分のしょうがファンーキクチさんのしょうがだから買うという客を作っていくのだろう。

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これまで”〇〇産”という看板をつけて産地がやっていた作物のブランディングだが、キクチさんのように生産者自らがロゴを考え、ストーリーを作り、ブランディングする時代になってきたのだと思う。

そうした生産者発信のものをいただく時、作っている人の思いやストーリーともに食べている気がして美味しさ以上の味わいを感じる。キクチさんのしょうがもそういう味わいももってみんなに受け入れられている、そんな気がする。

今回は夏から冬にかけての記録だったので、春も可能であれば載せたいと思っている。一年を通して撮影してもらうことで、キクチさんの一年がどんなに鮮やかなのか、今から知るのがとても楽しみだ。


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