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思考の前提の探求法:日常的な問題解決から哲学まで

私たちは日々、仕事や日常生活、あるいは将来の事など様々なことを考えています。課題や問題が起点となって考えが始まり、考え方の枠組みに沿って考えが進んでいきます。

考え方の枠組みをフレームワークと呼びますが、自分自身が使っているフレームワークをしっかりと把握することが重要です。フレームワークが歪んでいたり間違っていれば、正しく考えることができません。

この記事では、このフレームワークを把握するためのアイデアとして、フレームワークビルディングという思考方法を説明します。

■フレームワークビルディング:前提を探求するという思考方法

何かを考える時、その思考の前提について探っていくことが重要になる場合があります。具体的な答えや対策を考えるのではなく、まず前提を明らかにしていくことで、考えようとしている問い自体が洗練されます。洗練された問いは、より深く価値のある思考の土台となります。

例えば、幸福とは何か、という問いを立てて考えるとします。

こうした問いに対して、例えば自己実現であるとか、夢をかなえるとか、物的あるいは人間関係の豊かさとか、そうした幸福と考えられるものを挙げて吟味するかもしません。これは、問いを前提にして答えを探るという思考の流れです。

それとは逆に、問いの前提を探るという思考の流れもあります。これをフレームワークビルディングと呼ぶことにします。私たちが思考する時、必ず何らかのフレームワーク(考え方の枠組み)を前提として考えています。自分が前提としているフレームワークをしっかりと把握するために、意識的に前提を探ることが、フレームワークビルディングのアプローチです。

例えば、幸福とは何か、という問いに対して、以下のような前提を列挙して考えます。

・人類一般の幸福というものがあるのか、個々人によって異なるのか。
・幸福というものを固定的に定義可能なのか。
・幸福という事を感知できるのか。
・幸福であるということと幸福でないという事をどのように識別可能か。
・「何か」という問いに対する答えとして、何を充足していたら問いの答えになるのか。別の言葉で置き換えればよいのか、構造を明らかにすればよいのか。
・「何か」という問いに対する答えは、真理的に1つに定まるのか。多面性を持っているのか。
・なぜこの問いの答えを知りたいのか。答えがわかると何が起きると期待しているのか。

このような形で、問いに対して、フレームワークビルディングを試みることで、私たちは問い自体を洗練させたり、価値のない問いを選別することができるようになります。

幸福の例であれば、「私の幸福とは何か」という形で問い自体を限定的な形に設定することもできるでしょう。「幸福とは何か、について、できる限り多くの観点から述べよ」といった形で問いのアウトプットの形を明示することもできます。このような形で、問い自体を洗練させていくことができます。

フレームワークビルディングを実施することで、問いを洗練させるだけでなく、選別することもできるようになります。仮に元の問いが、人類一般の幸福の定義を求める問いだったとします。そして、幸福は個々人によって異なるという確信を持ったとします。そうなると、答えは「なし」となります。つまり、それ以上、その問いを思考する必要がなくなります。代わりに、特定の個人の幸福についての幸福や、多くの人にとって共通的な幸福の性質を考えるといったより有意義な思考に時間を使えるようになるでしょう。

■日常的な例におけるフレームワークビルディング

この思考の流れは、幸福について考えるような哲学的な問いに限るわけではありません。日常的な場面でも、フレームワークビルディングのアプローチは役に立ちます。

例えば、約束した締め切りに仕事が間に合わないことが分かったとします。しまった、どうしよう、という一種の問いが生まれるでしょう。そこで、誤魔化そうか、謝ろうか、ぎりぎりまで頑張ってみようか、など、いくつかの選択肢を思い浮かべて迷い始めることになると思います。これは、問いを前提にして答えを探るという思考の流れです。

一方で、いったん気持ちを落ち着かせて、フレームワークビルディングで問いの前提を考えてみることもできます。

・間に合わないことで、誰が困るのか。
・ぎりぎりまで間に合わせようと努力をすることを期待されているのか、できるだけ早めに伝えた方が相手が困らないのか。
・正直に謝罪すれば済む話なのか。謝罪しても許してもらえないのか。許してもらえないとしたら、何が起きるのか。
・叱られて精神的苦痛を受けるとした場合、その精神的苦痛を自分は我慢できるのか。なんとしてでも回避する必要があるのか。
・信頼を損ねて次の仕事がもらえなくなるのか。それを諦めることができるのか。諦めることができない場合、信頼を損ねないようにする手立てがあるのか。
・なぜこの問いの答えを知りたいのか。答えがわかることで何が起きることを期待しているのか。

こうして「しまった、どうしよう」という問いの前提にあるフレームワークを整理していきます。そうすることで、より現実的で実りのある思考につながっていきます。おそらく、多くの場合、遅れることが分かった時点で、依頼元にできるだけ早く状況を連絡して対応を相談することが適切でしょう。

もしこうした思考の過程を経ずに、最初に立てた問いを前提に考えていたらどうなるでしょう。もちろん、同じ結論になるかもしれません。一方で、延々と悩んだ挙句に最悪の対応をしてしまうかもしれません。そうなると、叱られて精神的な苦痛を受けた上に、信頼も無くしてしまいかねません。

加えて、フレームワークビルディングを実施すると、この経験を次の機会にも活かしやすくなります。例えば、ぎりぎりまで努力することを期待されていると思っていたものの、早めに伝えてほしかったと言われたら、次からはそれを学習して自分のフレームワークを変えることができます。前提を探ってその中で仮定を立てたことで、その過程が間違っていたという事がはっきりと認識できるためです。また、問いの前提に基づいた経験と学習で得られたものは、他の事にも応用できるでしょう。

一方で、そうした仮定を立てていなければ、早めに伝えてほしかったと苦情を言われたとしても、自分の何が間違っていたのかがはっきりわからず、次もまた似たような失敗をしてしまうかもしれません。

■フレームワークビルディングのスキルと一般的な考慮点

フレームワークビルディングのアプローチを実践するためには、そういう考え方もあるのだという事を理解して、試してみようとする意志を働かせる必要があります。そうやって意識的に思考の流れを作らなければ、私たちは自然と問いを前提にした思考を始めてしまいます。

強く意識することで、初めからフレームワークを探ることもできます。それができなくても、問いを前提とした思考を進めた結果、考えが行き詰まった時もチャンスです。行き詰まりに気が付いた時に、フレームワークビルディングのアプローチに切り替えることができるかもしれません。

思考が行き詰るとか、問いが難しいと感じた際は、思考能力や知識の不足だけに原因があるわけではありません。問いがまだ洗練されていないという可能性も考えらえます。その場合、フレームワークビルディングが効果的です。

フレームワークビルディングは、実践経験でノウハウやスキルを獲得することが必要です。このため、日ごろからそうした思考方法に慣れておくことが重要です。また、自分が問いを前提に考えてしまいがちであるという認識を持つだけでも、意識が変わるでしょう。

ここではフレームワークビルディングで問いの前提を検討する際の、一般的な観点を挙げておきます。

・問いのスコープの検討(例:人類全体か私個人か)
・問いを立てた理由や期待する結果の検討(例:幸福になりたい、問題を解決したい、知的好奇心を満たしたい)
・問いの答えの形式と性質の検討(例:定義性、検証性、多角性)
・問いの意義の検討(例:人に迷惑をかけない、精神的苦痛の回避、信頼の維持)

また、フレームワークビルディングでは、問いにまつわる人や物事を整理することも重要です。

・問いにまつわる利害関係者の洗い出し(例:私、仕事の依頼者)
・問いにまつわる事物の整理(例:精神的苦痛、信頼、プライド、謝罪)

難しい問いに出会い、こうした様々な観点で問いの前提を検討としていくと、観点毎にいくつかの選択肢が出てきます。その中には、問いの持ち主にしか決められないものがあります。例えばスコープや理由は、問いの持ち主が決めることであり、一般的な意見や客観的な分析で決められるものではありません。例えば問いの持ち主が自分自身であれば、自分でスコープや理由を決めるしかありません。

一方で、一般的な意見や客観的な分析を大いに参考にできるものもあります。問いの形式や性質や意義は、その例です。関係する利害関係者や物事の整理にも、意見や分析が役立ちます。

■さいごに:人生と社会に対するフレームワークビルディングの効果

私はフレームワークビルディングを、単に考えている一つ一つの課題や問題により良い答えを出すことを目的とした思考方法だとは思っていません。じっくり前提に立ち返って考えるよりも、素早く考える方が理に適っていることもありますし、直感や感覚的に出した答えが正しいことだってあります。特に人間関係では、素直さと臨機応変さの方が、深い思考よりも役に立つことは多いように思えます。

参照記事1にて、自由意志と人生観と世界観が、人生に大きな影響を与えるという、私なりの人生の捉え方を示しました。人生観は、どう生きるべきかという哲学的な問いや、自分が何に喜びを感じるかや、どういった人間であるかといった自己理解を含みます。世界観は、同様に世界に対する理解です。

私はフレームワークビルディングを、この人生観や世界観を構築するための思考法だと捉えています。

たとえ個々の問題や課題は上手く対処できなかったとしても、フレームワークビルディングを実施したことは無意味ではありません。その思考の中で、自分は何に価値を感じるのか、自然や社会や人はどんな性質やメカニズムを持っているのか、何が自分を成長させ、何が自分を苦しめるのか、そういったことを蓄積していくことが、大切なことだと思います。そのために、フレームワークビルディングが重要なのです。

問いの前提を考えると、「なぜ私は」この問いを考えるのか、という形で、私という利害関係者が必ず出てきます。精神的苦痛を回避したいのか、より多くの物を手にしたいのか、単なる知的好奇心なのか、問いによっても変わるでしょう。そのようにして「なぜ私は」を意識することが、自己理解につながります。同様に、自然や社会や人といった世界の認識にもつがなっていきます。

フレームワークビルディングは、このような形で、思考を深めるだけでなく、人生に作用する効果があると私は考えています。

また、より多くの人がフレームワークビルディングのスキルを獲得することは、社会にもポジティブに作用すると考えています。

成熟した現代社会における複雑で根深い問題の解決のためには、個々の状況やスコープに沿って柔軟な思考フレームワークを創造することが重要になってくるという考えを私は持っています。そのためには、「思考フレームワークはエリートや一部の哲学者や学者が作るもの」という固定観念から脱却することが必要です。これを私は「フレームワーク創造の民主化」と呼んでおり、そのアイデアを参照記事2で紹介しています。

直面している個々の問題の前提を探求するフレームワークビルディングのアプローチにより、そのコミュニティ内にフレームワークが共通認識として形成され、洗練されていきます。洗練されたフレームワークに沿ってより直面している問題について深い理解の下で解決方法を考えていくことができます。フレームワークビルディングは、このような形でコミュニティや社会にも作用していくポテンシャルがあります。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2


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