見出し画像

進化発展型メカニズム:生命と知識の森を育む原理

知能が行う処理の本質が、パターン認識とシミュレーションであると考えています。パターン認識はパターンを、シミュレーションはメカニズムを学習して、応用する知的作業です。

この記事では、このメカニズムについて掘り下げて考えていきます。その過程で、生命や知識のように、進化し発展していく現象を引き起こすメカニズムの条件を分析していきます。

この分析により、この進化発展型メカニズムが持つ性質を明らかにします。また、進化発展型メカニズムが、生命の起源における化学進化の過程や、社会の発展にも見られることを示します。

さらに、進化発展型メカニズムの視点から見ると、生命の進化と発展のカギを握る遺伝子と、知識の進化と発展のカギを握る言語に、大きな共通点があることが分かります。この観点から見ると、新しい知識をひらめくことは、知識の進化であり、新しい生物種の誕生に対比される大きなイベントであることが理解できます。

では、詳しく見ていきましょう。

■メカニズムの基本的な構造

メカニズムは、コンテナと状態と法則という、静的な要素で定義されます。そして、これらの静的な要素に基づいて動的に展開されます。

コンテナは状態の入れ物です。法則は、展開時にコンテナの状態に作用し、変化させます。また、法則には、展開時にはコンテナ自体に作用し、変化させるものもあります。

例えば、天井から紐でつるされた振り子を思い浮かべます。この時、振り子が状態を持つコンテナです。そして振り子は、止まっている状態や持ち上げられている状態や、動いている状態を持ちます。

持ち上げられている状態の振り子は、手を離せば下に落ちるという法則が働きます。ただし、紐に繋がれているため、真下には落ちずに紐の視点の真下の方を通過する形で、弧を描くという法則を持ちます。そして、反対側まで来ると、今度は逆向きに弧を描き始めるという法則もあります。

大まかに言えば、振り子はこのようなメカニズムを持っています。

なお、法則自体が、コンテナや状態から影響を受ける場合があります。これは、コンテナや状態の変化によって、法則が変化したと捉えることもできます。あるいは法則に前提条件があり、法則自体は不変であっても、コンテナや状態の変化によって前提条件に適合したり不適合になったりしていると捉えることもできます。

これは、同じ現象に対する裏表の関係にありますので、厳密にどちらが正しいかということはありません。メカニズムを解釈したり、想定する際に、把握が容易な方を使って捉える、ということが重要です。

■複数のコンテナと法則から成るシステマチックメカニズム

コンテナも、法則も、複数存在することがあります。

複数のコンテナは、個別バラバラに存在している場合もあります。この場合、単なるコンテナの集合です。
一方で、コンテナ同士が構造的に繋がっている場合があります。この場合を、構造化コンテナと呼ぶことにします。

複数の法則は、それぞれ独立して常に並行してコンテナの状態に作用する場合があります。この場合を、普遍法則と呼ぶことにします。
一方で、法則同士が連鎖的につながっている場合があります。この場合を、連鎖法則と呼ぶことにします。

物理法則の場合は、法則同士は繋がっておらず、常に普遍的に、コンテナの状態に作用します。このため普遍法則です。また、基本的に物理法則を適用する対象物である物体は、個別バラバラに独立して存在しているという解釈ができますので、コンテナの集合と言えます。

一方で、プログラムのように展開時に次々と作用する法則が入れ替わる場合もあります。これは普遍的法則とは異なり、状況や展開順序に応じて適用される法則が入れ替わります。このため、連鎖法則です。また、プログラムが対象とするデータとその入れ物は、通常、データ同士が様々な意味的なつながりを持っていますので、構造化コンテナと言えます。

こうした構造化コンテナと、連鎖法則は一般にシステムと呼ばれます。このため、こうした性質を持つメカニズムを、システマチックメカニズムと呼ぶことにします。

■進化発展型メカニズム

メカニズムの静的な側面であるコンテナと法則を基にして、動的にメカニズムが展開され、状態が変化していきます。

メカニズムの静的な側面を保持できる媒体があれば、何度でも動的なメカニズムが展開できます。これは再生型のメカニズムと言えます。

また、動的なメカニズムが展開している中で、静的なメカニズムを保持しているものを媒体に作用することがあります。これにより、媒体の中の静的なメカニズムの要素を、変化させたり、壊したり、コピーしたり、新たに生み出したりできる場合もあります。これは自己改変型のメカニズムと言えます。さらに、媒体の中身だけでなく媒体そのものに作用する場合もあります。

このように、静的にメカニズムを保持している媒体があり、そこから展開された動的なメカニズムが、その媒体に作用するメカニズムは、再生と自己改変を行っていることになります。

この再生と自己改変を行うメカニズムが、何らかの形で選択的に淘汰される環境におかれる場合があります。すると、そのメカニズムは、再生と自己改変を行いながら、選択的な淘汰の方向に対して逆らうように逆流していきます。つまり、その存在を消そうという力にあがなうように、あたかも選択の網の目掻い潜るかのように変化していきます。これが、進化です。

また、その進化は、往々にしてメカニズム内の一つのコンテナや法則だけでは達成が困難です。このため、コンテナの数や種類を増やし、コンテナ同士の構造を変化させていきます。また、法則に関しても、法則の連鎖の数を増やし、その種類も増やしていきます。このような形で、複数の多様なコンテナと法則が、構造と連鎖を伴って共に進化していくことで、メカニズム全体がシステマチックメカニズムとして広がっていきます。これが発展です。

こうした選択的淘汰の中で、進化し発展していくメカニズムを、進化発展型メカニズムと呼ぶことにします。

■進化発展型メカニズムの例1 有機物

有機物は、進化発展型メカニズムに当てはまります。有機物が、メカニズムの静的な側面の要素を保持をする媒体になります。

有機物同士が構造化して結合することで、構造化コンテナとなります。また、鎖状の有機物は連鎖法則を実現することができます。

有機物を媒体にして、動的なメカニズムの展開を繰り返し再生することができます。展開時に、媒体である有機物の合成や分解をして、自己改変します。これらの有機物は選択的に淘汰されること進化します。いわゆる化学進化です。そして多数かつ多様な有機物が構造と連鎖を伴って進化することで、全体が発展していきます。

■進化発展型メカニズムの例2 細胞と生物と生態系

生物も、進化発展型メカニズムに当てはまります。遺伝子がメカニズムの静的な側面の要素を保持する媒体です。

遺伝子は展開時に動的な側面として生命体を生み出します。生命体は、遺伝子に従って動的に展開する中で成長し、やがて子孫の遺伝子を作り出します。これにより同じ種類の遺伝子から生命体が繰り返し再生されます。また、その際に、子孫の遺伝子に変異が起きる場合があります。これにより自己改変が起きます。

自然淘汰の中で遺伝子は進化します。かつ、多数かつ多様な遺伝子が共に進化することで、遺伝子が織りなす生態系全体が発展していきます。

■進化発展型メカニズムの例3 知識

知識も、進化発展型メカニズムに当てはまります。

知識がメカニズムの静的な側面の要素として知能に保持されます。知能が媒体です。そして、知識から思考が展開されます。思考は知識から繰り返し再生することができます。そして、思考の結果、知識が修正さる事があります。また、新しい知識が生まれることもあります。

知識は、その論理的整合性や現実との適合性、あるいは人間の感性との共鳴度合いによって選択的に淘汰されます。これによって知識も進化していきます。多数の多様な知識が相互に整合性や共鳴をしながら進化することで、知識体系全体が発展していきます。

■進化発展型メカニズムの例4 人間と組織やコミュニティと社会

人間の集まりである組織やコミュニティから形成される社会も、進化発展型メカニズムに当てはまります。

組織やコミュニティが持つ明文化されたポリシーやロードマップ、業務手順書や組織構造図などのドキュメントがメカニズムの静的な側面の要素を保持する媒体です。また、明文化されていなくても、メンバーが相互に保持して教え合う暗黙のルールや慣習やノウハウもあります。この場合、メンバーの記憶が媒体です

これらの媒体にある組織の情報やルールやノウハウを元にして、組織活動やコミュニティ活動が展開されます。組織やコミュニティはその活動の中で自己改変して、経済合理性やコミュニティの必要背の観点から淘汰されることで進化し、多数かつ多様な組織やコミュニティの総体である社会は発展していきます。

■遺伝子と形式知

有機物と生物の関係と、知識と社会の関係を読み解くと、そこに類似の構造があることがわかります。

有機物が生物を構成し、知識が社会を作っています。そして、生物と社会の進化にとって重要なメカニズムを保持する媒体が存在しています。遺伝子と形式知です。

そして興味深いことに、遺伝子は有機物の一種であり、形式知は知識の一種です。

考えてみると、この両者には他にも多くの共通性があります。まず、複製の容易性、正確性、エラー混入性などがあります。また、連鎖法則であることと、ブレンドされることで全くの新しいイノベーションが起き得る点も似ています。どちらもシンプルな規則の組み合わせで成り立ち、一種の情報を保持しています。

そして、どちらも、有機物と知識という元々のものが進化した過程で生み出された点や、それが生み出された以降で世界がガラッと大きく変革され、巨大な生態系と高度な社会が構築されるに至ったという点も見逃せません。

有機物から遺伝子が生み出されるまでは、相当に複雑で長い期間の化学進化が必要だったと考えられます。しかし、遺伝子が現れてしまえば、それは自己複製を繰り返してあっという間に地球上にコピーされていったと考えられます。

おそらく、形式知も同様です。形式知の代表格は、言語です。単なる声の大きさやトーンや表情のようなあいまいなコミュニケーションを超えて言語が確立するまでには相当の時間があったのではないかと考えらえます。また、音声言語の次に文字が生み出され、さらに言語は発展していったと考えられます。

遺伝子は、細胞の中で静的に構造を維持しているだけでなく、動的に活動をしています。細胞内で遺伝子が部分的に使われて、RNAが生み出され、たんぱく質を生成することで、遺伝子は細胞内の
司令塔になっています。遺伝子は生物という動的なメカニズムを生み出すという説明をしましたが、ミクロレベルでは細胞内に動的なメカニズムを生み出しています。

同様に、形式知も、人間の頭の中で静的に記憶されているだけでなく、動的に活動します。頭の中の知識全体のうち、一部が思考に使われます。知識が思考の司令塔になっているとも言えます。

■知能とメカニズム、シミュレーション能力

私たちの脳、つまり知能の中で、知識が進化発展型メカニズムとして、進化して発展していくことを説明しました。

この事は知能が、その中でメカニズムを動かすことができるという性質を持っているという事を意味します。私たちは目にしたり話に聞いたりしたものがメカニズムを伴っている場合、その静的な側面であるコンテナ、法則、状態を学び取ることができます。その上で、頭の中でそれらを展開することができます。

文字で書かれた小説を読んだとき、その物語の登場人物のやり取りが頭の中で生き生きと描けるのは、この脳の持つメカニズムの展開能力のおかげです。さらに、小説を読むのを途中で中断したとき、あれこれとその物語の続きを想像することもできます。それは、文章で書かれた物語を展開しているだけではなく、そこに出てくる登場人物(コンテナ)、その人物たちの性格(法則)、その人たちのおかれた状況(状態)を使って、頭の中でメカニズムを展開しているのです。これはメカニズムのシミュレーションです。

小説に限らず、日常生活の中でも、私たちは様々なシミュレーションをしています。また、学問や仕事も、それぞれ頭の中でのシミュレーションによって新しい発見をしたり、問題を解決したりします。

このように高度な知能は、様々なメカニズムの静的側面を学び取ったり、新しく考案したりして、それをシミュレーションすることができます。

■さいごに

この記事では、メカニズムを切り口にして、有機物の化学進化から、生態系、知識、社会の進化と発展を説明するための仕組みについて、考えました。

メカニズムの静的な要素を保持する媒体から動的にメカニズムが展開されるという再生の性質、そして動的なメカニズムが静的な要素を改変するという自己改変の性質。この二つの性質が、これらのメカニズムを進化させ発展させるということを整理することができました。

また、これらの中で、遺伝子と形式知(言語)が重要な役割をになっており、かつ多くの面で共通的な性質を持っていることも明らかにしました。

こうして考えていくと、私たちの頭の中では形式知から展開された思考が、豊かな森を形成する姿がイメージされます。その森の中で、新しい知識が生み出されることが、ひらめきです。それは、生態系の中で新しい生物種が生まれる、進化と同じです。それを繰り返して、この森はさらに大きく複雑に発展していくのです。

サポートも大変ありがたいですし、コメントや引用、ツイッターでのリポストをいただくことでも、大変励みになります。よろしくおねがいします!