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あの男と過ごした幾多の夏の思い出

沖縄の海

淀みなく広がる濃い藍は
女の愛より深いのか
男の魂胆が見える程に濁りなく
肌に焼きつく光線は
海の底まで射し込んで
女の網膜に反射し
そこに無いはずの愛情を求めて探す女は
怪しみながらも、男に盲目的に献身している
稀に星型をした砂が指を通り抜ける
その指に永遠を誓う指輪は見当たらぬ

まだ見ぬ島へ続く長い道路から見える海
引き潮の様子に自らの心境を重ねる男
子宝の神を参り嬉々とする女を横目に
海底の剥き出しになった海の本当の姿に
自らの犯した過ちを重ねる

ああ、愛していないのに

期待を膨らませる女に謝罪する言葉など
湧き出るわけもない
本当は愛していないのだから
肌を焼き、海を見にきただけなのだ
男の迷いのない1つの真実を映す海面を見に


背景

女は運転免許を持っているがハンドルを握るのはいつも男だ。数度とは言わず5度ほど沖縄に訪れた男と女であるが、男と女の関係は交際相手という枠からは出ない。

女が期待するのは男のある言葉である。結婚なのだ。しかし年々しつこく迫り過ぎたせいか、男が息をするように身辺のことを隠すのに嘘を吐く事が災いしてなのか、男が決断することもない。

いっそこの海の底に沈んで消えたいわ。

女は男と沖縄に来れた嬉しさを表面的に演出しているが、深くなるにつれ光が底に届かない海のように男の誠意や愛情が心の深部には届かず、助手席から左に広がる干潮の海をふと見た際に虚しさや寂しさ、焦りが押し寄せる。

一方男は、右側に広がる完全に潮のひいた海を見ている。むき出しになった海底はある種の荒々しさ雑さを教える。

俺は1人になりたいのか、この女と一生いたいのか。

男は女が焦る様子も不安になる様子も見て見ぬふりをし

その一方、女の心は衰弱していく


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