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パソナが淡路島に若者を集める理由と狙い

これからの時代に経営者が頭を悩ませるのは「人材確保」である。これは企業経営者からのアンケートでもはっきりしていて、これから7,8年後には企業は新卒や中途採用も含めてどのように人材確保と育成を行っていくかを今から考えていかなければならないのだが、果たしてそこまで現実的に取り組めている企業が多そうには見えない。

コロナ禍で人材流動性はむしろ硬直化している。飲食業や観光業で行き場を失った人材が製造業や介護などの業種に行くことはなく、それぞれの業界の慢性的な人手不足は解消されていない。ジョブチェンジを政府も促進しているが、すぐにできるものではもちろんない。

企業経営者が困っているのは、新卒も含めての「研修」「能力向上」「能力判断」である。「研修」はビジネスマナーの習得といった基礎的なものだけでなく、接客スキル、在庫管理やマネジメントなどのスキルなど中程度のものまで。「能力向上」は、基礎スキルのレベルアップだけでなく、語学、PC操作能力のレベルアップといったところだ。

最後の「能力判断」は、広義のタレントマネジメントである。新卒を採用しても、初期の配置が社員の希望と異なる、社員の能力が活かせないというミスマッチが発生すると、せっかく採用した社員が辞めてしまう。『石の上にも3年』という言葉は既に死後となりつつある。なので、社員の適性を見極め、また若者自身も自分のスキルの有無や適性を見つける・ある程度納得することができた段階で改めて就職ということをするのは理にかなっている。問題は、誰がそこまで育てるか、だ。大学は就職予備校ではない(これを詳しく書くとそれだけで長文になるので省くが)。

① パソナの狙い:育てて売る、という手法

この各種ミスマッチや企業の課題を解消するのがパソナの淡路島計画だろう。つまり、今回の1000人若者採用(契約社員扱いだが)は『就職予備校』を開設するのとほぼ同義である。

一部では奴隷制度、と評されているが、私はもっとパソナは深いところを考えていると思う。

実際は奴隷としてだけではなく、そこで育てた若者を今度は企業に「斡旋する」。これがパソナの狙いだと考えている。

斡旋される企業としては、社会人としてのマナーやスキルもあり、パソナの方で職業適性も見極めたうえで人材を用意してくれているのだから、この上なく楽である。ニジゲンノモリなど淡路島の事業はまだまだ赤字続きだが、新入社員なら人件費はまだ安く済む。人手があるうちに運営ノウハウなどをしっかり手直しして、コロナ後のインバウンドに期待しているのだろう。一人当たり就職が決まれば150万~200万円だろうか。特定社員として派遣で始めて、でもいいのだろう。

ただ、パソナの狙いがうまくいくかどうかはわからない。その前にパソナの淡路島の事業は島民からは白い目で見られている。

そもそも、そういった「優秀になった」人材を使いこなせるかどうかは企業の問題なのだ。


② オンジョブトレーニングとかできなくなっている会社が多くなってきた

背景には、先に述べたよう企業の深刻な人材確保状況&企業が人を育てる余裕がない状況がある。新卒は定着しない、中途採用も、採用活動は多大な費用と労力がかかるようになってきている、人事制度は整備しなければならないが追いつかず、社内のブラックな環境・意識を正していくことも同時並行で行わなければならない。しかし、コロナの影響で事業収益も悪化しているところが多い。

新卒向けのOJTなどを外注するところはどんどん増えている。ただ、これでは企業の雰囲気などを正確につかむことができずに職場に放り込まれ、ギャップも生まれやすい。しかし、職場自体が「人を育てる」余裕がない。ヒヨコが配属されても邪魔なだけ。こうして企業から若者は消えていく。経営者・管理者は頭を抱えている割には、飲み屋で「最近の若い者は、、、」という程度で問題の本質に気が付いていない。若者を育てるのも立派な仕事だが、中堅クラスはその仕事より自分の売り上げ確保や仕事に忙殺される。

③ 人を育てられない会社に未来はあるのか

先に木下斉氏が論じているが、地方にはIT化が恐ろしいほど進んでいない企業が多い。こういう企業の課題は業務が非効率的でないばかりか、人材を育てられない。若い人の方がITリテラシーも高く、PCスキルはあり、語学もある程度できて、それなりに(一般的な中小企業よりは、という意味で)業務効率化が進んだ淡路島のパソナ事業で教育を受けた若者はどこへ就職するのか。

残念ながら、今回のコロナ禍で就職先が決まらない人の多くは、それなりのネームバリューの大学生が多い。そして、おそらくこのパソナの仕組みに応募する学生も大半がそういう大学の者たちだろう。いくら1年なり2年を企業でみっちり仕込みされたからといって、企業が大学名などを採用の基準の一つにしている以上、食指が動くかどうか。新卒一括採用偏重の弊害がここでも発揮されるであろう。また、積極的にそれでも採用したいという企業は、ある意味「育てることを放棄してパソナに頼った」企業である。その企業の内部は、1年なり2年を頑張った若者に応えられるような内情だろうか。ヒヨコを育てることもできないが、かといって優秀な若鶏が入ってきても、その能力を使いこなせる企業だろうか。

恐らく最初のうちにうまくはまる企業は、新興ベンチャーである。こういう会社は経営者がイケイケどんどんで「死ぬこと以外かすり傷」である。実際はビジネスの場では小さなことは命取りになったりする。また、そういう企業がやらかすのはヒューマンエラーが圧倒的に多い。組織としてチェックが不備だったり、事務をなおざりにしているので書類ミスや連絡ミスが多発する。SLACKなどだけではヒューマンエラーは廃絶できない。そういった企業は、事務作業や基本的な「ほうれん草」ができている優秀な若手が実は不足している(50代60代人材を使ったら結構解決するのだが、そこまで給料も払えないし、そういう人を採用できるような、自社のボトルネックに気が付いている経営者は少ない)。ビジョンにひかれた若い人は集まっているが、業務の構築や「一般的なジョブスキル」は転びながら覚える自転車操業だ。そこに一定のスキルを持っている人ははまる可能性が高いと思われる。

しかし、先に述べたように本質的には人材育成とキャリアパスをどのように作れるかの企業の度量が不足している(小さな事務作業などは派遣でいいと考えたりしている)、というか無いことが問題だ。だから、今回のパソナの取り組みは「必要悪」に近い。人材流動性がもっと高まるため&一人一人が時代に応じて適切なスキルを持ち、自分で企業を選んでいくという世の中になるためには、一人一人が企業に頼らず自分のスキルを様々な場面で磨く必要ができてくるのだが、その覚悟を持たなければならないと説いているのはだれあろう竹中平蔵氏である。

しかし、残念ながらパソナを忌み嫌う人は、企業やパソナや竹中氏を呪うばかりで自分のスキルを上げて給料を稼げる会社に行こうとは考えていない人が多く見える。また、どんなにいい企業でいても、ノホホンとしていられる世の中ではない(牡蠣、もとい下記のツイート参照)

やりたいことだけでなく、やれることも考えていこう、稼げる手段を持とう、稼ぐことができるためには何が必要か、ということを考える力を持とう。利いてくれているかどうかわからないが、わたしは淡路島のキャンパスの授業で学生たちにこう言い続けてきているし、続けていくつもりだ。

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