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核心をかすめる、その瞬間のために

先日、ふと連絡を入れた友人と、そのままの勢いで合流してスペイン料理を食べに行った。

出会った4年前、彼はすごく怖かった。
フレンドリーだったし、喋りやすいタイプではあったけれど、
彼の自分の能力と熱意、努力に対する圧倒的な自信、その自信からくる前のめりな圧と、目の前の相手を試すような視線が、私にはどうしても耐えられなかった。

そんなわけで、大して仲良くなるわけでもなく、連絡を取らなくなって2年が過ぎた頃だった。
彼から唐突な着信があったのだ。

「なんか急にふと思い出したんだよね。それで、連絡してみた」

もともと飾るタイプでもない彼は、最近の身の回りのことや、考えていることをするすると話してくれた。確固たる覚悟を掲げて組織を率いていた4年前とはうってかわり、今はさほど人と会わず、一人で勉強をしていること。哲学にハマっていること。

かつての彼の印象と、電話越しの人物から得られる印象の違いは、言葉にして明らかなほどには感じなかった。なんだか雰囲気変わったな。相変わらず熱のある人だな。その程度だった。

私も、自分の話をした。演劇を始めたこと。そこで出会った人々のこと。

2時間ほど、軽快なやり取りを続けた。
だいぶ話したね、またね、と、どちらからともなく軽快に電話を切った。

それから頻繁に会うようになった、わけではない。
電話の後、直接会うまでにはだいぶ期間も空いた気がするし、そもそも2人ですらなく他の友人も含めてたまたま会うことになった、とか、そんな感じだったと思う。そうして、何人かでやり取りをしたり、Twitterで軽くリプを飛ばしあったり、たまにご飯に行ったり、そんな仲になった。

ここで、冒頭に戻るわけである。
またそろそろご飯でもしたいねー、軽くランチでも行こっか、なんてやり取りをしてから、やや日が経っていた。一度立てたランチの約束は、流れてしまっていた。今日はもう家に帰ろうかな、そんな日の軽い連絡だった。

まともに話すのは半年ぶりだったので、最近どう、なんて軽いやり取りを交わす。彼のいいところは、質量のある回答を返してくれるところだ。まあぼちぼちっすよ、なんて適当な答えはほとんどでてこない。私も、それなりに真面目な答えを返したり、適当な答えを返して怒られたりしながら、オリーブとハム、アヒージョとパエリアを平らげた。

話していくたびに、互いの口からはこんな言葉が漏れる。

「丸くなったよね、前も言った気がするけど」

店を出て、そのまま夜の街並みを少し歩くことにした。ささいな日常のこと。将来の漠然とした夢。なんとなくやるせないこと。思いつきの言葉たちや、体内にくすぶっていた言葉、輪郭の曖昧な言葉たちが、冷え始めた空気の中に放り出されていく。

そうして、彼はふと、4年前のこと、当時の彼の周囲の人々のことを話始めた。これまで何度も彼の中に浮かんではそのまま放つことができなかったかのような、熱を帯びているのにどこかおどおどした表情の言葉たちが、おそるおそる寒空に漂っていく。

道なりに建物の周囲を一周し、少し前にも歩いた道をまた歩く。会話のテンポに任せて、立ち止まったり、また歩いたりして、2、3周を数える頃、ふと彼の横顔を見ると、目のあたりがキラリと光ったように見えた。ほんの少しだけ、彼の声が震えているように聞こえた。

話はいつの間にか、軽いやり取りに戻っていた。
そして、かつての電話の時のように、またどちらからともなく、駅に向かって、別れた。

その日、私はホットミルクを飲んでから布団に潜った。
自分は、いろんな表情の言葉を紡げるだろうか。そんな言葉たちを、大事な友人たちと、共有していけるだろうか。

夜眠れない性分の私は、その日もいつもと変わらず、眠れなかった。

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