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海外が「遠い憧れ」から「将来行く場所」になった、地方の小さな町に住むひとりの女の子の話

家庭でも学校でもない、第3の居心地が良い場所「サードプレイス」。
そこは、子どもたちが親や教員、友だちとも違う人たちと出会い、さまざまな価値観や可能性にふれられる場所。やりたいことが見つかったり、自分の良さに気づくことができたりなど、世界が広がる場所でもあります。

カタリバではこれまで20年間、子どもたちのためのサードプレイスと、親や教員(タテ)や同級生の友だち(ヨコ)とは異なる 「一歩先を行く先輩とのナナメの関係」を届けてきました。
子どもたちがどのようなきっかけで「サードプレイス」に来て、どんな経験をし、何を見つけたのか。これまで出会ったたくさんの子たちの中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。

映画「ハリーポッター」を観て海外への憧れを持った小6の女の子

地方の小さな町にいる子どもたちは、大都市の子どもに比べ、夢を見つけたり叶えたりできる機会が少ないとよく言われます。では、そういう場所で子どもが夢を見つけていくには、何が必要なのでしょう?

東北の山間部の小さな町に住むマホさんは、小学6年生のとき、映画「ハリーポッター」シリーズを観て海外や英語に強い興味を持ちました。「将来は海外で働きたい」という夢を持つようになり、学校でも英語の授業に特に熱心に取り組みました。

そんなマホさんが中学1年生になった夏、1つの「出会い」が訪れました。学校で「国際交流の楽しさと手紙交換イベントについて」という特別授業が行われたのです。教壇に立ったのは、この町にある「コラボ・スクール」のスタッフ・スミレさんです。

「コラボ・スクールは中高生世代のためのサードプレイスで、自習室がいつでも利用できるほか、小中学生向け授業や中高生向けのオンライン英会話などのプログラムも行なっています。この年、町の教育委員会から国際交流事業『イギリスの中高生に手紙を書く』について協力を依頼され、中学・高校を回って国際交流の特別授業を行ったのです」(スミレさん)

スミレさん自身、大学在学中にイギリスに留学した経験があります。特別授業ではその留学体験を話したり、友人の外国人にオンラインで登場してもらい、生徒たちと会話をする時間を設けるなどしました。
そして授業の最後に、「来月に『外国人と英語で話す』というプログラムを実施するので、海外に興味を感じた人はぜひ参加してくださいね」と声をかけたのです。

マホさんはこの特別授業で大きな刺激を受けたと言います。
「私もイギリスに行ってみたい!ってすごく思いました。本物の外国人と話をしてみたかったので、授業後、すぐにプログラムに申し込みました」(マホさん)

コラボ・スクールで開催したこのプログラムには、マホさんを含めた中高生20名が参加し、4名のアメリカ人・イギリス人とオンラインで会話。真面目な話から最後は恋愛話まで飛び出し、イベントは大いに盛り上がりました。

「マホさんは自分から手を上げて質問するなど、とても度胸がありました。好奇心いっぱいで、海外や英会話に本当に興味があることがよく伝わってきました」(スミレさん)

マホさんも「何を言ってるかわからなかったけど、すごく楽しかった」と振り返ります。
マホさんはこの後に行われた交流事業「イギリスの中高生に手紙を書く」にも参加。スミレさんのサポートのもと、約1カ月かけて英語の手紙を書き上げ、イギリスの中学生と手紙を交換しました。

「もっと英語を勉強したい」 その思いからコラボ・スクールに入会

外国人と直接触れ合ったことで「英語をもっと勉強したい」と思ったマホさん。コラボ・スクールに入会し、オンライン英会話のプログラムを受けることにしました。

「学校の授業と全然違うので、最初は難しかったです。でも、英語が少しずつわかってきて、どんどん楽しくなりました」(マホさん)

オンライン英会話プログラムで開催されたスピーチコンテストにも参加したマホさん。スミレさんもマホさんが英語の発音を学べるよう、イギリス人の友人とオンラインで繋ぐなどしてサポートしました。

「コラボ・スクールに入った当時のマホさんは、英語力が特に高いわけではありませんでした。英会話の際も、『好きな食べ物は?』と聞かれて『グレープ』と単語だけで答えていたくらい。
でも、オンライン英会話やスピーチコンテストに積極的に参加する中で、文法力がつき、少し長文の会話ができるように。自分の成長につながると思って、全部のプログラムに積極的に参加する姿勢が、すごく前向きで素敵だなと思います」(スミレさん)

中2の2学期には、コラボ・スクールの「英検対策講座」にも参加。英語検定4級に合格したことで、英語や海外に対する意欲がさらに増していきました。
そんな中、マホさんにまた異なる「出会い」が訪れました。

国際協力、ヘアドネーション……初めて知った「誰かのために」という視点

コラボ・スクールでは、生徒の夢や目標に繋がる種を見つけてもらうために、いろいろな大人と話をする「夢ゼミ」というプログラムを定期的に開催しています。ある回のテーマは「国際支援」。青年海外協力隊として海外で働いた経験を持つ人がコラボ・スクールに1カ月滞在し、子どもたちに国際支援について話したのです。

「発展途上国とは何なのか、海外で何が起こっているのか、なぜ国際協力が必要なのかなど、とても具体的で詳しい内容でした。マホさんはこのとき初めて、『国際協力』ということについて詳しく知ったようです。
それまではただなんとなく海外に憧れていた感じでしたが、さまざまな国際支援の話を聞くうちに『人のためになるって何だろう?』『海外で人のためになることがしたい』と言うようになったんです」(スミレさん)

そんな思いを胸に抱いていていた中で、マホさんは町の弁論大会に参加。そこで、男子中学生の発表に大きなショックを受けたそうです。

「その子は『ヘアドネーションをするためにずっと髪を伸ばし続けている』ということを発表していました。他の男の子たちにいじめられたこともあったけど、困っている人たちのために髪を伸ばして、いじめられてもずっと髪を伸ばし続けているというのを聞いて、驚きました。すごいなと思ったし、私も負けられないって思いました」(マホさん)

「海外をもっと知りたいという思いが膨らんでいるときにこの2つの出会いがあり、マホさんの視野が大きく広がったと感じました。『なんとなく英語と海外に興味がある』という状態から、『シンガポールのホテルマンになって国際協力もしてみたい』という、具体的な目標として海外をとらえるようになっていきました」(スミレさん)

子ども一人ひとりの『やってみたい』を引き出すことが第一歩に

マホさんは今もコラボ・スクールに通い、目標を実現するべく勉強とチャレンジを続けています。
現在は、来月に行われる英語スピーチコンテストに参加するため日々練習中。今年は昨年行なったスピーチを、プリントを見ずに完全に暗記してスピーチすることにチャレンジするそうです。

その翌月には、英検3級を受験する予定。親にテキストを買ってもらい、スピーチコンテストの練習と並行して、ドリルとリスニングの勉強を重ねています。

さらに、来年には教育委員会の事業でイギリスにホームステイできるプログラムがあり、それにも応募したとのこと。
「もっともっと英会話ができるようになって、海外の人たちに日本のことを伝えたい」と大きな笑顔で語るマホさん。彼女にとって海外はもう遠い憧れではなく、自分の将来の場所になっているようです。


コラボ・スクールのスタッフ・スミレさんは、実はこの東北の小さな町の出身。中学生の頃はコラボ・スクールに通っていたそうです。

「それまでは進路についてあまり考えたことがなく、ずっとこの町の周辺で生活していくんだろうと、なんとなく思っていたんです。でも、コラボ・スクールでいろいろな地域から来た、いろいろな経歴を持つ大人たちと、いろいろな話をする中で、多くのことを学びましたし視野も広がりました。
高校卒業後の進み方はいくつもあるということも知り、やりたいことに挑戦しようと思えたんです」(スミレさん)

そうしてスミレさんは東京の大学の国際学部に進学。アルバイトをしながら大学生活を送り、イギリスにも留学しました。大学卒業後の進路を考えたとき、「自分と同じような機会を、あの町の子どもたちにも与えたい」と思い、コラボ・スクールのスタッフとして働くことを選んだそうです。

「地方の小さな町に生まれたから何もできないと考えるのではなく、ここにいても活躍できる場所は見つかる、自分がしたいことに近づけると子どもたちが思えるように、そのための選択肢を広げる手助けがしたいと思っています。
それには、生徒一人ひとりの『やってみたい』という思いや目標を、まずは引き出してあげるのが第一歩。生徒が自分の思いに気づき、それを言語化できるようにすることを大切にしながらサポートしていきたいです」(スミレさん)

※個人の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています

-文:かきの木のりみ

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