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「ここに来て新しい自分になれた」中1の彼が見つけた秘密基地のような “サードプレイス”

家庭でも学校でもない、第3の居心地が良い場所「サードプレイス」。
そこは、子どもたちが親や教員、友だちとも違う人たちと出会い、さまざまな価値観や可能性にふれられる場所。やりたいことが見つかったり、自分の良さに気づくことができたりなど、世界が広がる場所でもあります。

カタリバではこれまで20年間、子どもたちのためのサードプレイスと、親や教員(タテ)や同級生の友だち(ヨコ)とは異なる 「一歩先を行く先輩とのナナメの関係」を届けてきました。
子どもたちがどのようなきっかけで「サードプレイス」に来て、どんな経験をし、何を見つけたのか。これまで出会ったたくさんの子たちの中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。

「本当にこんな場所があったんだ!」公民館とも違う第3の居場所から受けた衝撃

東京都文京区にある「文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)」は、カタリバが運営するサードプレイスの1つ。訪れる子どもたちには、学習などのサポートを求めている子もいれば、なんとなく興味を引かれて来る子もいるなど、実にさまざまです。
2021年5月にb-labを訪れた中学1年生のニュートさんは、後者でした。

2020年から続く新型コロナウイルス感染症による外出自粛で、学校にも外へ遊びにも行けなかったニュートさんは、家で時間を持て余していました。そんなとき、ふと思い出したのが、小学6年生のときに学校で見たb-labのフリーペーパー。
「ここに行けば同じような年齢の人たちと会えるかもしれない」と思い、1人で訪ねたのです。

しかし、当時はコロナの影響でb-labも閉館中で、館内では自主学習しかできない状態。受付で通常の活動はオンラインに移ったことを知ったニュートさんはその場で入会し、帰宅後、オンラインでb-labに入ってみました。

「高校生もたくさんいるって聞いていたので、最初はすごく緊張して、ビクビクしながらゲームをしました(笑)。でも、すぐにスタッフさんたちがやさしく話しかけてくれて……。何回かオンラインで参加するうちにスタッフさんの名前も覚えるようになり、それからはリラックスして遊べるようになりました」(ニュートさん)

1ヶ月後、緊急事態宣言が解かれてリアルな場でb-labが再開。初めてb-labの施設に入ったニュートさんは、想像していた雰囲気とまったく違うことに驚いたと言います。

「b-labのようにいろいろな人が集まる学校以外の場所って、家の近くの公民館ぐらいしか知らなかったので、飲食物の持ち込みはいけないなど細かいルールがあるんだろうと思っていたんです。でも、b-labはかなり自由で、いろいろなところに本や漫画、楽器なども置いてあって……。『本当にこんな場所があったんだ』って思いました」(ニュートさん)

憧れの存在との出会い。「人に見せるための絵」を描くように

b-lab では1人でゲームをしていることが多かったニュートさん。周囲も「1人が好きなタイプなのだろう」と受け止めていたそうです。
そんな中、ニュートさんの転機となる出来事がありました。b-labの「冬フェス」です。

「フェス」は年に3回開催されるb-labの一大イベントで、b-labに通う中高生がイベントを企画・運営したり、バンドやダンスを発表したりする文化祭のようなもの。当日は一般の来場者も多く訪れます。

「初めてb-labのフェスに参加したとき、たくさんのブースやイベントが開かれていて、多くの人が見にきていて……。それまで自分と同じ年齢の子たちが、何かを企画・運営する姿を見たことがなかったんですが、冬フェスでは僕と同じ中学1年生の子たちが、いろいろなことを考え、それを実現していました。それもすごく楽しそうに!その光景に、とにかくものすごく興奮しました」(ニュートさん)

冬フェスを機に、より積極的にb-labに来るようになったニュートさん。他の子やスタッフとゲームで対戦して遊ぶことも増え、翌年の冬フェスでは対戦型アクションゲームのトーナメント大会をニュートさんが主催しました。
その際、昔から絵を描くのが好きだったニュートさんは、大会のチラシも自分で作成。すると、そのチラシが「クオリティが高い」とb-labで評判になったのです。

「それまでは家で暇つぶしに絵を描いていた程度で、チラシ作りは生まれて初めてでした。『どうしたらチラシを見た人が参加したいと思うか』を考えて悩みながら作ったので、たくさんの人から『いいね!』と言ってもらえたのはうれしかったです」(ニュートさん)

「人に見せるためのイラスト・デザインを描く」ことに興味を覚えたニュートさん。ちょうど学校で体育祭のTシャツデザインを募集していたので、応募するイラストをb-labで描いていると、b-labスタッフ・フルヤンさんが声をかけました。

「体育祭で行うさまざまな競技の道具を組み合わせたイラストだったのですが、市販のTシャツのようにバランスのとれたデザインでした。『ただ好きな絵を描いた』というより、ちゃんと『みんながこのTシャツを着たらどうなるだろう』と考えて描いているのが見てわかりました。
それで思わず、『もしかして将来こういう仕事したいとか考えている?』と聞いたんです」(フルヤンさん)

あまり話をしたことがなかったフルヤンさんからいきなりそう聞かれ、面食らったニュートさん。フルヤンさんは慌てて自分が美大を卒業していること、現在もb-labで働きながら、美術の予備校の講師とフリーランスのデザイナーとして活動していることを伝え、ニュートさんの絵に興味を感じたことを説明しました。

「そういう仕事をしている人がいままで周りにいなかったから、こんなに近くにいたことに驚いたし、いろいろ話を聞いてみたいと思いました」(ニュートさん)

以降、ニュートさんは描いた絵をフルヤンさんに見せて意見を求めることも。フルヤンさんもニュートさんの世界をより広げてあげられるよう、講師やデザイナーなど仕事の話をはじめ、さまざまな話をするようにしたと言います。

1人でゲームをしていたあの日から2年。気づけば仲間がたくさん増えていた

翌年の春、ニュートさんは春フェスのポスターを作成しました。それが下の写真。ニュートさん自身も気に入っている作品の1つです。

「フェスのテーマが『“わ”を咲かせ、永遠へ繋げ』だったので、いろいろなモチーフの絵を輪の形に並べました。『わ』という漢字はいろいろありますが、ピンとくるものがなかったので、英語の発音記号をイメージして『WA』にしたんです」(ニュートさん)

このポスターも多くの人から好評を得て、ニュートさんはますますイラストやデザインを作る楽しさに引き込まれていきました。
春フェス終了後、b-labにイラストサークルができ、フルヤンさんが顧問に。「これはもう入るしかない」とニュートさんも参加しました。

「1人で描いていてアイデアに詰まったとき、サークルでみんなと話したり、他の人が話している話題を聞いたりしているとアイディアが出てくることがよくあります。いろいろな人と話しながら絵を描くのはすごく楽しいです」(ニュートさん)

かつてはb-labに来ても1人でゲームをすることが多かったニュートさん。気づけば、イラストやデザインの楽しさを知り、さらにその楽しさを共有する仲間もどんどん増えていました。
すると、ニュートさん自身の言動にも変化が表れたのです。

「自分をワンステップ上げてくれた」居場所。ただの趣味だった絵を、仕事にしたいと思うように

「ニュートさんはプライベートなことをほとんど話さないタイプでした。だから、彼がどこの学校に行っていてどんな家族がいるのか、スタッフもよく知らなかったんです。
でも、イラストサークルでみんなが家族の話をしていたとき、ニュートさんが何気なく『僕には弟がいて……』と話し出して。思わず『弟がいたの!?』って聞き返しました(笑)」(フルヤンさん)

徐々に自分のことや学校でのことを話すようになっていったニュートさん。その変化は、フルヤンさんをはじめとするスタッフにとって、とても印象的だったと言います。

「1人で遊ぶのが好きな子もたくさんいますから、それがいけないわけじゃないんです。ただ、ニュートさんにとって『b-labの大人たちは、自分の家族や学校のことなどプライベートな話もしていい、信頼できる人たちだ』と思ってくれたのかなと感じ、それがうれしかったですね」(フルヤンさん)

その後も、フェスのポスター制作や、b-labのフリーペーパーの挿絵作成などに積極的にチャレンジしていったニュートさん。その中で徐々に将来の仕事として「ゲーム系のデザイナーやイラストレーター」を考えるようになったと言います。

「もしb-labに来ていなかったら、きっと今も趣味で同じような絵ばかり描いていたと思います。それもダメじゃないけれど、もし仕事にするならいろいろな絵を描けるようになった方がいい。
やってみたいと思うことや、どうやったらいいのかを、b-labで知ることができました。ベタですけど、b-labに来て新しい自分になれたというか、自分をワンステップ上げてくれた感じがします。それくらい僕にとって大きな意味をもつ居場所なんです」(ニュートさん)

ニュートさんは現在中学3年生。好きなデザインやイラストにチャレンジを続けつつ、じっくり将来を考えていきたいと笑顔で語ります。


ニュートさんにとって学校は、「人がたくさんいて賑やかだけど、相手の学年や立場などを考えて接しなきゃいけないので、気軽に発言しにくい窮屈さがある場所でもある」と言います。一方、家は「一番自由だけれど、友達がいないので少し寂しい場所」。

「b-labは家ほど自由じゃないけど、たくさん友達がいて寂しくない。学校と家のいいとこ取りみたいな場所です。学校以外の友達や、年も立場も違ういろいろな人と、長い時間話をしたり一緒に活動したりできるのはすごく楽しいし刺激を受けます」(ニュートさん)

ニュートさんのように、サードプレイスで将来の夢や目標が見つかる子は決して多くはありません。
「それでも、自分と違う年齢や環境の人・世界に触れることは、きっとその子の世界を広げることになります。それがとても大切なことだと思うんです」(フルヤンさん)

-文:かきの木のりみ

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