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「読みたいことを、書けばいい。」は人生の機微満載の名作落語のようだった

あなたは、どんな基準で読む本を選びますか?

たいていの場合は、「面白そうだ」とか「勉強になりそうだ」のどちらかでしょう。

「面白くなさすぎるところが、一周回って逆に面白い」とか「難しくて読めそうにないが、そばに置いておくだけで安心できる。心の支え」などと屈折した理由で選ぶ人は、たぶん少数派です。

では・・・「面白そうだ」とか「勉強になりそうだ」と思って買った本は、最後まで読み切っているでしょうか?

振り返ってみると、私の場合は「面白そうだ」と思って買った本は、ほとんど読破していますが、「勉強になりそうだ」と思って買った本は、半分以上は読まずに放置してあります。

なぜ読破できないのでしょうか?

たぶん、難しすぎる、あるいは簡単すぎる、くどすぎるなどという理由だと思いますが、一言でいうと「面白くない」ということにつきるような気がします。

「勉強になりそうだ」という本は、残念ながら、たいていは面白くありません。

私は、すでに還暦を過ぎました。もう時間がありません!

残された貴重な時間で、Netflixも観なければいけませんし、猫も愛でなければいけませんし、ビールを飲んで昼寝もしなければいけません。

そういった素敵な誘惑に勝てる面白い本が読みたい! 楽しく勉強して、大きくなったら、立派な人になりたいのです!

・・・

ちょっと前に本屋をぶらぶらしていたら、この本が目に留まりました。

「読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術」田中 泰延 (著)

著者について
1993年株式会社電通入社。24年間コピーライター・CMプランナーとして活動。
2016年に退職、「青年失業家」と自称しフリーランスとしてインターネット上で執筆活動を開始。
webサイト『街角のクリエイティブ』に連載する映画評「田中泰延のエンタメ新党」「ひろのぶ雑記」が累計330万PVの人気コラムになる。

書きたいことを、書けばいい」じゃなくて、「読みたいことを、書けばいい」って、どういうこと?

私が読みたいのは、おかしくてお腹の皮がよじれそうなものや、反対に、思わず涙がこぼれてしまうようなものですが、もう還暦をすぎて頭が働かないし(もともと働かない)、そんなもん、どんなに頑張っても(あまり頑張ったことはない)書けんわい!

そう思って立ち読みをしていたら、冒頭にこんなことが書いてありました。

「読みたいことを、書けばいい。」P1
自分ひとりのために、料理を作って食べたことがあるだろうか。
ここで、「ないです」と言われたら、この本は出だしで転んでしまう。そういう人は寝転がって読んでいただければ幸いである。いずれにせよ購入することが大切だ。

ん?

転んでしまったら、寝っ転がって読めばいいのね。

なんのことかさっぱりわからないうちに、いきなり背中を押してくれたので、買いました。

大変ありがたいことです。


自分の人生を生きるために書く

ネット上に文章をアップすると、いつか誰かが読んでくれて、なにがしかの反応があります。

「読みたいことを、書けばいい。」P114
「この人のギャグはすべっている」と批判してくる者もいる。しかし、すべるのがスキーだ。すべることもできない人間は、すべろうともしていないのだ。そんなスキー場の往復の交通費を無駄にするような人間は、相手にする必要がない。

スキーで、すべるのをたくさん練習すると、すべるのがうまくなります。

文章でも、すべり続けていると、やはりすべるのがうまくなってしまうのではないかという不安を感じなくもありませんが、まずは、すべろうとすることの大切さを教えてくれているのです。・・・たぶん。

私はこういう文章が大好きですが、amazonのカスタマーレビューを見てみたら、良い評価と悪い評価が真っ二つに割れていました。

読み手を選ぶ本かもしれません。

また、評価が良かろうが悪かろうが、評価の奴隷になってはいけないとも付け加えています。

noteでも「スキ」が少ないと、ときには書くのが嫌になってしまうことがあります。評価の奴隷になっている証拠かもしれません。

では、なんのために書くのでしょうか?

「読みたいことを、書けばいい。」P115
他人の人生を生きてはいけない。書くのは自分だ。だれも代わりに書いてくれない。あなたはあなたの人生を生きる。その方法のひとつが、「書く」ということなのだ。

評価を気にせず、自分の人生のために書くということですね。深い言葉です。

書くということを、そこまでの重みをもって考えたことはありませんでした。っていうかよく考えてみると、考えるのは苦手なので、軽みをもっても考えてなかったような気もしますが・・・。

このnoteは仕事として書いています。でも、この本を読んでみて、社長にこう言い放つ自信がわいてきました。

「私は私の人生を生きるために書いています。会社のためではありません!」

(こんなことを書いているのは、会社には秘密です)

あ、それと「スキ」や「フォロー」は大歓迎です。ちなみに、たくさんいただけると書く元気が出ます!


あふれるユーモア

一般的に、ブログを書く時は、たとえば「30代独身男性一人暮らし」などと読者のターゲットを設定し、そのターゲットに向けて書くことが大切だと言われています。

しかし、田中泰延さんはユーモアを交えつつ、次のように批判しています。

「読みたいことを、書けばいい。」P97
いわく「ターゲットを想定しよう」。「ターゲット」という言葉の下品さといったら相当なものだ。だいたい、「ターゲット」とはなんだ。射撃と文章を間違えてはいけない。「インスタ映えする写真」のような「ブログ映えする文章」みたいな指南もある。なんとかバエなんとかバエとか、おまえはショジョウバエかと言いたい。

鋭い指摘を笑いで包んでいて、うっかりすると、面白い部分だけが記憶に残ってしまう粋(いき)な語り口です。

これは? なんとなく落語のノリ?

落語は、笑いの中に人生の機微や知恵が詰まっています。
たとえば、こんな人情噺・・・

古典落語の名作「芝浜」のストーリー

酒好きで、なまけ者の魚屋が大金を拾い、「めでたい、めでたい」と飲んだくれたあくる日、女房に「おまいさん、お金を拾ったなんて夢だったんだよ」と上手くだまされ、改心して仕事に精を出し、いっぱしの店を構えることができた、という可笑しくも泣ける人情噺です。

最後に、女房に本当のことを打ち明けられ、久しぶりのお酒を勧められても、飲むのを思いとどまって言う亭主の言葉が秀逸です。

「よそう。また夢になるといけねえ」

田中泰延さんの文章も、粋でユーモアがあって、本質が詰まっています。

ひょっとしたら、「読みたいことを、書けばいい。 」は落語として楽しむべきなのでは!

・・・

つくづく、笑いは大切です。

哲学者でエッセイストの土屋賢二さんも、著書「われ笑う、ゆえにわれあり」の中で、こう言っています。

ユーモア精神は最終的には、自分を笑うことができる能力、苦境に立たされ ても笑うことのできる能力のことであろう。つまり、不幸を笑いに変える能力のことであろう。(中略)
「他人に笑われるような人間になるな」と言われることがよくある。わたしとしては、その逆に「他人に笑われるような人間になれ」、あるいはむしろ、「自分自身に笑われるような人間になれ」と言いたい。

ここまでの気持ちになれたら最高です。


「読みたいことを、書けばいい。」は名言にあふれている

「読みたいことを、書けばいい。」の中には、「他人に笑われるような人間」的な文章が随所にはさまれています。

「読みたいことを、書けばいい。」P73
なので今回は、全体のわずか98%程度に無駄な文章を散りばめることによって、なんとか1500円で発売することに成功した。良かった。わたしにも生活があるのだ。

もちろん、この部分はジョークですが、この本は名言にあふれています。

少しだけご紹介します。

「読みたいことを、書けばいい。」P33
偉いと思われたい。おかねが欲しい。成功したい。目的意識があることは結構だが、その考え方で書くと、結局、人に読んでもらえない文章ができあがってしまう。

私も5年間にわたって企業ブログを書いてきましたが、できるだけたくさんの人に読んでもらいたいという気持ちが先行し、かえってつまらない文章になってしまうことが少なからずありました。

この言葉が本質を語っていると骨身にしみてわかったのは、つい最近のことです。


うまく言語化できなかったり、説得力のある文章を書けなかったりするのは、現時点の実力のなさに原因があることが多そうです。

「読みたいことを、書けばいい。」P95
あなたは、まったくだれからも褒められなかったとしても、朝出かけるとき、最低限、自分が気に入るように服を着るだろう。文章も、それでいいのだ。

今書けるギリギリのところまで追い込めれば、それでよしとすればいいのです。


読んでくださる人が面白いと思ってくれるかどうかは、本当に未知数です。少なくとも、自分が面白いと思えるものを書くべきでしょう。

「読みたいことを、書けばいい。」P99
読み手など想定して書かなくていい。その文章を最初に読むのは、間違いなく自分だ。自分で読んでおもしろくなければ、書くこと自体が無駄になる。

私の少ない経験からしても、書くことが面白くて、テンションが高くなければ、いい文章にはなりません。


オリジナリティーについても言及しています。

「読みたいことを、書けばいい。」P102
「わたしが言いたいことを書いている人がいない。じゃあ、自分が書くしかない」
読み手として読みたいものを書くというのは、ここが出発点なのだ。

「読みたいことを、書けばいい。」の本質は、とっても難易度が高いような気がしますが、誰かが書いたものをマネしても意味がありません。


一番大切なのは、この言葉のような気がします。

「読みたいことを、書けばいい。」P185
愛と敬意。これが文章の中心にあれば、あなたが書くものには意味がある。


まとめ

勉強になって面白い本は、そうそうあるものではありません。

私は、全力で「読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術」田中 泰延 (著)を推薦します。

これは、名作落語でもあります。

ネタばれになるので書きませんが、オチが秀逸です。


もし、ためにならなかった、面白くなかったという方がいらっしゃっいましたら、こう言うつもりです。

「おまいさん、田中泰延さんの本を読んだなんて夢だったんだよ」


おあとがよろしいようで

・・・

片付けトントンは、noteもブログも商売っ気は少なめで、寝る前でもお読みいただけるように心がけています。ぜひ、ご覧ください。


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