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かすみを食べて生きる73:すべてがtになる

脳梗塞 発症2か月と10日目:リハビリ病院2か月目⑳
食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり訓練中。食事はミキサー食メインで今日初めてみじんとろみ食を試す。首を左に向けると飲める。食事以外の時間はスプーン飲みであれば水分を飲んでもよい。
状態:歩けるようになってきた。終日、館内フリー歩行自立。きょろきょろすると少しめまいがする。

本日、初の食上げ。
ミキサー食から一歩前進、みじんとろみ食をいただいた私は絶望した。

これまでの記録はこちら『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症2か月と9日目:リハビリ病院2か月目⑲
発症2か月と11日目:リハビリ病院2か月目㉑>

朝ごはん#16

おかゆアート:いちご

今日も朝はミキサー食
かわいくしたくていちごを描いてみた。
可能性は感じる。
献立はこちら。

  • 大根の甘辛煮

  • マンゴーペースト

  • ソフール

  • おかゆ

  • アイソカル100

大根の甘辛煮。食べやすいけど、旨辛煮より旨煮のほうが、朝食のメンバーとしてはありがたい。
でも味は濃い目なのでおかゆは進む。
所要時間、アイソカル込みで40分。
いいぞいいぞ。

すべてがtになる:お昼ごはん#29

久しぶりの粒のあるおかゆ

きたぞみじんとろみ食!!
具材ごとにみじん切りにされたおかずに、飲みこみやすいようにとろみがかかっている。
ミキサーと違って、見た目で食材がわかりやすい!
おかゆの粒が見える!
やっとここまできた。
献立はこちら

  • 卵とじ煮込みうどん(具)

  • 小松菜の煮びたし

  • 抹茶プリン

  • おかゆ

  • アイソカル100 1本

おかゆは全粥。
おかず2皿にはとろみがかけてある。
食べれるかな。
いただきます。

まずは小松菜の煮びたし。
お出汁のきいたトロミの中に小松菜。
とろみが強めで小松菜の味がわかりにくい。
のど通りは悪くない。
続いて卵とじ煮込みうどん(具)。
…ん?……あれ?
味が、小松菜と一緒。
とろみが同じ味だ。
とろみがかかるとかけられたものの味は弱くなる。
…これは…つらい…。
これまで1か月近くミキサー食で食感の変化は乏しくても、舌を澄ませて食材の味を楽しんできたところからの、とろみの海。
研ぎ澄まされた舌が大混乱。
すべてがとろみの味。

食上げの確認で横についてくれていた言語聴覚士の下浦さん(仮)と管理栄養士の竹中さん(仮)に訴える。
「とろみが、全部同じ味でつらいです…」
下浦さん(仮)と竹中さん(仮)は少し困惑したような顔をした。
訳のわからないことを言って申し訳ない。
二人は私が嚥下機能的に食べれるかどうかの確認のためにいるということはわかっている。
食べれるか、食べれないかで言えば、これは食べれる。
ミキサー食に比べたら、飲み込みに少し力がいるけど飲みこめている。
でも、これを毎日食べろと言われたら、それは無理。
全部同じ味のおかずとおかゆではつらすぎる。
このつらさをどう伝えればよいのだろう。

そこに看護師の早坂さん(仮)が来てくれた。
早坂さん(仮)は摂食・嚥下障害看護認定看護師さん。
全病棟を回って食事で困っている患者に、姿勢、食具、食事形態いろいろな角度から具体的なアドバイスをしていてるベテランさん。

早坂さん(仮)「どう?食べてる?」
私「食べれはするんですけど、味が全部同じで、つらいです」
早坂さん(仮)「そうやんなぁ、とろみなしでも食べれそう?」
私「ものによっては食べれそうですし、ものによってはとろみがあった方が安心かもしれません」
早坂さん(仮)は少し考えて管理栄養士の竹中さん(仮)に言った。
早坂さん(仮)「これ、みじん食にしてとろみの付いたお味噌汁を毎食つけることできないかなぁ。この人は自分でとろみがいるかどうかを判断できるから、おかずはみじんにして、必要に応じて自分でお味噌汁のとろみをつけて食べたらいいんじゃないかなぁ。どうやろ。できるよね?」
竹中さん(仮)「大丈夫…だと…思います」

あ…これは…偉い人のごり押しだ!
イレギュラーな対応は、調理側からしたら恐らく手間がかかる。
調理と、患者に接する看護師・セラピストの間にいるのが、恐らく管理栄養士さん。
組織の構造が、垣間見える。
早坂さん(仮)は私の食欲のために、ちょっとした面倒をごり押ししてくれようとしていると思われる。
竹中さん(仮)と調理の方には申し訳ないけど、ここは早坂さん(仮)の提案通りにしてもらえると、ありがたい。

早坂さん(仮)「じゃあ、そうしよう!」
私「ありがとうございますっ!」

こうして、私の明日のお昼はみじん食に自分でとろみをつける形になることが決まった。
目の前のごはんは頑張って食べる。
粒のあるおかゆは、とてもおいしい。
これまでミキサーがゆで鍛えられていた分、しっかり咀嚼すればいける。
ごはんの粒が口の中でばらけないように注意は必要。
抹茶プリンは飲みこみやすい。
デザートちょっとうれしい。

途中相談タイムも経て、なんとか完食。
所要時間1時間20分。
大変だったけど、大きな一歩!

手をたたこう

今日の作業療法は代打の綿谷さん(仮)。
右半身の感覚異常が気になることを相談。
感覚異常のある右手で久しぶりにやる動作をすると、ぞわぞわしたしびれが走る。

対策として、何かをする前に手をたたくことを教わった。
まずは身体の前で何度かたたいく。
両手を合わせるから、右手も左手も同じ感覚のはず。
目で見て確認。
次に背中に手を回して見えないところでたたく。
目で見て補正してた情報がない状態で、両手を打ち合う感触を確認する。
見えないと最初は左右で違う感じがする。
前でたたく、後ろでたたくを何度か繰り返すと、見えなくてもそこまで感覚の差を感じなくなる。
こうして手の準備をしてから慣れない動作に入ると、感覚異常も少しはましになるかもしれないとのことだった。

感覚異常のない左の情報と、視覚の情報、ふたつで右手の感覚の認識をサポートする。
感覚が少しずつそろってくるように感じるのが、不思議。

こうして私は病棟で、時々手をたたく患者となった。

夕ごはん#9

おかゆアート:お花

かわいさを求めてお花を描いてみたのに、どこか殺伐としてしまった。
お昼はおかゆに絵を描くことを忘れていた。
夕食は再びミキサー食。
献立はこちら。

  • すき焼き風煮

  • さつま芋のかか煮

  • おかゆ

  • アイソカル100 1本

みじんとろみ食を一度経験すると、ミキサー食がとても食べやすい。
楽に食べれる。味も楽しめる。
所要時間もアイソカル込みで40分。
平和なお食事だった。


ーー振り返って

あの日の早坂さん(仮)の提案を昨日のことのように覚えています。
もしあのタイミングで早坂さん(仮)が来てくれなかったら、しばらくはとろみの海にいて、食欲をなくして食べれなくなっていたのではないかと思います。

でもとろみが悪いわけではないのだと思います。
口の中でばらけやすい食材もまとめてくれて、飲みこみやすくしてくれます。
もしかするとミキサー食で鍛えられた私の舌が、異常に研ぎ澄まされてしまった結果、とろみの味に耐えれなくなっていた可能性もあります。
私がとろみ食を食べたのはこの日の昼食だけだったので、献立によっては異なるとろみの味を使っていたりするのかもしれません。
たぶんとろみでもおいしく食べることができる人はいて、あの時の私が食べれなかっただけなのだと思います。

ただ、飲みこむことができると、食べることができる、というのはまた違う問題なのだと思いました。

作業療法士綿谷さん(仮)から教わった感覚入力。
見える状態と見えない状態でこんなにも差があるものかと驚きました。
慣れてくるとその差もわからなくなるのも不思議でした。
今でも右の感覚の鈍さを感じる時は、体の前後で手をたたいています。

さて、明日のお昼はみじん食にとろみ味噌汁。
おいしく食べれますように。

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