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【かすみを食べて生きる 28 リハビリ病院1か月目⑤】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症26日目:リハビリ病院5日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。食事は鼻からの経管栄養。
・状態:歩行訓練中。日中、歩行器自立。終日、車いす自立。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければごく少量の水を飲み込める。

右半身がぞわぞわする感覚過敏でよく眠れず。
自主練中に気分が悪くなることもあった。

これまでのお話はこちら『かすみを食べて生きる 序文と目次』
発症25日目:リハビリ病院1か月目④
 
発症26日目:リハビリ病院1か月目⑥>


『新型コロナウイルスが憎い』

発症から26日目となったが、ここまで私の嚥下機能についての詳しい検査は見送られ続けている。
通常であれば嚥下障害と診断されると「嚥下造影検査(通称VF)」が行われる。
レントゲン室で、レントゲンに映る造影剤を混ぜた飲食物を飲み込み、のどから食道内を飲食物が移動する様子をビデオ撮影する検査。
これをやればどこがどの程度障害を負って、嚥下障害が起きているのかわかる、らしい。
急性期病院ではそもそも入院患者への嚥下に関する検査が見送りとなっていた。
リハビリ病院に行けば即検査してもらえるはずと意気込んできたのに、こちらも感染対策で入院2週間を経過しないと検査をしてもらえないことがわかった。

感染対策で家族との面会はできない。
発熱のたびにコロナ疑惑をかけられPCR検査を受けている。
さらに一番困っている嚥下障害の検査の邪魔までしてくる。
控えめに言って、新型コロナウイルスが憎い。

ICE BOXが来た!

夫と子どもが病棟受付まで荷物を持ってきてくれた。
お願いしていた服とICE BOXが入っている。
うれしい。
早速いただくと、クエン酸かビタミンの酸っぱさで口の中がキュッとなる。
おいしい。そのまま飲みこみたい。
しかしそれをすると溺れるので、ガーグルベースにそっと吐き出す。
すると夫からメッセージが来た。
病院のすぐ横で子どもが同じICE BOXを食べている写真だった。
一緒に食べたいねぇ。

食べたかったICE BOX

透明になりたくもある

同室の方2人が病室の入口で初めて遭遇して、立ち話をしている。
4人部屋だけど他の2人がどんな人だかわからない。
食堂でも見かけないし、ごはんはこの部屋で食べてるのかしら?と話している。
私はカーテンの中で、絶賛経鼻栄養でのお食事中。
チューブにつながれ動けない。
これは今カーテンを開けて挨拶をすべきなのだろうか。
「どうもーかすみ(仮)といいますー。
 脳卒中やりまして、歩くのと食べるのができなくなって訓練してますー。
 今これ(栄養ボトル)が私のごはんなんですー」
いや、これまた「かわいそうに」と言われるパターン。
こちらは必死でメンタルを上げてリハビリしてるのに、やたら「かわいそう」と言われるのはしんどい。
透明になって自分のことだけやっていたい。
私と同年代の患者は周りにいない。
どう見ても、私の父母、祖父母世代の方々ばかり。
その人たちからなんであんな若い人がここにいるのか、とじっと見られるのは気持ちのよいものではない。

でも先に病室にいた90歳越えという中野さん(仮)が気になるとおっしゃるのなら、次に会えた時こちらから挨拶はしよう。
どう考えても私が最年少。ひとまずこちらから挨拶しておいて間違いはないはず。
その後、私は同室の皆さんに廊下で会えた際に「ご挨拶が遅れてすみません」と挨拶と自己紹介をした。
知らないから気になるなら、知ってもらいに行く。
40代ともなるとそのあたりに抵抗はないから、それなりに生きやすい。
話してみれば、皆さん素敵な方だった。

そうだ、文章を書こう!

入院生活は暇なものというイメージだったけど、あまりにも毎日いろいろ起きる。
発症してからここまで、何も起きない日はない。
病状も変化していって、私の感情も日々揺れ動いている。
思いがけない体験。おもしろくもある。
この日々を、この感情を、そのまま流してしまうのはもったいないのではなかろうか。
そこで私は文章を書くことにした。
誰に向けたものでもない。でも誰かに聞いてほしかった事がらたち。
そして今日私は、この一連の文章の「序文」を書いた。
そのうち何らかの形で、誰かに読んでもらおう。


ーー振り返って

見送られ続けている私の嚥下についての検査。
早くやりたいと思いつつ、やってもやらなくても全力で訓練するのは変わらないな、という気持ちもありました。
いや、そうはいってもどの程度やられているのか、どの程度動くのかは知りたかったです。
結局私の初VFはリハビリ病院入院の3週間目に設定され、そこまでにミキサー食を食べれる程度の状態を目指す、という目標が立てられました。
今は1~2ml程度の水を飲みこむのがやっとですが、確度を上げて量を増やしていく必要があります。

病室内、みなさんカーテンを閉めているので、室内での会話はほとんどありませんでした。
すぐ目の前のカーテンの中の人がわからないのは、確かに気になるのかもしれません。
それなら自分から挨拶しに行けばいいのに、と思ったりしますがそこは年少者の役目と心得ました。

毎日意外と忙しいのですが、ここでメンタルを保ち少しでも楽しく生活するには余暇が必要だと思っていました。
何か新しいことを勉強しようか。何か資格を取る勉強でもしてみようか。
オンライン英会話くらいならできそう。
考えている中で、今はリハビリで新たなインプットを多く入れているので、できればアウトプットをしたいと思うようになりました。
そうだ。書こう。
急性期病院での22日間を振り返っても、誰かに聞いてほしかったことが山ほどあります。
忘れないうちに、書こう。
そうしてこの日の私が、この物語を書き始めました。
果たして私は「食べること」を取り戻せるのか。
結末はわからない状態で、まずは文章を書き溜める日々が始まりました。

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