見出し画像

【かすみを食べて生きる 42 リハビリ病院1か月目⑲】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症1か月と9日目:リハビリ病院19日目
・食事:嚥下訓練中のため、食事は鼻からの経管栄養。水分はスプーンの半分程度を一度に10口まで飲むことが許されている。
・状態:歩けるようになってきた。終日、館内フリー歩行自立。階段は上り下りでめまいがする。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければ1~2mlの水を飲み込める。

食事訓練をかけた嚥下造影検査まで、あと2日。
意外と人のことを気にかけていた。

これまでのお話はこちら『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症1か月と8日目:リハビリ病院1か月目⑱
発症1か月と10日目:リハビリ病院1か月目⑳>

私は激怒した。

昨晩、向かいのベッドの門田さん(仮)が夜中トイレに行った際に転倒したらしい。
転倒による大きなけがはなかったようだった。
門田さん(仮)は歩行器を使っているがまだ転倒の恐れがあるので、移動の際は看護師さんを呼ぶようにと理学療法士さんに言われていた。
ただ看護師さんは忙しくコールを押してもすぐに来てはもらえないため、門田さん(仮)は早々にコールをすることをあきらめ、黙ってトイレに行くようになっていた。

朝から、担当の理学療法士さんが来て、門田さん(仮)に看護師さんを呼ぶようかなりきつく言っていた。
次に検温の看護師さんが来て、またかなりきつく言っていた。
そして次に担当の作業療法士さんが来て、歩行器ではなく車いすを使えないか試したようだったが、この時にはもう門田さん(仮)は誰の言うことも聞かなくなってしまいうまく操作できず、作業療法士さんもそれではだめだと門田さん(仮)に言っていた。

門田さん(仮)の向かいのベッドでカーテン越しに、私は激怒した。
「そんなに門田さん(仮)を責めるなーー!!」
乗り込む勢いだった。
まだ一人から厳重注意ならわかる。
でも立て続けに3人からかなりきついことを言われている。
他のスタッフがどれだけ言っているか共有しているのか。
なぜ、門田さん(仮)がこんなにも怒られなければならないのか。

以前、門田さん(仮)が看護師さんに、
「トイレに行くときはナースコールを押してください!」
と言われて、
「じゃあ押したらすぐに来てくれるの?トイレはそんなに待てない」
と聞いているのを見かけたことがあった。
看護師さんは
「私たちも対応しているのは門田さん(仮)だけではないので、そんなにすぐにはいけません」
と答えていた。
看護師さんは悪くない。
そもそも決められた看護師配置では、重度の方も多い現場をカバーしきれていないと素人目にも思う。
でもこの答えは患者にとって、
「あなたはトイレをおむつでしてください」
と言われたのに等しい。
そこから門田さん(仮)はナースコールを押さなくなった。

なぜ、自分の尊厳を自分で守ろうとした人が、こんなにも怒られなければならないのか。
どうして門田さん(仮)がこの行動をとったのか、門田さん(仮)の気持ちをくみとって環境調整できることはないか、門田さん(仮)も入れてなぜ話し合わないのか。
ここに来るまでも何度も黄色信号は出ていたのに、どうして一方的に叱るのか。

来る人来る人全員に怒られ続けたら、門田さん(仮)も拠り所がなくなってしまう。
門田さん(仮)がひどく怒られ続けていることが悔しくて、私は怒りで血圧が上がりぐったりしてしまった。
そのあとすぐのリハビリで、作業療法士の花井さん(仮)はヘロヘロになっている私を心配して話を聞く時間を取ってくれた。

お風呂予約争奪戦

2日前に見守りなしでシャワーを浴びることが解禁になった私。
予約すれば、毎日シャワーを浴びることができるようになった。
朝、各リハビリの予定が伝えられると、1日の予定を紙に書いてどこにお風呂を入れるか考える。
浴室は2つ。介助や見守りが必要な方の入浴予定が先に入れられていて、残りの枠に入浴自立の人たちが予約を入れる
朝食後の8時50分ごろからナースステーションの横にお風呂予約表のクリップボードがカウンターに置かれる。
出来ればすべてのリハビリが終わった後すぐの時間、夕食までに洗濯も回せるタイミングで取れるとベスト。
でもそこは人気の時間帯。

激しい争奪戦となるかと思われたが、入浴自立の人たちは病棟内でも見かける機会があり普段から挨拶する間柄の方が多かったので、譲り合いながらの予約になった。
少し遅れて予約を取りに行って、リハビリ時間後の枠が空いてなく困っていた時。
「お、空いてないんか?」
患者の山村さん(仮)が声をかけてくれた。
「おれは風呂入るのに10分もかからんから、前でもいいで」
そういって後の時間を譲ってくれた。
ありがとう!助かります!
こうして譲ってもらったことがあるので、後から来た方が困っていれば同じように声をかけて譲る。
「時間が合わないようなら替わりますよー」
思いがけず、優しい世界だった。

ガリガリチャレンジ#7

まだ食べることができない私が、氷菓子を口に入れて味わいそっと口から出して(貴族食べ)、ガリガリ君の当たりを狙うコーナー。

がりがりさん7本目

いざ!

はずれ:その7

うん、やっぱりね。


ーー振り返って

この日は門田さん(仮)のリハビリが病室内で行われていたこともあり、私が自分のベッドに戻るたびに門田さん(仮)が怒られているのが聞こえる状況でした。
一か月前自分自身がおむつ問題に悩み、ここ数日で門田さん(仮)の人柄に触れて感情移入してしまいました。
さすがに関係者で話し合いがあったようで、次の日には門田さん(仮)が歩行器でトイレに行く際の見守りが解除されていました。

そして今私には数年を経て、壮大なブーメランが返ってきています。
現在子どもは小学生。
この子を叱り倒す日々を送っています。

どうして門田さん(仮)がこの行動をとったのか、門田さん(仮)の気持ちをくみとって、環境調整できることはないか門田さん(仮)も入れてなぜ話し合わないのか。

数年前の私のメモより

なぜできないことを叱ってしまうのか。
この子がなぜこの行動をとるのか、気持ちをくみ取って、環境調整できることはないか本人も入れてなぜ話し合わないのか。
自分に刺さりすぎて痛いです。えぐられます。
でも、一日中何度も何度も何度も何度も同じことを注意し続けているのに聞いてもらえないのはしんどい。
怒りもわいてくる。

あぁ、でもこれも叱ってても解決しないやつですね。
本人を変えるのでなく、環境を変える方がいい。
過去の自分からも学びはあるものですね。

お風呂予約、とても平和な世界だったのですが今思うとこの山村さん(仮)という患者さんの存在が大きかったです。
この方、病棟内の患者に広く声をかける優しくて楽しい方で、私も会うたびに声をかけてもらっていました。
病棟の雰囲気は医療スタッフだけでなく、患者さんも作ることがあるんだなぁなどと思っていました。

ガリガリ君、当たらないことに慣れてきました。



この記事が参加している募集

今日の振り返り

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?