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散文詩

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#日記

未来

永遠に愛されるもの

君が手に入れるはずのもの

それは目地の黒ずみであって

君の小説ではない

電脳街案内板、まだ目の覚めている君へ

僕らはいつだって、ぼんやりとした硬さの石を頭に抱えながら、忘れたふりして生きている。偏頭痛の電流が、たしかにその不安が眠っている場所を教えてくれる。

∴∴∴電脳半身浴∴∴∴

いんたーねっと中毒者の君へ

この世界は全部酸素不足で

息苦しさに終わりはない

この海へおいで

どうせなら甘い煙の中で

溶けてしまおう

 むかしむかし、街には掲示板があった。電信柱があった。高架下に落書きがあった

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僕だけの思い出

僕だけの思い出

昔住んでいた町の
自転車で少し行ったところに
大きな池のある公園があった
中学にあがって僕は引っ越したから
君と出会ったのはずいぶん後になるけれど
どうしてか、一緒に歩いた思い出がある

君の姿は高校生で
出会ったばかりの少女の君で
とびきりの笑顔で僕の横にいる
遠い、古い写真のような温かい思い出

本当の思い出も僕だけの思い出も
もうどちらも手が届かないのだから
そっと抱かせておくれ

あと少し

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神よ!

神よ!
どうしてあなたは
ガーベラの咲く花園に
彼女を一人残したのか

神よ!
おかげで私は
アスファルトを宛もなく
思い出を求めて歩かねばならない

「さようなら!」
溌剌とした声に振り向けば
花園の戸は閉ざされるその時であった

それが何を示すかも分からず私は
ぎこちなく笑顔を返すだけだった

神よ!
せめてあの戸を叩かせてくれ
叩かせてくれさえすればそれだけで
それだけで私は十分なんだ

対なるもの

対なるもの

河原のチガヤと自転車

補習ノートとガリガリ君

溶けた氷と背骨のくぼみ

サバの頭と転んだ箸

威勢のよいセミと夏のすべて

対なるもの

河原の鉄橋と自転車

サボったプールとガリガリ君

脂汗と背骨のくぼみ

甲子園ラジオと箸の一方

忘れた嫌悪と夏のすべて

対なるもの

河原の鉄橋と一万円

サボったプールと腕の痣

脂汗と喘ぐ息

甲子園ラジオと日常

忘れた嫌悪とカラス

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備忘録a、薄いピアス

 私は何者で、どこから来て、どこへゆくのか。
 待ちゆく人も同じである。どこから来て、どこへゆくのか、我々は徹底的に無知である。

 しかしながら、私達は出会う。出会うとそこには事実が生まれ、事件が起こり、その時初めて我々は感じる。

「生きているのだ、確かに、この時を。それだけは、疑いようのない…」

 今朝の夢で新たに知ったことが2つあった。唇にあけた薄いピアスに触れた時の危うい愛おしさ。そし

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予言、五月

五月 雨の翌日
夜空に遮るものなく 澄み渡る空気

都会の夜に星はいらない

窓を開け 椅子に座り まぶたの裏を通してじっと宙を見通す
静けさが生まれる

意思はまっすぐな風 音のない衝撃 群青の鈍い輝き
誰か見たものはいるか 見ようとするものはいるか
空を駆ける 秘めるべき使者の姿を

予感

私たちは世界に散らばる粒である

粒であると同時に波でもある

粒としてぶつかり、波として交わる

そうするうちに、夜、予感が芽生える時が来る

今夜は、女神に会える

身支度をし、森へ旅立つ心積もりをする

願わくば、実りのある巡礼であることを

戦士

届かぬ愛は秘匿するべし
然してその熱は何処へ征く

夢にて私は戦士となる
蛮族の装いで森から世界を睨む
護るは君
加護を受け信心を斧に宿らす

少女よ、どうか私に女神の祝福を

僕に詩は書けない。

僕に詩は書けない。
僕は裕福であるから詩が書けない。
僕は足りているから詩が書けない。
僕は凡庸であるから詩が書けない。
僕は利口だから詩が書けない。
僕は詩に恵まれていない。詩は僕を愛さない。

空っぽな心臓からカラカラと音がなる。
腰折るたびに落花生の殻が僕を笑う。

僕は学者になれない。
僕は頭が悪から学者になれない。
僕は社会に慣れているから学者になれない。
僕は器用であるから学者になれな

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ゼリー色。

夏休みの昼、なぜか君と二人で歩いていた。
空には大きな雲が浮かび、蝉の声が僕らを覆っていた。
無口な君と、学校の帰り寄り道して、ジュースを買って、
それなのに僕だけがどぎまぎしていた。

「ゼリー色」
「えっ」

水たまりに青空が写っていた。

「水だけど、水じゃないから、ゼリー色」

また君は歩き出した。

「明日はアイス買おうよ」

都合よく蝉が鳴く。
映り込む空はゼリー色。

全き死よ

死よ
全き死よ

万雷の喝采が
私を迎える

道端の日常より
唐突な裂け目が見開く

死よ
全き死よ

無味無臭の和音が
嗚咽を呼ぶ

膝をつく間も無く
あらゆる感覚は焦点を失う

死よ
いざ万来する







失ったものよ

失ったものよ

待ってくれ

行かないでくれ

気づけない私が悪いのか

それとも

過ぎ去ったものの美しさが

私の心を動かすのか

夏の夜の涼しさ

夏の夜の涼しさは四季を通じ参照されるのであって
寝床で感じられる手持ち無沙汰の代名詞である
いまは窓を開けようものなら凍えてしまうので
あの夜が羨ましい

日中に募る焦慮はついに爆発し
度を越した虚しさが仰向けの胸から溢れ出す
黒く重たいものが床に伝うと
同じく窓から入り込んだ冷気と触れる
すると両者は反応を起こし煙となって浮かんでゆき
窓を抜け星空へと帰ってゆく