古柳幽

創作小説|イラスト|夏と怪異

古柳幽

創作小説|イラスト|夏と怪異

マガジン

  • 誑し込むには十二分

    夏の甥と叔父。 ホラー/死体埋め グロテスク表現有。完結済み。

  • 短夜奇譚

    掌編小説集。 カクヨムにて投稿している「短夜奇譚」からお気に入りを抜粋。

  • 怪談

    短編ホラー集

最近の記事

【掌編ホラー】職人手作り★一点ものです★

 あのぬいぐるみさ……何?そう、お前からこの間貰ったやつ。王道なテディベア。こんなうだつの上がらない生活してる中年にプレゼントするもんじゃないとは思ったけどさ、そこじゃない。いやありがたいとは思ってるよ、だって俺の誕生日祝ってくれる奴ってそういないから。兄さんでさえ忘れてたからね、俺の誕生日。別に日付変わるときにおめでとうって言って、贈り物してほしいわけじゃないけどさ。特別されると嬉しいってだけ。だから怒るなよ。その辺はさ、強いて言うなら通知音で起こされてムカついたってくらい

    • 【創作小説】還る道

      前作「かくしごと」の続きです。完結。  あれから二年が経って、何事もなく大学生活を過ごしている。無事に内定も貰って、あとは卒業に必要な単位を無事に取得するのみになった。つまり、俺が心霊スポットに不法侵入したのも、叔父が先輩を埋めたのも、咎められることなく平穏に過ごせていたということだ。相変わらず死体は降ってきたけれども、汚いものを見せられる以外実害はなく、叔父に連絡を取ったことはない。  初夏のすでに夏らしさを呈する青空から熱を浴びせられている。肌寒かった朝の空気はどこへ

      • 【ホラー掌編】個性で済ませて

         音ズレてたの気づいた?そう、まあわかるよね。うん、そりゃ俺も気を付けたいけどさ……あればっかりは俺にもどうしようもないんだよ。自分の指だったらさ、矯正のしようがあるんだけど。勝手に生えてくるんだよね、ライブ中に。あとはお菓子食べてるときもたまにある。たまに生えてきてさ、弦押さえるんだよ。  心当たりって言えばね、こないだ弟が死んだんだよ。事故だったんだけどさ。あいつもギターやりたがってたんだよね、たまに俺んち来て弄ってた。ちゃんと弾いたことはないんだけど、やり方はちょっと

        • 【創作小説】かくしごと

          前作「同じこと」の続きです。  果たして叔父は数コール後に電話を取った。いつも顔を合わせるときには、愛想笑いなのかどこか陰のある顔で笑っている彼から想像できないほど不機嫌な低い声で、俺は要件を伝えるのも忘れ、一瞬怯んでしまう。 「都会っ子は寝るのが遅いね、何時だと思ってるんだ。成人したからって夜更かしするもんじゃないよ」  叔父は寝られるときはちゃんと寝なさいと恐ろしく真っ当なことを宣って、それから用がないなら切るよと投げ出すように言った。俺はそれを慌てて止めて、組み立

        【掌編ホラー】職人手作り★一点ものです★

        マガジン

        • 誑し込むには十二分
          7本
        • 短夜奇譚
          8本
        • 怪談
          2本

        記事

          【イラスト】先輩【誑し込むには十二分】

          これに出てくる先輩です。ちょっと出て落ちてしまった。不憫。

          【イラスト】先輩【誑し込むには十二分】

          自己紹介とかした方が良いんだろうか つぶやきの機能を知った深夜テンション

          自己紹介とかした方が良いんだろうか つぶやきの機能を知った深夜テンション

          【創作小説】同じこと

          前作「誰にも言えない」の続きです。 「父さん、叔父さんの連絡先って知ってる?」  ちょっとした用事で電話をしてきた父に、切られる間際そう聞いてみた。急用があるわけではないけれども、俺と同じ――死体が見えるひとだったから、一応、何かしら繋がりを思っておきたいと、ふと思ったのだ。 「そりゃあるけど、お前あいつとそんな仲良かったっけ?」 「ちょっとね」 「男同士の秘密ってやつか?そういうのがある年頃か」  なにを勘違いしたのか父は大仰に笑って、それから叔父の連絡先を教えてくれ

          【創作小説】同じこと

          【創作小説】誰にも言えない

          前作「落ちる、堕とされる」の続きです  酔って道端に落ちている人は良く見るが、死んでいるのを見るのは初めてだった。  死人は葬儀で見たことがある。あれは体裁を整えられていたのだなと、改めて実感した。驚いたように見開かれた両の目は白濁して、何かが見える状態ではないのに、こちらを見ているような気がした。焼き魚だとこんな感じだなとにべもないことを考える。棺の中で目を閉じられるのは、これを見せないためもあるのだろう。  夜を紛らわすネオンの張り巡らされたビルの谷間に落下したそれ

          【創作小説】誰にも言えない

          【創作小説】落ちる、堕とされる

          前作「死人に口なし」の続き。 ⚠️死体  目の前に、人間が落ちている。  道端で寝こけている酔っ払いではない。こんな、街灯もまばら、近くに何もない田舎道で、そんなことをする奴は居ない。少なくとも俺は、今までに見たことがない。  そもそもこれは、元々あったものではない――落ちてきた、のだろう。水風船が潰れるような音と共に。  高い建物などあるはずがない。何度も通った道だ。そんなものができたら気づく。工事中から、それ以前に計画中から、地域中で話題に上がる。そんなことは見な

          【創作小説】落ちる、堕とされる

          【掌編ホラー】度を越えれば迷惑に

           生徒職員その他諸々に人気のある同僚の国語教師はいつでも人が傍にいるような人たらしなのだけれども、たまに黒い影が隣に立っていたりだとか、肩口に長い髪が掛かっていたり、足元を青白い手に掴まれたりしていて、たまたま二人きりになったときに思い切って尋ねれば昔からなんだよと困った顔をするので、横から刺さる視線については今だけは不問にしようと思った。

          【掌編ホラー】度を越えれば迷惑に

          【掌編ホラー】気づいた本質、時すでに遅し

           昔から両親に先祖が見ているぞという励まされ方と脅され方をしていたので、いつも家の自分から離れた影になる場所や隙間から覗いている目は何代か前の先祖だと思って悪いことはしないしできなかったのだが、あるとき両親がまたその物言いをしたときにその目が見えなかったので、でも今は見てないよと言ったところ彼らは取り乱し始め、それがどんなものかいつ見えるのかということを根掘り葉掘り聞かれて不思議に思ったのだが、それからというものその目が段々近くに居るようになり、ついには鞄の中や学校の机の中な

          【掌編ホラー】気づいた本質、時すでに遅し

          【掌編ホラー】お暇なら一服いかが

           寝付けないのでベランダで煙草をふかしていると通りに白い服の女が立っていることに気づいて、そいつがこちらを見て手を振るので思わず振り返してしまったのだが、その途端、女の首が目の前まで伸びて柔らかく笑いつつ挨拶をしたと思うと他愛のない世間話を始めて、煙草を強請るので咥えさせてやるとまた微笑んだので、良い話し相手が見つかったと思いつつ、今は盆だと気づく。

          【掌編ホラー】お暇なら一服いかが

          【掌編ホラー】よその縁、家のうち

           父の実家には母屋にあるものとは別に物置になっている離れにも古びた仏壇があってそこにもきちんと位牌とそれなりの供え物なんかが置いてあるのだけれど、そのそばに無造作に置かれている遺影写真に映るうちの家系に似ていない気のする見たこともない人たちの顔が皆母屋の仏間に並んでいるものよりも断然若く見えるのが気になったのでそれが誰のものなのか叔父に聞けば、お前には関係ないのだから気にするなと優しい口調の割に二度目は聞かせないような物言いで、最後にはあまり近づくなとも言うので逆らわない方が

          【掌編ホラー】よその縁、家のうち

          【掌編ホラー】虚像と相反する実像の本質および末路

           兄が彼女を紹介するというので彼がひとり暮らしをしているアパートへ菓子折りを片手に行ったのだがそこには兄一人しか居なくて、さも隣に誰かが居るかのように話す兄に何と切り出そうかと考えたまま居心地が悪くなった俺は適当な理由をつけて逃亡を図ったのだけれど、玄関先まで送ってくれた兄の横の鏡越しに白い足とスカートが寄り添うように立っていたので、俺はもう二度と兄に会うことはないのだろうなという直感が頭をよぎった。

          【掌編ホラー】虚像と相反する実像の本質および末路

          【創作小説】死人に口なし

           いつまでも渋っていた俺を乗せた車は昼頃には相変わらずなにもない田舎道を軽快に進んでいて、鼻歌混じりの母の独り言をBGMに、俺は揺られながら文字を追っていたせいで催した吐き気に緩やかな対抗をしていた。 「吐きそうだったら言えよ、シート汚したら掃除が面倒だから」 「吐きそう」 「もう少しだから頑張れ」  自分が言ったくせに一向にスピードを緩めようとしないどころか加速している父に苛立ったものの、全開の窓から入る生ぬるい風だけが頼りな俺はサービスエリアで買ったペットボトルの入っ

          【創作小説】死人に口なし

          【掌編ホラー】一本分の逢瀬

           煙草ですか。まあ、好奇心ですね。若気の至りってやつですよ、よくあるでしょう。あとは……先輩が吸ってたからですかね。大学の時の。  同じサークルに入ってて、酒も煙草もギャンブルもやる人でした。ダメなヤツ……って言ったらそうですね。でも喋ってるぶんには良い人でしたよ。  でも居なくなっちゃったんですよ、4年の夏でしたか。別に地元に帰るタイプでもなかったし、折角の休みだからどっか誘おうかと思ってたんですけど、連絡つかなくなってそれっきり。行方不明って話でした。放蕩癖、みたいな

          【掌編ホラー】一本分の逢瀬