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【中編】誑し込むには十二分(完結済み)

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夏の甥と叔父 ホラー/死体埋め グロテスク表現有
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【創作小説】誑し込むには十二分(1)「死人に口なし」

 いつまでも渋っていた俺を乗せた車は昼頃には相変わらずなにもない田舎道を軽快に進んでいて、鼻歌混じりの母の独り言をBGMに、俺は揺られながら文字を追っていたせいで催した吐き気に緩やかな対抗をしていた。

「吐きそうだったら言えよ、シート汚したら掃除が面倒だから」
「吐きそう」
「もう少しだから頑張れ」

 自分が言ったくせに一向にスピードを緩めようとしないどころか加速している父に苛立ったものの、全

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【創作小説】誑し込むには十二分(2)「落ちる、堕とされる」

前作「死人に口なし」の続き。
⚠️死体

 目の前に、人間が落ちている。

 道端で寝こけている酔っ払いではない。こんな、街灯もまばら、近くに何もない田舎道で、そんなことをする奴は居ない。少なくとも俺は、今までに見たことがない。

 そもそもこれは、元々あったものではない――落ちてきた、のだろう。水風船が潰れるような音と共に。

 高い建物などあるはずがない。何度も通った道だ。そんなものができたら

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【創作小説】誑し込むには十二分(3)「誰にも言えない」

前作「落ちる、堕とされる」の続きです

 酔って道端に落ちている人は良く見るが、死んでいるのを見るのは初めてだった。

 死人は葬儀で見たことがある。あれは体裁を整えられていたのだなと、改めて実感した。驚いたように見開かれた両の目は白濁して、何かが見える状態ではないのに、こちらを見ているような気がした。焼き魚だとこんな感じだなとにべもないことを考える。棺の中で目を閉じられるのは、これを見せないため

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【創作小説】誑し込むには十二分(4)「同じこと」

前作「誰にも言えない」の続きです。

「父さん、叔父さんの連絡先って知ってる?」
 ちょっとした用事で電話をしてきた父に、切られる間際そう聞いてみた。急用があるわけではないけれども、俺と同じ――死体が見えるひとだったから、一応、何かしら繋がりを思っておきたいと、ふと思ったのだ。

「そりゃあるけど、お前あいつとそんな仲良かったっけ?」
「ちょっとね」
「男同士の秘密ってやつか?そういうのがある年頃

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【創作小説】誑し込むには十二分(5)「かくしごと」

前作「同じこと」の続きです。

 果たして叔父は数コール後に電話を取った。いつも顔を合わせるときには、愛想笑いなのかどこか陰のある顔で笑っている彼から想像できないほど不機嫌な低い声で、俺は要件を伝えるのも忘れ、一瞬怯んでしまう。

「都会っ子は寝るのが遅いね、何時だと思ってるんだ。成人したからって夜更かしするもんじゃないよ」

 叔父は寝られるときはちゃんと寝なさいと恐ろしく真っ当なことを宣って、

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【創作小説】誑し込むには十二分(6)「還る道」

前作「かくしごと」の続きです。完結。

 あれから二年が経って、何事もなく大学生活を過ごしている。無事に内定も貰って、あとは卒業に必要な単位を無事に取得するのみになった。つまり、俺が心霊スポットに不法侵入したのも、叔父が先輩を埋めたのも、咎められることなく平穏に過ごせていたということだ。相変わらず死体は降ってきたけれども、汚いものを見せられる以外実害はなく、叔父に連絡を取ったことはない。

 初夏

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