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【重版記念】僕のマリさんインタビュー|常識のない喫茶店

2021年9月に僕のマリさんの商業デビュー作『常識のない喫茶店が発売されました。著者が実際に働いている喫茶店で起こる悲喜こもごもを、時に辛辣に、時にコミカルに描いたお仕事エッセイです。発売以来、読者からの熱烈な感想を多数いただいており、2週間と経たずに重版が決定。本稿では、重版記念としておこなった著者インタビュー(担当編集との雑談)を公開します。

[聞き手=担当編集・天野/収録日=2021/9/29]

常識のない_POP

(POPデザイン=木庭貴信)

同僚たちの反応

――『常識のない喫茶店』の書籍化、そして早速の重版、本当におめでとうございます。

僕マリ こちらこそ、本当にありがとうございます。

――お店の方々も読んでくれているのですか?

僕マリ みんなお店で買ってくれたようです。

――みなさん本書の「登場人物」でもあるわけですが、どんな反応をされたのでしょう。

僕マリ おめでとうって、喜んでくれています。特に、本に何度も登場するしぃちゃんは、この本を読んで「自分いいかも」と思えたと言ってくれました。

――とてもいい話じゃないですか。それは嬉しいですね。同じく本書に何度も登場するマスターも読んでくれたのですか?

僕マリ マスターはあまり本を読まない人でして。しかもインターネットも見ない人だから、連載も読んでないと思います。

――そうなんですね、いちばん書きたい放題の人物だったから気になっていました(笑)

僕マリ あはは、書籍版でも好き勝手書かせていただきましたよ(笑)

はじめて本を出してみて

――実際、本になってみてどうですか? そろそろ実感がわいてきた感じでしょうか。

僕マリ そうですね、近所の本屋さんを何軒か見に行ったのですが、自分の本が置かれているのを見るのはやっぱり感激します。でも、特に嬉しかったのは、文フリ時代から応援してくれているファンの方が、「マリさんの書いたものをレジを通して買えるのが嬉しい」と言ってくれたことです。

――ああ、そうですよね。文フリだと書き手から直接買うのが基本ですが、本屋さんのレジを通して買うことにはより「購入した」感がともなうのかもしれません。昔からのファンの方々が発売直後から感想をつぶやいてくれて、わたしも嬉しくなりました。

お気に入りの原稿は?

――連載時でも、書籍版制作時でもいいのですが、ご自身の中で手応えを感じた瞬間ってありましたか? マリさんがいちばん気に入っている原稿がどれか、聞いてみたいと思いまして。

僕マリ ええ、どれだろう。「お仕置きです」かなあ……。同僚のしぃちゃんが無礼なことをしてきた半グレを追っかける回なのですが、書き終えたときに、「これぞこの店の真骨頂だ」という手応えはありました。それに、この回がいちばん読者の方を勇気づけるような内容になっているじゃないかな、と思っています。

――そうなんですね。

僕マリ 言い返すだけでも勇気がいるのに、さらに追っかけていますからね(笑)

――しかも、他のお客さんもいるワンオペのときに(笑)

僕マリ もはやゼロオペ(笑)

――あはは。でも実は、わたしもこの回がいちばんのお気に入りでして。初稿を受け取ったときにもお伝えしましたが、しぃちゃんの「こっちは一人で頑張ってんだよ!!!」という叫びにちょっと泣きそうになったんです。マリさんはこの話を「笑い話」として書いているのですが。叫んだしぃちゃんもすごいし、従業員がこれを叫べるこの店も本当にすごいな、と。連載の第7回にあたる原稿ですが、「この喫茶店がどういう場なのか」がはっきり見えたのがこの回だったと思っています。

構成のこと

――ちなみに、マリさんって書く前にどれくらい構成を練っているのですか?

僕マリ うーん……わりと行き当たりばったりかもしれないです。でも、これは絶対に書くというエピソードだけは決めていて、たいていそれを最初か最後に置くことにしています。特に今回はウェブ連載だったので、書き出しが面白くないと読んでもらえないと思ったから、そこは気を遣いました。

――絶対に書きたいエピソード、あとは頭とお尻だけ決めて、埋めていくスタイルですか。

僕マリ そうですね、それが最も印象的なエピソードなので。でも、細部は覚えていなかったりもするから、同僚、それこそしぃちゃんとかと「あのときってどうだったけ?」みたいにLINEしながら、記憶の糸をたどっていく感じです。

――なるほど。なぜこれを聞いたかというと、マリさんの原稿って構成が独特だな、と感じていたからなんです。例えば、明確な起承転結があるわけでもないじゃないですか。

僕マリ ああ、確かにそうですね。

――一見脈絡なくエピソードが配置されていて、でも全体としてはまとまっていて、最終的にはカチッとはまって爆発するというか……。テトリスとかぷよぷよみたいな(笑)、パズルゲーム感があるなと、勝手に思っていました。

僕マリ 爆発!あははは、そうかもしれません。

――構成しすぎていないことが、良いほうに転んでいるのでしょうね。なぜこういうスタイルなのかが少しわかりました。

文体のこと

――さらに素朴な疑問ですが、マリさんってわりと古風な言い回しをしたり、通常なら開きたくなるような漢字を閉じて使ったりすることが多いでよね。あれは、あえてなんですか?

僕マリ え!そうでしたっけ。ぜんぜん意識してなかったです。

――例えばマスターの回(「いかれたマスター」)には「唖然」と「慄然」という言葉が出てきて、「唖然」はまだしも「慄然」ってひさびさに見たな、と思いました(笑)。あと「顰(ひそ)める」「捌(さば)く」とか、ここを閉じるんだな、と。最近の風潮として、良くも悪くも漢字を開こうとする傾向があるから、ちょっとめずらしいな、と思っていたんです。

僕マリ 「慄然」!使ってましたね……。文章が硬いというか、古風というか、そういうことを言われることは確かにあります。大学生のときに近代文学を専攻していた影響もあるのかもしれませんね。あと、やたらと漢字を開くのが好みじゃないというのもあります。

――開きすぎて逆に意味が通りづらくなったり、間の抜けた印象になったりすることもありますからね。これは本当に良し悪しですが。大学時代はどのような本、あるいは作家を読んでいたのですか?

僕マリ 学生時代は谷崎純一郎や田山花袋が好きで、読み込んでいました。特に好きだったのは江戸川乱歩で、時間を忘れるほどハマりました。そう考えると、エッセイを読み始めたのは卒業してから、ということになりますね。

――そうだったのですね。ちなみに、これを質問したのにも理由があって、実は連載終盤にマリさんがこんなことをおっしゃったんですよ。「僕のマリって名前だと、ナメられませんかね?」って。

僕マリ ああ~、そんなこともありましたね(笑)

――そのときは、あと少しで最終回というタイミングで、しかも書籍版の打合せでもあったので、このタイミングで「名前を変えたい」とか言い出さないかと内心焦りました(笑)。でもそれを聞いたときに、この人は「ナメられたくない」からこういう文体にしているのかなと、自分の中でストンと落ちてくるものがあったんです。

僕マリ あははは!それはないですね、完全にないです(笑)

――ただの深読みで恥ずかしい……(笑)。でも、内容のキャッチーさに比べて文章が硬いというギャップが妙味になっているのは確かだと思いますし、個人的にも好きな文体なんです。

「僕のマリ」の今後

――さて、一冊本を出してみて、今後の活動予定や展望はあるのでしょうか。

僕マリ うーん……正直なところ、『常識のない喫茶店』で書きたいことをすべて書いてしまったから、今は空っぽな感じなんですよね……。何もない。

――え、でも、ライトハウスさん(本屋lighthouse)から11月に新刊が出ますよね?

僕マリ 明日、データ提出です(笑)

――それはちゃんと頑張ってください(笑)

僕マリ 間に合うかなあ……。でも、今年は年末にかけて生活環境も変わりそうなので、しばらくはぼんやり過ごしながら今後の展開を考えていきたいと思っています。

――そうですか。いつか『常識のない喫茶店2』も出したいですね。

僕マリ 機会があればぜひぜひ。

――最後に伝えておきたいことはありますか。すでに読んでくださった読者と、これから読むかもしれない読者に向けて。

僕マリ 『常識のない喫茶店』を読んでくださった方々に、この場を借りてお礼申し上げます。みなさまが温かいコメントを寄せてくださったおかげで、重版が決まりました。本当にうれしいです。もしこの本に興味を持った方がいらっしゃったら、ぜひ手に取ってみてください。この一冊が誰かの勇気になれば、とても幸せです。

――今日は収録前にもかかわらず、ありがとうございました。

僕マリ こちらこそありがとうございました。ラジオに出るのははじめてなので、雑談できてよかったです。

注:この日は、僕のマリさんにとってはじめてのラジオ収録がありました。出演したラジオ日本「真夜中のハーリー&レイス」は10月3日(日)21:30に放送されます。
僕のマリ(ぼくのまり)
1992年福岡県生まれ。2018年活動開始。同年、短編集『いかれた慕情』を発表。同人誌即売会で作品を発表する傍ら、商業誌への寄稿も行う。
Twitter: @bokunotenshi_

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