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新刊速報【2023年8月版】|柏書房営業部通信

 柏書房営業部です。今夏は新型コロナウイルス流行の影響で中止になっていた花火大会の多くが復活するようですね(楽しみにしている/すでに楽しんだ方も多いのでは?)。会社近くの歩道橋には隅田川花火大会の開催中の車両通行止めの横断幕が先日まで掲げてあり、通りがけに見るたびに弊社でも何か打ち上げたいなあとつい遠い目をしがちです。さて、今月の柏書房の新刊は2点。誰の目にも見えるところにありながら、誰の目にも見えていないインドの広大なごみの町で生きる人々を活写するノンフィクション『デオナール アジア最大最古のごみ山』、従来の研究では説明にあわないために脇に追いやられてきた動物の雌の性行動の数々から性淘汰を捉え直す『ビッチな動物たち』です。


『デオナール アジア最大最古のごみ山』

ソーミャ・ロイ 著
山田美明 訳

【営業担当・里村から一言】
 
もしかしたらインドという国は、私たち日本人にとって近いようで遠い国の代表かもしれません。ガンジス川やタージ・マハルに象徴される壮大な景観、ダンスで彩られたインド映画、世界一を誇る人口、爆発的な経済成長とそれをもたらす高度なIT産業。ポジティブに語られがちなこうしたイメージの数々はどれも一面的なものにすぎません。インド、とりわけその最暗部に生きる人々がどのような日々を送っているのか、皆さんはご存じでしょうか? 本書はまさにそんな彼らの姿に迫ると同時に、彼らの生活がいかに私たちの生活や経済活動と地続きの問題であるかを明らかにします。

 舞台はムンバイ郊外に広がるごみ山・デオナール(Deonar)。日々運ばれてくる大量のごみは積もりに積もって、広さは東京ドーム30個、高さは20階建てのビルにも相当します。灼熱のなか悪臭たちこめるこの地に「くず拾い」として生きざるを得ない人々は、せっせと食べられるものや売り物になるごみを拾い集めてはその日暮らしの生活を送っているのです。(どこかで聞いたことがあるスラムの話ね)そんな皆さまの心の声が聞こえてきました。でも本当に知っていますか? 彼らがその足をガラス片や金属片、さらには注射針のような医療廃棄物で傷まみれにしていることを。引き取り手のない嬰児の亡骸までもが打ち棄てられていることを。そして、かくも凄絶で不都合な環境を前に当局がごみ山の管理に乗り出したとき、「くず拾い」たちは排除されるべき存在と見なされ、ついには一人の少女を悲劇が襲うのです……!

 グローバル化のうねりは世界中の人々を否が応でも結びつけてゆきます。グローバルサウスの雄として確固たる地位を築きつつあるインド。他ならぬその国にあり、19世紀末の帝国主義時代にその起源を持つデオナールは、植民地主義と資本主義という2つのグローバル化のうねりが生み出したひずみなのです。また、手に負えない放射性廃棄物や不法投棄の問題、女性への抑圧や新生児遺棄のニュース、国家的メガイベントの陰で行われるホームレス排除……こうした日々の国内ニュースを思い浮かべたとき、これってデオナールの光景とグロテスクなまでに同じではありませんか。まさに著者が記すとおり、本書は「デオナールのごみ山地区や、その長い影のなかで暮らす人々に関する物語であると同時に、どこにでもある物語」なのです。

 阿部海太さんの手がける装画は、どこか土気のある茫漠なトーンを基調としながらも、そこに生きる人々の尊厳を湛えた逞しい姿が強烈な印象を残すパワフルなものとなっております。目を引かれたあなた! それはデオナールからの呼び声かもしれません。

『デオナール アジア最大最古のごみ山』は下記のリンク先で試し読みを公開中です。ぜひ読んでみてください!

『ビッチな動物たち』

ルーシー・クック 著
小林玲子 訳

【営業担当・荒木から一言】
 もの心ついたときから、虫が好きだ。同級生の男子に「女のくせに虫なんか捕まえてらあ!」とつまらぬヤジを飛ばされ、一時は虫が苦手な女子を演じていた時期もあったが、最近ふたたび虫愛が再燃しつつある。

 今夏は久しぶりにクワガタを育てることにした。自宅のそばで捕まえた雄のノコギリ2頭。毎日観察を続けていたはずが、しばらく異変に気が付けなかった。ある朝、ゼリーを交換しようと蓋を開け、自分の目を疑った。

 入れた覚えのない雌がいる……!?

 私はしばらく固まって考えたが、どうしてもトリックの謎が解けない。ふつう、雄が雌のもとへ求愛しに行くんじゃないの!? そもそもどうやって入った!? 人間の支配のもと2頭の雄が暮らす小さな箱にたった一人で飛び込んできたこの雌は、私が知るどんな雌よりもしたたかに見えた。

 思えば、夏の虫捕りといえば無意識で雄を探していた。昆虫図鑑を開いても、大体は雄がドーンと大きく、雌はおまけのように隅に追いやられている。動物だってそう。雄は勇敢で積極的でチームをまとめあげる存在、雌はそれに寄り添い受け身でおとなしい存在、と言われてきた。人間は……?

 歴史に名を連ねる科学者たちは男性が大半を占め、同志の女性科学者たちは未だ無名のまま。「科学に携わる人間の側にも多様性が必要だ」と著者は言う。時代の価値観にゆがめられた目で、これからの多様性や共存を考えていくことはできない。先入観のない自然界から、我々が学ぶことは多い。

 『デオナール アジア最大最古のごみ山』『ビッチな動物たち』はともに8月24日(木)の配本予定です。

 来月の新刊は2点を予定しております。それではまた次回もよろしくお願い致します。


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