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新刊速報【2024年5月版】|柏書房営業部通信

 柏書房営業部です。先月の営業部通信にて「春がきました」と書いたのも束の間にわかに初夏のような暑さがやってきました。思わず「去年の今頃はこんな暑さだったか」という考えが過ってしまいますね。誰かと共通の記憶について「そういえばあれがあった頃じゃない」と話していると自然その頃の気候も思い出せたりするものですが、具体的なエピソードがないと意外と覚えていないものです。
 さて、柏書房の今月の新刊は3点。人類学者が「不要不急」のフィールドワークから考えた、「和をもって極端となす」日本社会の思考の癖、感じ方の癖『コロナ禍と出会い直す――不要不急の人類学ノート』、様々なものごとのあわいにとどまり、揺れながら考えるエッセイ集『共感と距離感の練習』、漢字のくずし字を学ぶことに特化しこれまでにない楽しさに浸からせてくれる『漢字を極める! 古文書解読ことはじめ』です。


『コロナ禍と出会い直す――不要不急の人類学ノート』

磯野真穂 著

【営業担当・里村から一言】
 朝、満員電車に揺られて会社に向かう。乗りあわせた男女が、右へ左へ揺れる。そんな彼らの表情は、マスクのせいでよく読み取れない。2024年春、マスクの理由は花粉か黄砂か。それでも、こうも大勢の人がマスクを着けていると、嫌でもあの日々を思い出す。
 5月新刊『コロナ禍と出会い直す――不要不急の人類学ノート』は、誰もが未知のウイルスを前に右往左往した、あの日々をふり返り、考える1冊だ。最期のお別れすら許さない病院、火葬すら立ち会わせない予防策、至る所に設けられたアクリル板、炎天下でも外せないマスク。今にして思えば、こうした多種多様な対策は一体どれほど有効なものだったのだろうか?
 ところで、「出版社の営業とは、どんな仕事なのか」、業界外の人にはあまりピンとこないらしい。かつて私もそうだったが、今ならわかる。各地の書店に足を運んで、あるいは電話をかけて担当者に新刊を案内し、店頭でのご展開・ご販促をお願いするのだ。本書もまた、そうして津々浦々の書店に並ぶことになる。しかし、じつを言うと、本書には一部、すこし厳しい(?)言葉も寄せられた。曰く、「タイトルに『コロナ』と付くのは……」「コロナにはもう、みんなウンザリしていて……」云々。
 こうした言葉を前に、私は声を大にして言いたい。「それでも、いや、だからこそ本書はひろく伝えるべきです!!」と。「自粛要請」「気の緩み」といった言葉で事態の原因・進展を乱雑に捉え、専門家ですら疑義を口には出せず、元から脆弱な立場にあった人々が「大切な命」といったフレーズの裏でリスクに晒された、あの日々――コロナ禍の日々。日本社会は、なぜ「行き着く先まで行ってしまった」のか。なぜ「和をもって極端となす」反応を取ってしまうのか。人類学の知見を駆使しながら、およそ3年にわたるフィールドワークをもとに、著者・磯野真穂さんと考える。コロナ禍が、目を背けたい苦い過去であることは否定できない。しかし、そのツケを未来に背負わせることがないよう、同じことを起こさないよう、私たちはもう一度コロナ禍に出会い直し、考えなければならない。もちろん、こうした声は一部であって、大きくご展開くださる書店のほうが圧倒的に多い。そんな書店員さんらと手を取り合い、確固たる信念のもとお届けしている本作、是非お手に取ってみていただきたい。

『共感と距離感の練習』

小沼理 著

【営業担当・見野から一言】
 今月の3点の新刊のうち、この一冊はエッセイです!タイトルは、『共感と距離感の練習』。
 自分と他人、個人的なことと社会的なこと、その境界線上に立ちながら、ゲイでシスジェンダー男性である著者が、「共感」と「距離感」のままならなさについて、日常的なエピソードをベースに描いたエッセイ集です。日本で「議論」され続けている同性婚訴訟、プライドパレードのあり方をめぐる様々な声、または世界で起きている悲惨な出来事について……。自分の意見がないわけではない、けれどそれをはっきり誰かに言えるような勇気や自信があるわけでもない……。そんなふうに迷ったり態度を保留にしてしまいがちな方に、ぜひ読んで欲しい一冊です。
 一方で、当事者の方や目の前にいる人の話をちゃんと聞かず、SNSなどで飛び込んでくる情報だけを見て、すぐに「わかる!」と言ってしまいがちな方にも、かなりおすすめです。かくいう私がすぐ「わかる!」を連発してしまうタイプの人間なのですが、この本を読んでからその言葉を発する前に、ちょっとだけ立ち止まって、もっと適切な言葉を探してみる……、そんなことを意識するようになりました。『共感と距離感の練習』は、新しい環境に慣れてきて(もしくはまだ馴染めずにいて)、ちょっと一息つきたいな、と感じている人にも、きっとやさしく寄り添ってくれるはず。ぜひお手に取ってみてください!

 下記にて「はじめに」を全文公開中です。小沼さんの文章、ぜひご一読ください。

『漢字を極める! 古文書解読ことはじめ』

小林正博 著

【営業担当・木村から一言】
 久しぶりの営業部通信がまわってきた。前回担当した1月刊行『密航のち洗濯-ときどき作家』はその後重版もかかり、多くの方に読んでもらえて正直に嬉しい。この間慌ただしい毎日が続いてきたが、ようやく桜の季節とともに新学期もはじまりようやくホッと一息つけたところでもある。
 世間では、気候も良いし、何か新しいことはじめてみたいと感じるのもこの時期ならでは。新しい趣味やスポーツ、生活習慣改善もよし。地域のボランティアも興味深い。まさに「ことはじめ」の時期だ。そこで今回ひとつおすすめの「ことはじめ」を紹介してみたい。

 今まで「古文書」に興味はあったけれど手を出したことがないという方は意外と多いのではないだろうか。または始めてみたけれど、やっぱり断念してしまったという方もいるはず。一念発起して身近にある文書をなんとかして読んでみたいというモチベーションに、ここで火を灯してみませんか。

 たしかに現代では使われていない「ひらがな」や「漢字」が多く、見慣れない文字がさらに「くずされた字形」で書かれている。うーん読めない。しかし全く読めないかといえば、同じ日本語であるのでバンザイお手上げとも言えない。ハードルが高いのか低いのかわからない。「古文書」はたしかに古いけれども、「漢字」と「ひらがな」で書かれているので、現代の知識を応用発展させれば十分に読めるようになる。その信念を少しでも持っている方に是非おススメしたいのが今回の新刊である。

 読めなかった漢字はどうやら効率的な覚え方がある。この本では解読の仕方を5項目に分けることで、広大な砂漠に放り投げられたような漠然としていた古文書漢字の世界が見事に区画整理されていく。闇雲に一つ一つ覚えるのではなく単漢字、特殊文字、頻出漢字、異体字、旧字、部首に分類することで、効率良くマスターできるのがこの本の特徴である。徐々に解読できてくると、次の漢字も読めるような気がしてくる。5月新刊『漢字を極める!古文書解読ことはじめ』生活のリズムにゆとりが生まれるこの時期に、気軽に楽しめる古文書解読書としておススメする。

『コロナ禍と出会い直す』『共感と距離感の練習』『漢字を極める!古文書解読ことはじめ』は、いずれも5月23日(木)の配本予定です。

重版のお知らせ

 『「役に立たない」研究の未来』が先月の23日に、『まとまらない言葉を生きる』が今月の16日にそれぞれ重版となりました! いずれも2021年に刊行されちょうど4年目を迎える書籍です。こちらもまだまだみなさんの手で開かれるのを待っています。この機会にぜひチェックしてみてください。

 来月の新刊は1点を予定しております。それではまた次回もよろしくお願い致します。


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