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強き美しき母に #7 第七章 空っぽになっちゃう

よもぎでございます。前回の更新からだいぶ時間が経ってしまいました。

連載第7話です! これまでのお話はマガジンから。

オンライン化が進み、帰省も気軽にオンラインでできる時代になりました。

今回は初めてのオンライン帰省で色々あったお話。

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季節は初夏。お盆は、帰省しないことにした。

感染症が猛威を振るっていたので、体が弱っているお母さんや高齢のおばあちゃんのところに行くのは危険だと思ったからだ。

あれだけ手術も抗がん剤ももういやだ! と言っていたお母さんだったが、なんだかんだ手術をすることになったとメールで聞いた。


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新着メール:お母さん
本文:手術来週の月曜になった。今回は手術した後抗がん剤もやるから入院長いみたい
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がんはやっぱり卵巣に転移していた。

元々良性の子宮筋腫を放置していたらしく、そっちもついでに取ることにしたそうだ。

確か胃を取った時もお医者さんに「ガンとは関係ないんですがリンパ節が腫れてたのでついでに取りました」って言われたな。

なんか、臓器色々だめじゃん。

体質もあるだろうけど、日頃のストレスって莫大なダメージになってるんだなぁと思った。

週7勤務を何年も休まず。そりゃ体のどっかが腫れるくらい、なんもおかしくない。


なんか、こう言っちゃ悪いけど、私的には胃の手術の時より全体的にあっさりしていた。

「山は越えた」というか、1回目の手術の時ほどの緊張感がない。

1回目の手術は「ガン」というものを宣告されて、ショックの中でドタバタと受けたからかもしれない。全記憶の中でもかなり深く刻まれている。


ただきっとお母さんからしたら、1回目から今までずっと苦痛は続き、抗がん剤で髪も抜け、肌や爪もボロボロ。やっとひと段落したところに、手術からやり直し。

これってかなり絶望的かもしれない。

もうやりたくないって、思うよなぁ。

胃を取って卵巣と子宮も取っちゃったら、内臓無くなっちゃうよ?

お腹の中、空っぽになっちゃう。

改めて思うのは、「人間って意外と色々なくても生きていける」。


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お盆休みは、実家の周辺に住んでいる親戚が本家に集まり、私や関東に住んでいるいとこは帰省しなかった。

「zoomでオンライン帰省しよう」

そう言い出したのは私。

私と、千葉に住んでいるいとこはそれぞれの自宅から。本家からは代表者のスマホで。

私のパソコンの画面に、懐かしいおばあちゃんの家が映った。

『おお、千秋映ってるじゃ!』
『すごいなあ、おーい千秋、元気か?』

新しい帰省方法に興味津々の親戚たちが一斉に話しかけてくる。

元気だよ〜、見えてるよ〜、と一人ずつ返事をしていく。


そうしている間に、少し遅れて千葉に住むいとこがzoomに参加してきた。

本家のお茶の間はより一層盛り上がる。

仕事どうしてるとか、ちゃんとご飯食べてるのかとか、春の健康診断どうだったとか、そんな話をした。

ふと、会話が途切れた瞬間。おばあちゃんの家のテレビの音だけが聞こえた瞬間を、私は狙っていた。


「そういえばお母さん元気?」


画面の奥の方でコーヒーを飲んでいたお母さんがチラリとこっちを見る。みんなも気になっていた話題のようで、あちこちで「そうだそうだ」と同意の声が聞こえてくる。

ほら画面に近づいて、ほら千秋と話せと促す叔母さん。

「なんも大丈夫よ、いいっていいって」

などと笑いながら、結局画面に近づくことも、手術のことを話すこともしなかった。

話すと長くなるし、どうせポジティブな話にはならないので、確かに多くを語らない方が場の雰囲気を保つために良い。お母さんはこういうところも計算していたんだろうか。

結局有益な情報は得られなかった。


画面の向こうでは親戚同士のおしゃべりに花が咲き、バックにはプロ野球中継。いつものお盆だ。

画面の一番奥、テレビの前では、お母さんが延々お菓子をつまんでいた。

いいぞいいぞ。お菓子でも果物でも、食べれるなら何でも食べればいい。

50kgを切らないようにとお医者さんに言われていたが、今のお母さんの体重は45kg。

幸い体重減少は落ち着き、45kgをキープしているらしい。

私より少し身長が高いのに、私より10kg近く軽い。「ダイエットしたい」だなんて気軽に言えなくなった。


本家を移す画面の片隅に、滅多に会うことがない叔父さんが写っていることに気付いた。お母さんの弟にあたる。

「公平、久しぶりだな」

小さい頃、周りがみんな叔父さんを「公平」と名前で呼んでいたせいで、今でも呼び捨てで呼んでしまう。

「おー、千秋元気か」

「陽菜、もう大きくなったべ? 何年生だっけ?」

「次中一だな」

「中一!? もう中学校なの!? 早い……」

陽菜は公平叔父さんの一人娘。陽菜が生まれた時私は小学校高学年で、病院まで会いに行って抱っこしたのを覚えている。あの子がもう中学生になるのか……。

「そういえば陽菜の話聞いた?」

画面越しのいとこが言う。何のことだかわからない。

「足の裏にできものできて、悪性なんだって。こないだ手術して取って、今入院してる」

「悪性……?」

小児がんというやつなのか。詳しいことはzoomでは聞きにくくて諦めた。

なんか、うちってこういう家系なんだなぁ。


                  ・・・


「そろそろうちら墓参りに行くから、切るよ」

本家の叔母さんが言う。

「待って! 写真撮ろう」

いつでも写真を撮る癖がついていた。スマホに入っているのはもちろんなんだけど、ふと見たいときに目に入るよう、お気に入りのものはプリントして部屋に飾っている。

本家の親戚一同が一つのソファ周りに収まる。シャッターは、私のパソコンのスクショで。

「いい? 撮るよー、3、2、1」

カシャっ。もう一回。カシャっ。

「はい、OKでーす。後で送るね」

『すごーい、便利だな〜』

まだリモートワークに馴染みがない親戚たちが感嘆の声を上げる。

すぐスマホに転送し、いとこたちのグループに送ってやった。

『じゃあ、うちら墓参り行ってくるから。またね〜』

これにて、オンライン帰省終了。かなりお手軽で、満足感もある。

写真も撮れたし、お母さんが元気なのも確認した。


いとこが病気だというのは新情報だった。クラウドファンディングを始めようかなと思った。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

私の部屋には、壁一面に思い出の写真が貼られています。旅行で買ったポストカードや恋人と行った水族館の半券と一緒に、家族との写真がたくさん。

年に数回しか会えないけれど、オンラインで顔が見れるのはいいですね。会えた時には、また思い出の一枚が増えますように。

【次回】第八話 二度目の正直


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