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2022年3月の記事一覧

【詩】黄昏

【詩】黄昏

厳かな雨音 波紋広がる 

四畳半の神殿で産まれた

夕焼けと夜空の間の子

微弱な陽光 柔らかな影

そこから抽出された 

一滴のいのち

赤と黒

朽ちる間際 揺れる視界

最後の閃き 火花散る オレンジ

濃縮した草の匂い 

辺りに立ち込める

願いが そこに詰まっていた

【詩】メロンパン

【詩】メロンパン

不躾に吹き抜ける風が

あの子の匂いを運んできた

メロンパンの匂いのする髪の色

強気な無知と無知からの劣等感が

香ばしい格子模様を描いている

彼女の口癖は”しょうがない”

仕様がない

使用がない

枝葉がない

どれかはわからないけれど

絶望していることはわかる

コンプレックスの結晶で化粧直しした彼女は

残雪のようにまばらなお粉が不細工で

そっと舐めると甘くてキンと痛い

大袈

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【詩】fly

【詩】fly

小蝿を疎ましく思わなくなったのは

咽び鳴く蝉の声で目覚めたあの日から

泳ぎ揺蕩う小蝿の群れは

今は亡きあの人のかたちをしてた

腕に塗りたての日焼け止め

絡まり込む小蝿が愛おしい

私はあの人を取り込むハエ取り紙

表皮だから

表面であり

表層だけれど

それでも嬉しかった

いつの間にか小蝿はほそびに変わり

私の本質の一部になってしまった

【詩】鏡の国のアリス

【詩】鏡の国のアリス

腕が痺れて目が覚めた

しんしんと指先に残る小波の残響を聞きながら

薄暗さと仄明かるさがスウィングする隙間を

怪盗の足取りで駆け抜ける

何十回も異世界への扉を開く

私は鏡の国アリス

読んだことはないけれど

それでも腕に乗った小さな毛の塊は

チェシャ猫のようで

なんとなく頭がクリアになった

【詩】故郷

【詩】故郷

曖昧なニュースに

町並みは遠ざかる

走馬灯巡る再会の日は一瞬で

不確かな足場は忽ち崩れ去り

復活の合図は偽りだったことを知る

目を瞑ると見えるあの景色

雨の日は晴れの日より躊躇いなく土筆をつめる

そんな凡庸さが孵化する前に

やらなければならないことがある

【詩】snow

【詩】snow

“美幸ちゃん“だったか

“美雪ちゃん“だったか

字は忘れてしまった

空の彼方から

雲雀の透き通る鳴き声が聴こえる

顔をあげると彼女がいた

いつも誰かが隣にいて

いつもみんなに愛されていた

こぼれ落ちる木洩れ陽のトンネルですら

彼女を祝福しているように見えた

美しい笑い声が印象的な女の子

神を信じ

神に踏み躙られ

それ故に

より一層神を信じていた

私たちは同じ寮に住んで

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【詩】rhyme

【詩】rhyme

影を踏むように韻を踏む

涙の影には透明な韻が響く

因果なき関係 結ぶ韻は

淫乱な狂気と

隠したいあの日

謎解く生命の輪

隕石が落ちてきたことは知っていても

潰された牛のことは誰も知らない

針穴の視界が

もどかしくて

悔しくて

張り裂けそうで

今日もまた

誰も彼もが韻を踏む

【詩】白昼夢

【詩】白昼夢

白日の果実は

薄汚れた灰色の果肉

濡れそぼった病を懐に隠し込む

強かな生命体

呂律が回らず

羅列が乱れる

お行儀良いのはもうなしで

不確かなビジョン

作り込んだのは自分

偽物を重ね過ぎて

本物が透けて見えて

泣けてくる

不完全な有性生殖

幼年期の終わりは始まりの合図

【詩】リフレイン

【詩】リフレイン

しゃっくりが出るように

あの人の名前が飛び出てくる

身体の奥底から湧き出る原子のカケラたち

喉をくすぐる連なりが音に変化しビートを刻む

心の誤作動から生まれるのがしゃっくりなら

痙攣する横隔膜は

心で言うとどの辺りになるのだろう

沸騰するお湯によく似た粒だった痙攣

もしこれと同じようなものだとしたら

いつか蒸発して何も無くなる日が来るはずだ

行き場を無くした熱がコロコロ笑う空焚

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【詩】new world

武装するオレンジ

脱走するニューカマー

あの日“居場所はなかった“と

歌っていたのはどこの誰?

思い出せない

反転する魂はベヘリット

拐われた魂は

あの日の私を置いていく

過ぎ去りし過去の傷を

金継ぎで彩るのがマイブーム

ふざけんな

傷は疼いてこそ意味がある

“全て取りこぼしのないように“

完璧の外にこそ開く

ニューワールド

踏みしめて

再び思う

ココデハナイドコ

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