マガジンのカバー画像

【短編小説全12話】私と僕と夏休み、それから。

12
初めて投稿した短編小説です。 【あらすじ】 地元の高校に通う高校1年生の中村キコは、同じクラスで同じ委員会になった男子生徒から、突然「大っ嫌い」と言われる。しかし、なぜそう言われ…
運営しているクリエイター

#創作大賞2024

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第11話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第11話/全12話)

緑は酔っぱらうと、時折、離れ離れになった娘の話をする。
そして頻りに謝る。ごめん、ごめんと。シオンはこんなにも緑に思われてるキコのことが心のどこかで羨ましかった。
だまって去ってしまったからまた会いたい、というのはシオンも自覚している本音ではある。しかし無意識に、「緑のために」どんな子に成長しているか確認したい、という気持ちがあったのかもしれない。
同じクラスになったのはもちろん偶然だが、計画通り

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第6話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第6話/全12話)

次に会えたのは、夏休みに入って2日目の午前中だった。
けん玉はまだ練習が必要だったので、今回は読書感想文用の本を読むだけだった。たったそれだけなのに、やっぱり楽しかった。
午後からシオンは部活があったため、それぞれ持ってきた昼ご飯を食べて解散となった。

シオンは天文部に所属している。
もともと、高校では運動部に入るつもりはなく、かといって帰宅部も味気ない。それだけの理由で入部したが、星について知

もっとみる
【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第1話/全12話)

【短編小説】私と僕と夏休み、それから。(第1話/全12話)

「大っ嫌い」

時は5月後半のよく晴れた日の放課後、2回目の美化委員会の全体会議の帰り。場所はもうすぐ教室の目の前の廊下。
渡辺シオンは突然立ち止まり、同じクラスで同じ美化委員会に所属する女子生徒の中村キコに、そう言い放った。
それまで二人は無言で教室に向かっていた。いきなりの発言にキコは自分の左を歩いていたシオンの方を向く。すると、シオンはいつものニコニコとした表情をしていた。
いわゆる満面の笑

もっとみる