御伽怪談短編集・第五話「犬を恐れる男」
第五話「犬を恐れる男」
予・宮川政運の父がまだ若かった頃、江戸の本所石原町に播磨屋惣七と言う人足の世話人が住んでいた。これはその男から聞いた体験談である。
晴れた秋の日のこと。そろそろ紅葉が色づいて、落ち葉も舞う季節。惣七たち数名が両国からの帰り道に、ひとりの男が近寄って来たと言う。
「どこへ参られまするや?」
声をかけたのは痩せた貧相な男であった。顔は嫌な感じであったが、着物は新品のようで、糊がきいてパリパリしていた。言葉は下町の江戸弁などではなく、なんだか丁寧な印