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金縛り

2023年のある夏の晩だったと思う。その日私は疲れていたのか、前日寝ていなかったのかよく覚えていないけれど、とにかくいつもより早く床に就いたことだけは確かで、ベッドの上に転がったのが大体8時を少し過ぎた辺りだった。その時金縛りに会った。目を開けたが寝返りが打てず、身動きが一切取れなかった。金縛りという現象が、脳の疲労によって正しく情報処理が出来ず、眠る直前の映像をほぼ完全に再現してしまう「リアルな夢」であることはあらかじめ知っていたからさして焦りもしなかったけれども、意識はあるのに体が動かないのはやっぱり不快である。しばらくして金縛りが解け体は自由に動かせるようになったが、もうそこから先は夢と現の境が判然としない。寝返りを打ち、布団をはだけて仰向けになっていると、窓を開けた記憶もないのに、枕の方向から風が吹いて来ている。風は部屋の天井辺りに滞留してびゅうびゅう吹いていた。風は感じたが寒くはなかった。風は特段熱くも冷たくもなく、丁度良い感じだった。私は自分が尋常ではない状態におかれているのは自分でよく分かっていたが、不思議と悪い気はせず心地好かった。風の中で私は目を閉じた。次に目を開いた時には多分現実だったと思う。あの風は夢だったと今では思うし、また風に吹かれている時も夢の中にいながら夢をみていると分かっていたと思う。しかし夢でも現実でもどうでもよかった。ただあの風が気持ち良かった。

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