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【絵から小説】 新しい部屋探し。

「これいいな…あ、ここもいいかも」

とある住まい探しのサイトをスクロールしながら、ついひとりごとを呟いていた。

あの、緑のモフモフした宇宙人がキャラクターの不動産サイトには、わたしが入力した条件にマッチした『鎌倉』の賃貸物件が、50件ほど表示されていた。

ひとつひとつ物件をクリックしては、間取りや写真を眺めて、“お気に入り”ボタンを押していく。

“鎌倉に住みたい”
突然そう思い立ったのは、ほんの2週間ほど前。

「今の家から引っ越さないと結婚できないかも」

登録して1ヶ月が経ったマッチングアプリのメッセージのやりとりも面倒になりはじめ、このままだと結婚どころか彼氏すらできないのでは…と不安に襲われた時に、ふとこう思ったのだ。

引っ越さねば、と決めれば早いもので、

・リモートワークなので都心じゃなくてよい
・自然の近くに住みたい
・自然なら海よりも山が好き
・でも都心へのアクセスは良いところがいい
・家の近くは栄えててほしい

などとわがまま放題に考えた結果、地理にあまり明るくないわたしは、知っている地名の中から『鎌倉』が最適なのでは!と結論づけた。

今は都心で暮らしていて、この部屋には、かれこれ10年住んでいる。

大学入学と同時に上京したときからこの部屋に住み始め、なんやかんや住み心地が良く、就職してからもずっと居座り続けていた。

・JRも地下鉄も使えて、どこへ行くにもアクセスが良い。
・新築で入ったので綺麗で設備も良い。
・近隣の治安が良い。
・エレベーターも宅配ボックスも24時間ゴミ出しもオートロックもある。

挙げればキリがないほど条件が良く、引っ越す理由がなかった。

でも、そんな家で暮らして、もう10年。

大学生から社会人になって、まわりの環境は大きく変わった。

だけど、おかしなことに、未だにわたしはひとりでこの部屋に住んでいる。

この10年の間に、彼氏も何人かできた。
いろんな男性とも出会ってきた。

だから当然この家には何人かの男性が訪れている。
いずれも美化できるような記憶ではないので丁寧に思い出すことは避けるが、まあ10人くらいは来ているだろう。

ただ、そんな脆い男女の関係はいつもあっけなく終わっていった。

その度に傷つき、枕を濡らして眠りにつく日々を繰り返したこの部屋とは、そろそろ決別したいし、しなくてはならない。

どうやら結婚願望に反して彼氏すらいない今の状況に焦ったわたしは、
「部屋を変えればこれまでの負の連鎖を断ち切って、結婚できる」
という半ばスピリチュアル的な思想に走ったようだ。

とまあ、そんな理由で決めた引っ越し。

しかし物件検索サイトで“お気に入り”に入れた物件を改めて見ていると、

・キッチンコンロがひとつしかない
・床の木の色が濃くて好みじゃない
・収納スペースが狭い
・エレベーターがない
・オートロックじゃない


と、欠点ばかりが気になって、ものの15分ほどで、「引っ越さなくてもいいかも…?」なんて考え始めている。


ああ、思えば男性に対しても、こうして欠点ばかり見てきた人生だった。

・学歴が低い
・ファッションがダサい
・ゲーム好きな人は苦手
・部屋のインテリアのセンスが嫌い

自分の価値観や理想を基準にして、その基準で評価しては、マイナス点をつけていく。

減点方式で採点した男性たちは、当然「“わたしの理想ではない”判定」になる。
しかし「“わたしの理想ではない”判定」の男性なんかに振られるのは癪に触るので、必死にその男性にしがみついて嫌われないようにする。

そして当然、男性はみんな逃げていく。

こんなことを毎回毎回繰り返してきた。
我ながら下手くそな恋愛をしているなあと思う。

おっと、部屋探しをしていたはずなのに、過去の恋愛を思い出して自分の嫌なところが見え、憂鬱な気分になってしまった。

結局、欠点ばかり目についてしまった物件をこれ以上見る気になれず、緑のサイトの画面を閉じた。

「まだしばらくはこの部屋にいようかな…。」

ふと、西向きの窓から夕日が差し込んでいた。
ベランダに出て、見慣れた景色を眺める。

この部屋から見る夕日は、今日も綺麗だ。



***

こまちさんの記事をきっかけに、清世さんの企画を知り、初めて小説を描いてみました。

普段わたしの記事を読んでくださっている方は、どこまでがエッセイでどこからが創作か、妄想しながら楽しんでいただけると幸いです。

清世さん、素敵な企画ありがとうございます!

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