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『カツカレーみたいに馬鹿で明るい子』を読む

たろりずむさんの私家版第一句集『カツカレーみたいに馬鹿で明るい子』を読んだ。

たろりずむさんは短歌界に彗星のように現れたと思いきや、ドゴーン・バゴーンと短歌研究新人賞、角川俳句賞といったでかい賞をかすめ、人気の公募や新聞歌壇でも入選を繰り返す謎の人である。少し後から俳句も始められ、俳句四季新人賞の最終候補に残ったり、新聞俳壇や各種公募に採用されまくり、勇名を上げ続ける八面六臂の活躍ぶりである。最新の語彙を駆使する先進的な句会の中でも最先端を行く、高円寺りぼん句会のオンライン投句参加常連でもあり、知る人ぞ知る、みたいな短詩界のすごい人だ。SNSの投稿も逐一面白いので、Xのフォロアーも何年も前から一万人を越えている。賞歴の凄さとは裏腹にとても謙虚なお人柄で、常に自分も見習いたいと密かにリスペクトしている。

たぶん気まぐれだと思うが、突如私家版句集を上梓された。ファンキーモンキーな驚きの句ぞろいな上、50円で買えるので、もし見つけた方は迷いなく買われるのがお得だと自信を持って断言する。ぼくは大阪の葉ね文庫さんで、昨日(九月五日の夜)買いました。

句集より

飛び降りる度に四月に戻される

校舎の屋上から、飛び降り自殺を図ったら、四月・新学期にタイムリープする。また飛び降りを図ったら、四月に、というループが起きているらしい、と読んだ。人気作『涼宮ハルヒの憂鬱』でも夏休みが延々繰り返されるというエピソードがあり、アメリカのSFテレビドラマ『スター・トレック』でも、時の繰り返しのエピソードがある。(シーズン5第18話「恐怖の時間連続体」)それゆえ現代においてタイムループものというのは決して目新しいものではないが、それを俳句でやってる作品には初めて出逢った。(俳句歴が浅いので、もし先例があったらすみません)17音で時の輪の中に閉じ込められる脅威、その作品のうちに含まれる物語の豊饒さに心服した。

婆さんが桃をまるごとミキサーに

恐るべき不穏をふくむ一句。東日本大震災から一年ほど経ったころ南雲吉則先生の「ごぼう茶若返り術」が人気を博し、世情不安の反動であろう、健康法ブームが勃発した。その一環として白澤卓二先生、通称シラタクのスープ健康法というのもあった。ミキサーでとにかく、野菜でも果物でも皮ごとつぶして、飲みんさい、ゆう長寿スキル(すいません、かなり雑に略しました)で、自分もヨドバシカメラ秋葉原店にミキサーを買いに走った口である。ミキサーにもピンキリあり、価格がピカイチのアメリカ製バイタミクスというミキサーが一番強力で当時大人気だった。その売りはアボガドを種ごと潰すというもので、「ア、アボガドの種って美味いんか?」とたじろいだあたりから、徐々に健康ブームに憑りつかれていた魂が我に帰ったのだった。婆さんもシラタクの健康スープ法に通暁していたがために「種ごと飲むほうが健康にいいんじゃ」と、桃をストレートにミキサーに投入したのか。また、桃から「桃太郎」を連想するブラックユーモア的な読解も、多数派として有り得るだろう。現代美術界の異端児・会田誠の若い全裸女性群をミキサーにかけるという危なすぎる絵画作品があるが、その手の不穏をも内包する、表の世界では決して評価されなさそうな仰天作である。

アクスタに囲まれてゐる鏡餅

アクスタとはアクリルスタンドの略で、タレントや人気アニメキャラをプリントしたファングッズとして流通し、今や認知度も広がっている。しかし俳壇の重鎮・宇多喜代子先生からは「ダメよ、略さないでちゃんとアクリルスタンドって書きなさい」と怒られてしまうかもしれん。たろりずむさんにはお子さんがいるので、正月の実景なのかもしれない。アクリルスタンドの美青年たちに包囲されてて、鏡餅も去年までの落ち着きを失い、居づらそうだ。冷や汗を額から垂れ流している、鏡餅のただならぬ緊張感が伝わってきて、ホームドラマチックで楽しい。

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