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【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜 第4話
第4話 飯屋
緑色のジャケットを手に入れて、ウィリアムは上機嫌だった。
早速ジャケットを仕事場に着て行って、お店をお勧めしてくれた女性の従業員に見せた。
「君に言われて早速作ってもらったけれど、どうかな?」
ウィリアムは襟を正す様にして聞いた。
「素敵です! とても似合っていますよ」
ダークブラウンのボブヘアの、アンナが笑顔で答えた。
アンナは29歳で、ウィリアムとは年齢は離れていたが仲が良かった。
すらりと手足の長いアンナは、いつも黒っぽい服をカッコよく着こなしていてスタイリッシュだった。
「オーナー、今度は髪型じゃないですか? せっかくカッコいいお洋服を買ったんだから、髪型までビシッと決めないと!」
ウィリアムはボサボサの髪をかきあげながら、
「どこかオススメのお店はあるかな?」と聞いた。
「ありますよ! ここもちょっと遠いんですけれど、人気のお店です。イケてるオヤジにしてくれると評判ですよ」
そう言って、店の名前を紙にサラサラと書き、ウィリアムに渡した。
「じゃあ、今度の休みにでも行ってみるよ」
と言ってウィリアムは受け取ったメモをしっかりポケットに収めた。
カランコロン。
店の扉についているベルが鳴った。男性の客が入って来て、空いている椅子に座った。
「あ、オーナー。来ましたよ。オーナーの憧れの人」
アンナは小声でウィリアムに話しかけた。
「なんかそれ、僕が恋愛感情抱いているみたいな言い方」
「あれ? 違ったんですか? 別に私は良いと思いますけど」
「いや、あんな風に、僕もビシッと決めてみたいな。と思っているだけだよ。僕はモテる人生じゃなかったからね」
「オーナーなら、良い人すぐに見つかりますよ」
「彼女が欲しい訳じゃないんだよ。特別な人が欲しいんじゃなくて、ただ、女性にキャー、キャー騒がれてみたいだけ。ほら、仕事だよ。注文取ってきて」
「は〜い」
注文をとって帰るとアンナは、
「やっぱりいつものコーヒーに、フルーツサンドだったわ」
と言って、コーヒーの準備を始めた。
オーナーの憧れの彼は、オリバー。年は29歳。目が綺麗な二重で薄い緑色をしていた。
柔らかなブラウン色のセンター分けの髪で、スラリと背も高く、爽やかな白いシャツを着ていた。彼はコーヒーとフルーツサンドを注文すると、持って来た沢山の資料をテーブルに並べた。すると何かぶつぶつ言いながら資料にチェックを入れたり、メモを書き込んだりし始めた。
「う〜ん。この場所は、そうだな……」
ぶつぶつと喋りながら、悩んでいる様子だった。
アンナはオリバーの元へと、淹れたてのコーヒーを運んだ。
テーブルに置こうとした時、
ガチャンッ。
アンナは沢山の資料に書かれている内容が気になって、あやまってテーブルにコーヒーをこぼしてしまった。
「うわっ! 資料が!」
アンナは慌ててカップを起こしたが、中身はほとんどこぼれてしまっていた。
「どうしよう! ごめんなさい!」
オリバーは急いで資料をかき集めた。
騒いでいる様子に気が付いて、ウィリアムがテーブル拭きを片手にやって来た。
「お客様すみません! アンナ、新しいコーヒーを淹れ直して来て」
アンナはペコリと頭を下げて、キッチンへと向かった。
急いで拭きあげたが、大事な資料は数枚コーヒーのシミでダメになってしまった。
「すみません。資料にコーヒーをかけてしまって。お洋服にはついてないですか?」ウィリアムは、オリバーの洋服に目をやった。
オリバーの白いシャツにもコーヒーは飛び散っていた。
「そんな事、どうでもいい。それよりこれが無いとルートが分からない。最後まで辿り着けない! どうしてくれるんだ」
と強い口調でウィリアムに言った。
「何か大事な地図だったのですか? すみません。地図でしたら、こちらでお調べ致します」
「その辺にある様な地図じゃ無いよ。これはあの森で、最後の扉に繋がる道筋の地図だ。それぞれの資料がとても重要なんだよ!」
「あの森の地図?!」
「昼食の時間も作業をしようと思っていた僕が、間違っていた。こんな事になるなんて!」
「……あれは都市伝説でしょう?」
「あの話は本当だ! 別の世界に繋がっている扉は本当に存在する! 僕は何年もかけて資料を集めたんだ!」
「実在する? まさか! そんなものが本当にあればとっくにニュースにでもなっているさ」
驚きのあまり、ウィリアムはコーヒーがこぼれてしまった事を忘れそうなくらいだった。いつの間にか、丁寧な言葉ではなくなっていた。
「都市伝説だと思い込まされているだけだ。良いさ別に、大抵誰も信じない」
「資料を集めてどうするんだい? まさか行くとでも? 危ないからやめた方が良い。あの森には獰猛な動物がいる。生きて帰って来た人がいないんだから。きっと喰われているんだよ」
「あそこにいるのは、そんなものじゃ無い。それに、まだ行けない。……あの森に行くには仲間が絶対にいる。まずは集めないと」
オリバーは独り言の様に、ブツブツとそう言いながら資料をまとめて鞄に突っ込んで帰り支度を始めた。
「なんであんな所に行くんだい? 死にに行く様なものだ」
「あなたには関係の無い話だ」
「……話次第では、私が仲間になると言っても?」
「先ほどまでバカにしていた様なあなたが仲間に? そんなに気軽に行く様な場所じゃ無い」
「あんたが心配なんだよ。無茶しかねない雰囲気だ。行方不明にでもなったら、あの時止めておけば良かったと、きっと後悔する」
「止められても、僕は行く。この資料が完成して、仲間が集まったらね」
オリバーは財布からお金を取り出して、テーブルに置いた。
「お金なんて、貰えない。むしろ、クリーニング代を持ってくるよ。……それと、資料を汚してしまったお詫びに、何か力になれる事があれば、いつでも声をかけてくれ。本当に大事な資料を……申し訳ない」
「もう良いよ。帰ってまた資料を元に書き直すしかない。クリーニング代なんていらない。では、失礼」
オリバーは代わりのコーヒーが来るのも待たずに帰ってしまった。
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