【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜 第16話
第16話
花がほとんど周りに見えなくなった所で、ジャンがリリーに話しかけた。
「あれ? 先ほどの花が無くなってきたね」
リリーは、引っ張っていたジャンの手を離し、思わずジャンに抱きついた。
「ジャン!! よかった! 心配したのよ」
オリバーもレジャーシートの上で眠ってしまっているウィリアムの頬を叩いてみた。
「おいっ! 起きろ!」
何度か強めに頬を叩くと、ウィリアムは叫びながら飛び上がった。
「うわぁああっ!」
「いったい、どれだけ寝れば気が済むんだ?」
そう言うと、リリーがウィリアムに言った。
「オリバーがずっと寝ているあなたを引っ張ってくれていたのよ」
ウィリアムはキョロキョロと周りを見渡し、何となく状況を察した。
「すまない。何だか途中まですごく楽しい夢を見ていた気分だよ。君たちに迷惑をかけるつもりはなかったんだけども」
オリバーは、ウィリアムを引っ張るのに使っていたレジャーシートを片付けながら、
「いや、良いさ。ただ僕の体力はかなり奪われたかな。君も裁かれないといけないかもね。人のものを奪うなんて重罪だろう?」と嫌味混じりで返した。
ウィリアムは何も言い返せず、ただ申し訳なさそうだった。
すると、ジャンが足をさすりながら、
「いたたた。なんか足や腕に傷がたくさんある」
と言って身体中のすり傷を見ていた。
リリーが、
「ジャンは足がもつれて結構こけたりしていたからね。傷だらけになっても痛そうにしていなかったけれど、やっぱり痛いのね。大丈夫?」
と言った。ウィリアムもそう言われて、
「そういえば、私も何だか背中やあちこちが痛いな」と自分の体を見ながら言った。
「きっと幻覚が落ち着いた今になって、他の感覚が戻ってきて痛みが出たんだろう。シートの上に寝転ばせて運んでいたからね。あちこち打っているのかもしれないね。君をかつげる程、僕には力が無かったからね」
ウィリアムは申し訳なさそうに、
「いや……まあ、このぐらい大丈夫だ。フワフワしていて不思議な気分だった。まだ夢の中にいる様な変な気分だ」と言った。
オリバーはシートをリュックに収め、
「これからまた、変な世界に入って行くよ。次は【強欲の森】だ。ウィリアム、君がまた特に危ないから気を引き締めて」と厳しい視線をウィリアムに向けた。
それから鞄から取り出した資料を広げて見ながら言った。
「どんどん進みたいが次の森に入る前に、この辺で今日は眠ろう。次はどこで休めるか分からない。寝袋を2つ持ってきているから、見張りをしながら交互に眠ろう」
ウィリアムは頭をかきながら、
「じゃあ、私は先ほどまで眠ってしまっていたから見張りをするよ」と言った。
「僕もそうするね。リリーとオリバーが休んで」とジャンも名乗り出た。
「まあ当然だね。そうさせてもらうよ」
オリバーは、荷物を下ろし、寝る準備を始めた。沢山の資料を鞄から出して奥にある寝袋を取り出した。
ジャンが資料に手を伸ばすと、その手をオリバーが払った。
「勝手に触らないでくれ。これを集めるのにどれだけかかったと思っているんだ」
「ちょっとは情報共有しておいた方が良いと思うけど」
「言っておくけど、この資料を持った僕と一緒に来られただけでも君たちは幸せだ。ありがたく思って欲しいよ。君たちはこの森に行こうと思い立っただけで何もしていないじゃないか。君たちだけで来ていたら最初の森でもう帰らぬ人となっていた所だよ」
ジャンとウィリアムはそれに対して、何も反論できなかった。
しかし、頭をよぎった疑問がジャンの口をついて出た。
「……それにしても、こんな資料どうやって集めたの? 誰も帰ってこない森って噂だけど。帰って来ていないなら、森の詳細なんてわかるはずないじゃないか」
「……いや、実際にはちゃんとこちらの世界に帰って来ている人はいる。けれど、それはほとんど知られていない。……なぜだと思う?」
「さあ? さっぱり分からない」
「まともに取り合ってもらえないからさ。行って帰って来た人なんてほんの一握りしかいない。森の話をしても誰も信じてくれないのさ。真実かどうかなんて証明する人が周りにいない、だからこの情報は、この街で変人と言われるような人、妄想癖があると言われるような人から仕入れた情報さ。実際に精神不安定な人も多かったしね。そう思われるのも無理は無い」
「そんな情報よく信じたね」
「もちろん、適当に聞いてまわったんじゃない。沢山集めた情報から、同じ様な情報だけをここには集めている。だから信憑性は高いと思うよ」
ウィリアムは、頷いた。
「ああ、色々見てきた今は、信頼している。とにかく今はしっかり休んでくれ。見張りはしておくから」
「そうさせてもらうよ。何かおかしなことでもあれば、いつでも声を掛けてくれ」オリバーは、簡易に作ったテントの中に入って行った。
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