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【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜  第6話 

第6話 オリバーの家
 
オリバーは家に帰ると、また資料を広げてメモをしたりブツブツと独り言を喋っていた。

リリーはオリバーの部屋にこっそりと入り、その様子を眺めていたが、とうとう声を掛けた。
「その森の地図は本物?」
オリバーはびっくりした様子で、声のする方へと振り返った。
「いつからそこに居たんだ? 勝手に僕の部屋に」
「さっきのお洋服屋さんで、あなたの事を見つけてついて来たの。あの森の地図を持っているって聞いて」
「……あの森に、興味があるのか?」
「そう! 私の名前はリリーよ。あなたは、オリバーでしょ? さっきのお店で名前も聞いたから。……ねえ、オリバー、その地図私にも貰えないかしら。……私、その森の扉の所まで行ってみたいの!」
「君が? ……君には羽根だってあるし、簡単に飛んで行けるじゃないか」
「そんなに沢山の資料を持っていて、知っているんでしょう? 正しいルートを通らないと扉には辿り着けないって。空から一気に扉には行けないわ」
「君は詳しいんだね。そうだよ。だから僕は何年もかかって正しいルートを調べたんだ」
「それがあればちゃんと扉にまでたどり着けるのね」
「……資料があってもたどり着けるかどうかはギリギリって所かな。リリー、君が興味を持った所で妖精界ではこの森に入るのは禁止じゃなかったのかい?」
「あら、知っていたのね。なのに飛んでいけば良いなんて。何も知らないフリして私をあしらおうとしていたのね!」
オリバーはリリーに冷たく返した。
「僕は妖精が嫌いだ。それに君にこの大切な地図を渡す理由が僕には無い」
そう言うと、オリバーはリリーに近寄り、じーっと羽根を見つめて、
「……君の羽根は、他の妖精と違うね」
と言った。
リリーは恥ずかしくなって、ふわりと逃げるように上に飛んだ。
オリバーは続けて、
「……森に行きたいんだよね? ……君が僕のこの森へ行く時の、仲間になってくれるって言うのなら扉の場所まで連れて行っても良いけどね」
「妖精の事が嫌いなのに? 何それ。それに私は一緒に行きたい人がいるの」
「じゃあ、その人も一緒でも良い! 本当は3、4人はいた方が良いからね」
リリーは少し考えて答えた。
「……それなら良いわ」
「ところで、君の一緒に行きたい人ってどこの誰なんだ?」
「さっきのお洋服屋のジャンよ」
「彼もこの森に興味があるのか?」
「……それは、多分」
リリーは、少し小さな声で答えた。
「まあ、良い。今度どうせ洋服を取りにまたあの店には行くからね。直接彼と話してみるよ。覚悟がない様なら、その人は連れて行けない。ピクニックに行くのとは訳が違うからね」
 
「分かったわ。……ところで、オリバーは何であの森に行きたいの?」
「……君に言う必要なんて無い。君は? 君こそ、なんであんな森にわざわざ行きたいんだ?」
「私は……生まれて来た理由を探したいの。私にも意味のあるものだったという確信が欲しい。もしかしたら、禁止されている森に何か答えがあるのかもしれない」
オリバーは少し無言で考え事をして言った。
「その為に、全てを無くしてしまう可能性もあるけれど、良いのか?」
リリーは、覚悟を決めた表情だった。
「私には、初めから何も無いから。失うんじゃ無くて、作り出すの!」
「……。どうなっても、僕は責任持てないからね。君自身で責任を持ってくれ」
 「ええ。もちろんよ」
リリーはたくましく、そう答えた。
 
 
 
 

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