見出し画像

【小説】 白(シロ) もうひとつの世界  第15話

第15話

それからジャスミンは家に来なくなった。
 
 
あの時、ちゃんともっと話をしていれば。
 
 
 
——いつだって、時が過ぎてから後悔する。
 
ただ笑って欲しいだけなのに。
言葉が出ずに、汚れてしまった僕の心だけが、一緒に過ごした時間の象徴の様に残っていた。
 
 
 代わりの様にリリーが窓から遊びに来る様になった。
 
「ジャン、今日もお仕事しているのね。本当に働き者ね」
「注文が沢山入っているからね。少しでも早く終わらせたくて」
僕は、とにかく仕事を進めた。なるべく集中して他の事を考えない様にしたかった。
 
ずっと集中して作業していたがお腹が鳴り、空腹だという事を知らせてくれた。体は正直だ。
「まだご飯食べて無かったの?」
「キリの良いところまで終わらせたくて。でもそろそろ休憩にしようかな」
「私がご飯でも作れたら良いんだけど……あの子みたいに、お料理は出来なくて」
「ジャスミンの事?」
「だって、いつも美味しそうなお弁当持って来てくれてるでしょ?」
「何で知っているの? 覗いていたの?」
「たまたま、見えただけ」
「遊びに来てくれたら良かったのに。ジャスミンも会いたがっていたのに」
「楽しそうにおしゃべりしているのに、邪魔したら悪いと思って」
「君が来たら喜ぶよ」
「そうかな」
「そうだよ。また、きっとジャスミンも遊びに来てくれるから、一緒に話でもしよう」
「うん」
「じゃあ、とりあえずご飯にしようかな。パンがあったと思うし、スープでも作ろうかな」
僕は立ち上がり、ご飯の支度を始めることにした。
リリーは僕の隣へ並んで飛びながら、首を傾げて僕に聞いた。
「お料理するの、見ていても良い?」
「良いよ」
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?