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数学の勉強に効果的なランダム学習

 中学校で24年間、数学を教えている間、ずっと「どうすれば生徒たちが効果的に数学の力を身につけられるのか」と悩んできました。特に中学校では高校への進学を目指している生徒が多いので、高校入試問題に対応できる力が必要になってきます。
 解き方や考え方をまとめた手書きの自作プリントを作ってみたり、夏休みなどの長期休業中に補充学習を企画してみたり、オリジナルの課題をやってみたりと様々な試みをしてきましたが、それが生徒の力につながっているとは到底思えず、自身の力量不足を何度も痛感し、反省、試行、反省のくり返しでした。

『脳が認める勉強法』

 そんな時に出合ったのがベネディクト・キャリー著『脳が認める勉強法』(ダイヤモンド社)です。脳科学や心理学などのエビデンスを基に効果的な勉強法が書かれており、試行錯誤で悩んでた私にとって目からウロコがボロボロ落ちる内容ばかりで、教員生活を支えるバイブルとなりました。その中に、数学において効果的であると断言している内容がありました。

(要約)
「インターリーブ」が数学の理解を深める
数学において問題の種類を判別し、適切な解法を選ぶ力が必要なので、練習問題には過去に習った問題を混ぜたり、問題の種類をランダムに混ぜたりするランダム学習が効果的である。
※インターリーブ:認知心理学で差し挟む行為のことをいう。

ベネディク・トキャリー,2015,『脳が認める勉強法』,ダイヤモンド社

 例えば、今、2次方程式を学習しているとします。多くの人は、教科書も問題集も授業で学習した順番に問題が並んでいるので、その順番にそって知識や技能を活用する勉強をしています。この場合、2次方程式という単元がわかっていて、かつ、その知識を使う順番が決まっているので、あまり考えず反射的に2次方程式の知識を活用して解いてしまうことになります。また問題集のページに「解の公式」などのタイトルがあれば、解の公式を使う問題だとわかった状態で解くため、知識を選択するという練習ができません。このように決まりきった知識を活用するだけの勉強法だと、高校入試などの知識を総合的に活用しなければならない問題と向き合った場合、どんな種類の問題でどの知識を活用すれば解けるかが判断できない状態になってしまがちです。文章問題があったとき、2次方程式を活用すればいいのか、連立方程式を活用すればいいのか、そもそも方程式の問題ではないのか、などの判断力は勝手に身につくものではなく、やはりそれらを区別できる問題を解く経験が必要です。
 その打開策としてこの本では、様々な種類の問題をランダムに混ぜ、頭の中で知識の取捨選択、知識の横断的・総合的な活用が必要な状況をつくることによって、応用問題に対応できる力が向上するというエビデンスを示してくれています。

私の実践から ~ランダム学習の活用~

 効果的とわかっているのであればと思い、早速、授業に取り入れてみました。それは、ランダムプリント学習の実施です。

・現在学習中の単元内容の問題を学習した順ではなくバラバラに並び替える
・過去に学習した問題(基本・標準レベル)を差し挟む(インターリーブ)

この2つの要素を軸にし、時折、

・出題方法をアレンジして別角度から知識を活用するような問題
・知識を総合的に活用する応用問題(入試問題など)

を混ぜたプリントを作成し、授業の開始時10分程度、実施しました。 
すると劇的に2つの変化が現れました。
 
1つ目は、生徒たちの確かな学力の向上です。

 ランダムプリントに慣れるまでは大変で、問題を解くのにかなり時間を要しましたが、継続することによって次のような成果が現れ始めました。
 ①前日に習ったことが翌日に思い出せないということが少なくなった。
 ②過去に学習した知識も忘れにくい状態になり、学習内容の定着が強化さ
  れ、いつでも活用できる知識が増えていった。
 ③様々な問題の種類の触れることにより脳内で知識が整理されていったた
  め、その知識を適切に選択し、活用する思考・判断のスピードが向上し
  た。
 ④初見の問題や新しい内容に対して、過去の知識を活用しようとする考え
  方ができるようになった。
など、もちろん個人差はありますが、ランダム学習の効果は覿面でした。

2つ目は、準備時間の増加です。

 授業終了後、その日の内容と生徒の反応を考慮して、次の時間のプリント作成します。

・その日の授業内容の問題をどのくらいの割合で入れるか?
・どの難易度の問題を作るか?
・過去の問題はどれを選ぶのか?
・過去の問題をどのくらい入れて、どのように並びかえるか?
・知識を総合的に活用する問題を入れるか?

などを考えながら作るのでかなり時間がかかります。また、

・授業中に実施するので10分程度で解ける問題にする。
・なるべく同じ問題にならず知識の使い方の幅を広げるように教科書の問題  
 をアレンジする。

なども考慮していたので、通常のプリント作りにくらべて軽く倍以上の時間がかかりました。

他の業務のこともあるので授業で実施するには、
ハイ コスト ハイリターン といった感じでしょうか。

家庭で行うランダム学習の提案

 家庭で個人的にランダム学習を行うのであれば、次のような方法が考えられます。

1. 問題集のページ数、問題番号をランダムに選んで解く

 問題集を最初はページ順で解いていき、2回目以降学習するときバラバラに問題を解いていけば、ランダム学習になります。ページをパラパラとめくって適当に指さしたところをやってみたり、乱数表を使ってページ数や問題番号を決めたり、いろいろと自分で楽しみながら工夫するのもアリだと思います。ちなみに、Excelで「=INT(RAND()*100+1)」と式を入力してコピペしていけば、1~100までの乱数を表示することができます。
※Excelそんなに詳しくないので式の説明はできません…

2. 高校入試問題などの総合問題に取り組む

 高校入試問題自体が知識を総合的に活用する問題なので、ランダム学習として取り組めます。自分の志望校の問題を解けば、高校入試対策になるので一石二鳥ではないでしょうか。
 
 とは言いつつ、やはり入試問題はハードルが高いと思います。基本・標準レベルの問題でランダムに混ぜられている問題集があれば1番いいんですが、お目にかかったことはありません。数学の勉強にランダム学習は効果的なのでどこかにそんな問題集があればいいんですが…。
「作ればいいんじゃないの?」と思いつつ、踏み出せない私です(蛇足)。


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