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『食べることは生きること』〜やせ性の息子が病院に行って目が覚めた話〜


【不登校中の体型の変化】


不登校中の中1の息子。

幼児の頃は、たくさん食べてほっぺぷくぷくの、可愛らしい普通体型。
小学校に上がってからアデノイドの影響か、少し成長が遅れ、小柄さんになりましたが、それでも成長曲線内に収まってました。

ただ、小3で不登校になってから朝起きれなくなったことで1日2食になり、もともと食が細いこともあり少しやせていることが気になり始めましたが、かかりつけ医に相談したところ、身長が伸びているから様子見で大丈夫、とのこと。

ずっと学校に行っていないため、ここ数年は身体測定をしておらず、時々家で身長体重は測っていましたが、やがて思春期になり、着替えやお風呂で自分の体を見せなくなりました。

そんな息子が、中学校に上がる4月あたりから、腹痛をよく訴えるようになりました。
食べたらお腹が痛くなり、下痢や便秘が続き、排便コントロールもうまくできず。
排便時にお尻も痛くて辛いからと、食べる量を少しずつ減らすようになった息子に、内心これはまずいな…と思っていました。

明らかに、足りない食事量。
普段から寒い、座っていても骨が当たって痛いと言うようになり、情緒も不安定になりました。

普段は「自分で治すから」と言って病院に行きたがらない息子に、もうさすがに自分達の力では厳しいからプロに見てもらおうと話し合い、かかりつけ医に行って地域で1番大きなこども病院への紹介状を書いてもらいました。

ここは長女が体調不良になった5年ほど前からお世話になっている病院。最終的には心療内科にも繋いでいただいて、今年WISCも受けました。
先生達も信頼できる方ばかり。また、総合病院なので、地域の病院に回されるより、もう最初からここにお世話になったほうが早いし安心。

心療内科と内科受診、両方受けられるようにと、激混みの心療内科の名前で紹介状を書いてもらいましたが、最初もらった連絡では混みすぎて1年待ちとのこと。先に内科に変えてもらおうかと思った矢先病院から連絡があり、心療内科の先生が予約をねじ込んでくれたとのこと。
本当にありがたい。


そして先日、初診を受けました。

【衝撃の身体測定】


まず、久々の身体測定。

身長と体重を一緒に測れる機械に乗り、帰って来た息子。

「何センチだった?」

「150センチ。」

「また伸びたんや。体重は?」

「25キロ。」


…25キロ!?


30キロを、ゆうに切ってる…
血の気が、引きました。
やせた、とは思ってたけど、
いつのまに、そんなにもやせた…!?

慌てて、平均体重をスマホでググりました。

もうすぐ息子は13歳。

平均体重 44.7キロ。

25キロは、7〜8歳児の平均体重。

完全な、管理不行き届き。


これは、本当にマズイ…。


【まずは心理内科へ相談】


驚きを抱えたまま、心療内科の診察前の心理士さんの聞き取りを受けました。
事前に提出したアンケートにも書いてはいましたが、この後とにかく内科へ繋いで欲しいとしつこいくらいにお願いしました。

その後、心療内科のH先生の診察を受ける息子。今までの経緯を聞き取り、とりあえず得意不得意を把握するために、後日WISC検査しようか、という話になりました。
そして最後に息子の体を診察し、ガリガリの体を触りながら、まぁまぁやな…と難しい顔。

消化器科の先生に相談するから待っててと言われ、待合でしばらく待っていると。
息子がトイレに行っている間に、私の所にH先生が戻ってきました。

「消化器科の先生に身長体重伝えたらびっくりされてました。お母さん、もうこれは入院前提の話になるので、そのつもりしてて下さい。
僕も並行してサポートしていくので、WISC等もいつにするかまた相談しましょう。」


入院。


1発アウトのレッドカード。

トイレから帰って来た息子に、現状は想像以上に非常事態で、入院はほぼ確定だと伝えると、それだけは絶対嫌だと言う息子。

でも、25キロやで。
もう自力でなんとかするのは無理やろう…。

入院するくらいなら、もうお腹が痛くてもご飯を食べると言う息子。

【消化器内科受診】



とりあえず、消化器科の先生の話を聞かんことにはなんとも言えないからと、こちらも激混みの中、待つこと2時間あまり。

ようやく診察室に呼ばれ、2人でドキドキしながら入って見ると、そこにいたのは私と同年代と思われる、チャキチャキしたイメージの女医さんの姿が。

そのY先生はひと言、こんにちは、と言ったあと、私達親子に向き合いました。

「H先生から聞かれているかと思いますが、〇〇君の今の体型はね、もう即入院レベルです。」

…そうですよね…。

それでも、息子は「入院」の2文字を聞いて、入院するくらいならお腹が痛くてもご飯食べるって言っていて…と話すと。

Y先生は、そう反応するのも想定内だったようで。私と息子に、何度も何度も脳に染み込ませるように、話を始めました。

【Y先生からの、大事な話】


「〇〇君は、食べたらお腹が痛くなったり下痢したりするからって、食べなくなったんやね。

あのね、普通は、多少お腹が痛くても、下痢をしたとしても、お腹が空いたらごはんを食べるものなの。だって、空腹は耐えられないものでしょう?
でも、今の君はそれが逆転してしまっている。
そのことがね、もう、普通じゃないの。

どこからか、先生はこれ、よく『アクマの声』って言っているんだけど。

〇〇くんは今『食べたらお腹が痛くなるよ〜、下痢するよ〜』って囁いてくるアクマの声に負けて、それに従ってしまっているの。
これはね、君の声じゃないの。どっからかわいて出てくるものなの。

『食べることは生きること』って、言うでしょう?

なのに、お腹が痛くなるから、下痢するから食べませんっていうのは、『お腹が痛くなって下痢するくらいなら、もう生きません』って言ってるのと、同じことなのよ。
よぉく考えてみて。
おかしいと思わない?

君は、お腹が痛くなるくらいなら、下痢するくらいなら、死んでも構わないよっていう行動を、今とっているの。


ここはね、大きな子ども病院だから、色んな病気の子が来たり、入院したりしてるんだけど。
中には白血病とか、小児がんとか命に関わる重い病気にかかっている子もいるわけね。
でもそれも昔に比べれば、白血病も小児がんも、薬や治療法が発達してきていて、今は治る病気になってきているの。

でもね。
『やせ症』は、本当に怖い病気でね。言い方は良くないかも知れないけど、ある意味がんよりもっとタチが悪いの。

小児がんは種類によるけど、治る病気。
でも子どもの『やせ症』は死亡率が本当に高くて、4人に1人が死ぬ病気なの。


「4人に1人が死ぬ病気」

ここで、息子が目を見開きました。
顔色が変わったのが、はっきりとわかりました。


「そう。今の君の状況は、それくらい危険なところにあるの。
だから、『下痢したくないから死ぬ』なんて、おかしな話でしょう?下痢することと自分の命、どちらが大事か、当然わかるよね。

何度も言うけど、『食べることは生きること』なんだよ。食べることを放棄する、ということは、イコール生きることを拒否する行為なの。
〇〇君は、死にたいわけじゃ、ないよね?」


こっくりと、頷く息子。


「あとね、入院することについて、なんだけど。
もちろん、入院生活は正直言って、楽しくはないと思うよ。誰だって、出来ればしたくないと思う。

ただ、いい面と嫌な面、両方あってね。

まぁ、嫌な面は、退屈だよね。
特にゲームし過ぎて生活習慣がガタガタになって…っていう場合は、最初からゲームやスマホの持ち込みは禁止。家みたいに自由には出来ない。
そこは、もう規則正しい生活を取り戻すまで仕方ないのよ。もちろん、付添はなくて、1人で入院。

〇〇君は小3からちゃんと学校に行ってないんだよね。習い事や塾にも行ってない。
だから必然的に、社会との接点がなくて、今は話す相手は家族だけになってる。

今は、それでもいいかも知れない。
でもね、よく考えて欲しいの。
君はこれから大人になっていく。そうすると、共に時間を過ごす相手は自然と、家族じゃない他人、要するに『社会』になっていくよね。

家族って、どうしても『暗黙の了解』で、言わなくても相手のことを予測して、色々やってあげちゃうでしょう?
でも、それでは、家にいるだけでは、本当の意味での『社会性』を身につけるのは難しいの。

もし入院したら、嫌でも君は1人で何でも家族じゃない『他人』に、自分の意思を伝えなくちゃいけなくなる。のどがかわきました、暑いです、寒いです、トイレに行きたいです…。

もしかしたら、同室になった年下の子がガチャガチャうるさくて、ケンカになるかも知れない。その時は、話し合いをしないといけなくなるよね。

あとね、ある程度体が元気になったら、たぶん院内学級に行ってもらうことになるの。
色んな子と交流したり、勉強したりしながら、その場でのルールを守っていくことを覚えていく。『社会へ復帰する準備』をしていくの。

だからね、入院することは悪いことばかりじゃなくて、自分が快適に生きるために、他人に自分のことを伝える、そして共存する練習にもなるのね。それが、入院の良い面でもあるの。」

だまったまま、静かにY先生の話を聞く息子。

【体はいつも、精一杯頑張っている】


「でもまあ、それでもやっぱり、入院はしたくないよね。それは先生もわかる。」

そう言うと、Y先生は普段の息子の生活内容の聞き取りを始めた。息子の話を聞きながら、静かな診察室に、カチャカチャと先生のキーボードのタイピングの音だけが響いています。


「そっか。一応、昼、夜は食べてるんだね。別にやせたいと思ってるわけじゃ、ないんだ?」

むしろ、肉をつけたいと思ってる、と答える息子。最近のやせ過ぎた自分の体型を見て、さすがに怖くなったと。


Y先生が、ちょっといいかな?と言って、息子の体を診察する。なるほど…とつぶやいた後。

「〇〇君、あのね、何度も言うけど、体はもうギリギリの状態で命を保っているのね。

たぶん今は、先生が色々話してるけど、あんまり頭に入らないと思う。それはね、エネルギーが枯渇して、脳まで行き渡っていないから。

体がね、もうカラカラなんだよ。普段から寒いって、言ってたよね。今体を診たけど、まぁ年頃のこともあるけどね、でも普通はあんまりないところに、うぶ毛が、体全体にうっすら生えてるのね。
これは、体がなんとか寒さから身を守ろうとしているからなの。

体は、もう必死なんだよ。

『お腹と背中がくっつくぞ』っていう歌、知ってる?昔だから知らないかな?(笑)
まさにあれに近い状態になってるの。

普通はね、体の中には内臓脂肪があって、臓器と臓器の間に隙間があるのね。でも〇〇君はやせ過ぎてるからそれがほぼなくて皮だけで、体の中に臓器がぎゅうぎゅうに詰まってる状態。圧迫されて、縮こまってしまっているのね。

食べたらお腹が痛くなるのも、恐らく腸自体も細くなっちゃってるから、痛みをより感じているんだと思う。内臓も、もうカラカラなんだよ。

エネルギーが枯渇寸前だから、恐らく寝ている間の脈拍も、下手したら1分間に20くらいまで落ちてるかもしれない。これはね、もう熊が冬眠するレベル。

だから、眠りたくてもしっかり眠れないし、イライラしても、イライラしきる元気もない。
人の話が頭に残らないのもそのせい。
食べないから、とにかくエネルギーが足りないの。」


今までの様々な症状を思い出し、そうだったのか…!と納得した様子の息子。


「だからね、本当に何度も何度も、そのぼおっとした頭に残るまで、繰り返して言うよ。

だから、
『食べることは生きること』
なんだよ。

君がとにかく、今しなきゃいけないのは『食べること』なの。入院したくないならなおさらね。」


こっくりと、頷く息子。


「ただ、今まで食べて来なかった子が急に食べられるようになるかっていうと…わかるよね?
これから、本当に厳しい戦いになってくると思う。だって、食べたくなくても、体が安定するまでは嫌でも食べなきゃいけない。生きるために。

これから頑張って食べようと思っても、どうしても食べられない時も来ると思う。その時は遠慮なく、病院や先生を頼って欲しい。

入院してもしなくても、最悪食べられない時は鼻からチューブを入れて、直接胃に栄養を流し込むことになるの。薬を使う時もある。

でもその前に、とても大事なことがあるの。
しつこいくらい、何回も言うよ。


『食べることは生きること』。

食べ物を、自分の意志で、自分の口に運ぶこと。食べることは『僕は生きます』という意思表示なの。
まず、それが出来るかどうか。

やせ性の子は、そこが1番難しいし、苦しいところなの。だって、お腹が空いていなくても食べなきゃいけない。でも『アクマの声』は、四六時中囁いてくるんだよね。

入院してる子の中にも、どうしても食べられなくって、こっそりご飯を捨てちゃうことがあるの。
それは、その子が悪い。でも、『その子だけ』が悪いわけじゃない。四六時中、耳元で囁いてくるアクマの声のせい。

アクマの声は、本当に強くて、大人でもその声に負けちゃって、出来ない言い訳の材料にしちゃうことがある。だからね、時には負けちゃうのはある意味仕方がない。

ただね、ここで大切なのは、
『嘘をつかないこと』。

頑張ったけど、どうしても出来ません、食べられませんって、正直に言うこと。出来ないことは恥ずかしいことじゃない。厳しい戦いの中で、その子が精一杯頑張ってるのも、先生達は十分わかってる。

でもね、ここで出来ないのに『出来てます』って嘘をつかれちゃうと、もう正しい治療も出来なくなって、その子も結局自信も、生きる気力も失ってしまう。そうなるとね、もう先生達も手出し出来なくなって、どうしようもないんだよ。


だからね。
本当は、薬や栄養剤を使って治療することの方が簡単だよ。体も回復が早いと思う。でも、それでは根本的な解決にはならないの。

ここで頑張って踏ん張って『自分の意思で食べる』という訓練をしっかりしておかないと、今後君が大人になって、何か困難やストレスを受けた時に、簡単に『食べない』ということを選択してしまうようになる。やせ性の子は、特にその傾向にあるの。
言ってること、わかるかな?」

先生の言葉にまた、こっくりと頷く息子。

【Y先生からの宿題】


「〇〇君がどうしても入院したくない、という気持ちはわかった。だから、先生から宿題を出します。

•ご飯を残さないこと
•1日3食食べること
•今の体重をキープし、毎日体重を測ること



今の君にとって、ご飯はお薬です。
死にかけて病院に来た人が、出されたお薬飲まなくていい?半分でいいって、残していい?」


ふるふると、首を横に振る息子。


「ここ最近は、自分で食べる量を決めてたと思う。でも、そのために今、この状況になってる。
もう君の手に負えないっていうこと、わかったよね。君は大人になりつつあるけど、でもまだまだ子どもで、特に病気に関しては、おとなの管理が必要な状態です。

だから、今日からは、大人が出した量の食事を、残さず食べて下さい。食事は薬です。

もう1度、確認するよ。
食事の量は、誰が決めるの?」

…大人が決める。

「食事はお薬です。残していい?」

…全部食べて、残さない。


「そうだね。ここでお母さんも横でしっかり聞いてるし、これは先生との大事な約束だよ。忘れないように書いておくから、目に見える所に置いておいてね。あ、帰ってからすぐに捨てないでよ(笑)

あとは、昼食の時とかに、もしお父さんやお母さんが家にいない時は、何を食べたかちゃんと写メして、ラインとかで報告すること。」

そう言って、先生はプリントアウトした紙を息子に渡しました。

さらっと書いたけど、キツイと思うよ。
アクマは常に囁いてくるからね。
でも、先生との約束だからね。

お母さんも、最初からガンガンにご飯は出さないと思うからあんまり心配しなくて大丈夫。

嫌いなものまで無理に食べろとは言わないから、好きなもの作ってとか、これは食べにくいとか、熱いより冷たいほうが食べやすいとかは、リクエストしたらいいよ。「食べること」「食べきること」が大事だからね。

体重は、毎日測って下さい。これも、たぶんキツイと思う。一喜一憂しちゃうからね。でも、やらなきゃいけない。自分でスマホに管理アプリ入れてもいいし、ノートでもいいから、必ず記録すること。

ご飯の量は、食べるのがキツくなってきた時に、お母さんと(お茶碗のご飯が目分量だと)多い少ないでバトルなると困るから、毎回ちゃんと秤で測って下さい。

体重に関しては、今までの記録がなくて、体重の減り具合、どれだけの期間かけて減ったのかわからないから、今回は甘めで24.5キロ以上減らさないこと、を目標にします。

次回受診は1週間後。
もしこの約束が守れなければ、次回診察したその日に即入院になります。わかったかな?

慎重な面持ちで、こくり、とうなずいた息子。

じゃあ、H先生は入院前提って言ってたけど、いったん心理の方に返しますね。
そう言って、Y先生は、入院病棟を回診中のH先生に電話をかけました。

「もしもし、Yです。えぇ、今診察終わって、とりあえずいったん様子見になりましたので、そちらにお返しします(苦笑)」

電話越しに、ええ〜っと驚くH先生の声が聞こえて。H先生もY先生も、苦笑い。

じゃあ、後はよろしくお願いしますね〜。
さわやかにそう伝え、Y先生は電話を切りました。


【今後、母が頑張らないといけないこと】


「あと、お母さんとちょっとお話するから、外で待っていてくれる?」

先生にそう言われ、息子は大人しく待合に戻っていきました。

それを見届けた後、先生と向かい合う私。


「とりあえず、そういう状況です、お母さん。
たぶんね、〇〇君は全く食べてこなかったわけじゃないし、本人も太りたいって言っていたので、次の1週間はクリアするかも知れないです。
だからお母さんは、まだ頑張らなくて大丈夫です。

例え、そのまま入院をしなくても、しばらくは週1ペースで様子を見ることになると思います。
時間は、思っている以上にかかります。今までで順調にいったな、というお子さんで、だいたい1年位です。月単位じゃなく年単位で考えてください。

頑張って食べて体重が安定してからが、本当にキツくなります。食べたくないのに、体重を増やすためには食べなきゃいけない。
ここが1番のハードルになります。ここで、お母さんに頑張ってもらいたいんです。

もちろん今からもなんですけど、もうね、赤ちゃんの時みたいに、食べたら褒めちぎってあげて欲しいんです。離乳食食べ始めみたいに、食べられたね、完食出来たね、頑張ったねって。

とにかく、励ましてあげてください。このキツイ山を越えられるかどうか。ここが重要なんです。
あと、出来るだけご飯は家族みんなか、全員でなくても誰かと食べるようにしてあげて下さい。

なので、今はまだお母さんはエンジン全開じゃなくて大丈夫です。まぁとりあえずは、まず来週クリア出来るかどうかです。」


わかりました、肝に銘じます。
本当にありがとうございます。
よろしくお願いします。

先生にそう言って、診察室を後にしました。

【診察終了後】


息子と2人で会計を待っていると、後から看護師さんが追いかけてきました。

次回予約は、もうシステム上は全て埋まってしまっていて。予約診察が終わってから〇〇君を診察しますので、すみませんが、手書きの予約票になります。
看護師さんからそう伝えられ、手書きで書かれた付箋を受け取りました。

待ち時間が長すぎると、文句を言っていた自分が本当に恥ずかしくなりました。
あれだけの丁寧な診察をしていれば、そりゃあ時間がかかるはず。しかも息子の場合は今日は飛び込みで、次回は時間外での診察。
本当に、なんてありがたいことなのか…。


会計を待ちながら、息子と。

「首の皮一枚、つながったね。」

「…ほんとだね。」

「もしH先生が、今日予約ねじ込んでくれてなかったら…」

「本当に、ヤバかったわ。」

「ギリギリ、やったな。」

「…想像したら…怖いわ。」

「…これから、頑張らな、アカンな。」

「…頑張るわ。入院は、悪いことじゃないってわかるけど、それでもやっぱり嫌やわ。」

「そうやな。まずは、1週間やな。」


長い長い病院での診察がやっと終わり。
色んな衝撃で、待合の椅子に座りながら、放心状態の母と息子。

朝イチの受付前から病院にいて、気づけば時間はもう15時前。

食べないといけないのに、もうすでに朝と昼ご飯飛ばしちゃってるね…(汗)
じゃあ、急いで帰ろう。

なんか急にお腹空いてきたわ、と、息子も苦笑い。

【帰宅後、ご飯を食べながら】


帰りは高速道路が空いていて、30分ほどで帰宅。

…疲れた…めっちゃ疲れた…と、バッタリ床に倒れ込む母と息子に、待ち時間かなり長かったんやね、びっくりしたわ、お疲れ、と声をかけてくれる長女。ラインで詳細は知らせていたので、かなり心配してくれていた様子。

「お腹、空いた。ご飯食べるわ。」

そう言って、ムクっと起き上がり、淡々とご飯の用意を始めた息子。

ウインナー、だし巻き卵、茹でブロッコリーに、まん丸おにぎり。いつもの、息子が好きなメニュー。

いただきます。

もくもくと、ご飯を食べる息子。
「…ママ。なんか、ご飯めっちゃ美味しいわ。」
そう言って、ちゃんと完食しました。

「なんか今は、お腹痛いのあんまり気にならへんわ。体って、わかりやすいんやな。」
そう苦笑いする息子に。


…そうだね(苦笑)。「入院」のインパクトが大きかったからじゃない?


「入院の話聞いたら、今自分がどんなに恵まれた状態か、よくわかったわ。
学校行かんでよくて、好きな時間に寝て起きて、好きな時間にゲームしたり、ゴロゴロしたりして。」

そうだね。

「でももう、お腹痛いのも、体がガリガリ過ぎるんも、今の毎日ヒマ過ぎる生活も、本当にもう嫌やわ。とりあえず頑張って、入院回避して、体を立て直したい。」

そっか。じゃあ、頑張らないとね。


その日の晩御飯。

焼き魚と、野菜の煮物と、お味噌汁。
ご飯は秤でちゃんと測って。
白飯よりおにぎりの方が、食べやすいかも知れんという息子に頼まれ、三角おにぎりを握りました。

自分でやると、なんかどうしても丸くなって、三角にならないんだよね…と笑う息子。

お腹が苦しいと言って、途中で休憩を挟みながらも、晩御飯もちゃんと完食。

おにぎりと味噌汁、最強やな。日本人で良かったわ…。苦しいお腹をさすり、横になりながら、息子はしみじみとそうつぶやきました。

入浴前に、体重計に乗る息子。
25キロ。
これを、キープすること。
今日から、息子の挑戦が始まります。

【母息子、車の中で】


次の日。
いつもは9時頃まで寝ている息子ですが、朝ご飯を食べるため、7時半には起きてきました。

でも昔から息子は朝ご飯を食べるのは苦手。
とりあえず、味噌汁の汁だけ、頑張って飲みました。朝は胃にもたれる…と倒れこむ息子。

その後、ヒマ過ぎる息子と2人気分転換にと、少し遠くの家電量販店へ車で出かけることに。


その車の中で、昨日のY先生との話になり。


どこで1番衝撃受けた?と息子に尋ねると。

「4人に1人死ぬ病気」って言われて、そこで『ハッッ!!!!!』て目が覚めたわ。

『下痢したくないから死ぬ』なんて、なんてことを自分はしようとしてたんやって。まだオレは死にたくない、って思った。
『何してんだよ、バカ野郎!』って、先生にぶん殴られた気持ちになったわ。」

「そうやな…。ママもびっくりしたわ。ごめんな、これは完全に管理不足やった。こんな酷いことになるなんて、思ってなかったわ。
『ちゃんと食べな!』って、もっとキツく言わなアカンかったのにな…。」

「いやでも、家族じゃない『他人』から、一発ガツンと、キツく言われなアカンかったんとちゃうかな。そうじゃないと、納得せんかった気がする。

だから、やっぱ先生に、一回ぶん殴られる必要があったんとちゃうかな。たぶん昨日は、そのために病院に行ったんやと思うわ。」

「…いい先生やったね。」

「いい先生やった。自分は恵まれてるなって、思った。いつも、良いことない、ヒマや〜って文句ばっかり言ってたけど、本当はもうじゅうぶん、今、自分は恵まれてて、幸せなんやなって思ったら、なんか泣きそうになった。」

「そうだよね…。みんな、そのことをすぐに忘れて文句ばっかり言っちゃうんだよね…。でも、〇〇は自分でそこに気がついたんやね。すごいわ。」

「めっちゃ、予想外のハードモードになっちゃったけどね…(苦笑)。とりあえず、目標出来たから頑張るわ。目標ないと、いつもなんか頑張られへんねん。」

「そっか(笑)たぶん、毎週先生からキッツイ宿題くるけど…。」

「入院は絶対したくないから、しゃーないわ。ある意味、学校行ってたら「やらなあかんこと」はいっぱいあったから、ヒマじゃなかったんやな。

でもまぁ、今は学校より体だし、なんやったら体がちゃんと治ったら、もう学校でもどこでも行けるような気もするわ。」

「まぁ、とりあえず、1週間やな。」

「そやな。あとは、いらんこと考えへんように、出来るだけ好きなことして過ごすようにするわ。あとは、眠いときは無駄に抵抗せんと、昼寝する。」

「そうやな。なんたって、冬眠状態やもんね。」

「気ぃつけんと、そのまま永眠…本当に天に召されて…コワ。まだ死にたくないし。」

「そうなったら、ホンマにシャレにならへんな。そうならんように、頑張ろう。」

息子の中で、確実に何か、変わったようです。

【体はいつだって、自分の味方】


子ども達が不登校になったきっかけは、体調不良からでした。慢性疲労が続き、朝起きることすら出来ない状態でした。

そこから、ありとあらゆる健康法や食事、整体などを施すことで、ある一定の、最低限生活が出来るレベルまでは回復しました。

でも、その後は、規則正しい生活を心がけても、何を試しても、それ以上は回復せず、元気な状態にならないのです。

どうしてなんだろう…。
やっとここで、子供たちの本心に気が付きます。
「元気になったら、元の生活に戻らなくてはいけなくなる。」

だから、体が回復することを拒んでいる。
子供たちにとって、「元気になること」は歓迎されるものではなく、家にいるために、体調不良を必要としていたのです。

本音を話し始めた長女は言いました。
「学校を休むために、毎朝体のどこかに具合が悪い所がないかを探してた。」

長女の体調不良は病院で検査をしても原因不明で、膠原病にそっくりな症状でした。膠原病は、自己免疫疾患。自分で自分を攻撃していたのです。

さらに、下剤や浣腸が手放せない程の、重度の便秘でもありました。何もかもを我慢して、気持ちを出せずにいた学校生活。

体は、ずっと頑張り続けていました。
そして、とうとう限界が来て。

体は「学校を休みたい」という、長女の希望を叶えてくれたのです。

回復には、とても時間がかかりました。
とにかく休息し、生活を正しました。

そして、今までの苦しい気持ちや、過去の後悔を、たくさんたくさん出し尽くした頃。
長女は朝起きて、ご飯を食べ、外に出られるという、当たり前の生活に戻れるようになりました。

そして、「やっぱりもう1度頑張ってみたい」という気持ちがわき、今年の4月から、通信制高校に進学することになりました。

それでも時々、「熱が出たら気兼ねなく学校を休めるのにな。」と言うことがあります。

そんな時はいつも、こう言います。

「そんなことをしなくても、どうしても嫌なら、理由がなくても休んでいいんだよ。

自分から体を痛めつけるようなことを、してはいけないよ。だって、体は文句1つ言わず、毎日働いてくれているんだよ。

本当は感謝しても、しきれないくらいなんだよ。体はいつも、自分の味方をしてくれているんだから。」

【自分の体と向かい合うことを決めた息子】


息子の体調に関して、もっと早く病院にかかっていればとか、誰かに相談していればとか、色々後悔はあります。

自分は親として、本当に未熟だと思います。ずっと、ベストを尽くしていたつもりでしたが、全然足りていませんでした。猛省です。

今回、本当にギリギリでしたが、医療機関と繋がることが出来ました。このタイミングより遅れていたらと思うと、寒気がするほどです。


息子は今回運良く、信頼出来る先生と出会うことが出来、『頑張ろう』と思えることができました。 

心療内科に提出したアンケートの「親から希望することはありますか?」の欄に、「息子が、『この人なら信頼出来る』と思えるような大人と関わっていければ」と書きました。
ありがたいことに、私の願いも叶えられたのです。

息子の挑戦は、始まったばかりです。
それは時間を要する道のりであり、それも、トントン拍子で上手くいくのか、途中で挫折してしまうのか。全てはこれからの息子の頑張り次第です。

かなり厳しい現実ではありますが、きっと息子にとって必要な経験なのだと思います。


私も親として、頑張る息子の少し後ろを、時に隣を並走しながら、出来る限りの支援をし、応援していこうと思います。

この記事を読んで下さった皆さんにも、温かい目で見守っていただければ幸いです。


*******

その涙が汗が滲んだ
誰とも違う美しさで
笑っておくれよ
息を切らした君は
誰より素敵さ

*****

彷徨うくらいなら
一層味わい尽くしましょ
近道ばかりじゃ
味気がないでしょ

道草を食って
泥濘み飲んで
でも辿り着けなくて
また何度だって
夕暮れを追いかけるの

*****

声を枯らすまで
泣いていたんだよ
叶わないとわかって尚
抗っておくれよ
剥き出して咲く君は
誰より素敵さ

今日もその涙が汗が滲んだ
誰とも違う美しさで
笑っておくれよ
息を切らした
君は誰より素敵さ

走れ遥か先へ
汚れた靴と足跡は
確かに未来へと
今駆けてゆく
息を切らした君は
誰より素敵さ

King Gnu『BOY』歌詞より一部抜粋


上手くいっても、いかなくても。
泣いたり、笑ったり。

それもまた、人生。

息子よ、頑張れ…!

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