手を差し伸べるのに理由は要らない、と思ってしまうから、僕は損をするのかもしれない。
窓口で、後輩がクレーム…というか
お客様のグチ?を聞いているみたいだ。
何の話かは分からないけれど、
抗議というよりも、
話を聞いて欲しい・共感して欲しい
というニュアンスのようだ。
後輩はうんともすんともリアクションしない。
穏やかにグチ(?)っていたお客様が
だんだん苛立っているような気がする。
けれど、後輩はリアクションしない。
10分ほどして、
「あなたに何を言っても無駄なんだね」
諦めたような感じで、お客様は帰った。
途中からしか見ていないので、
何の話だったかは分からない。
でも、なんだか胸が痛いなぁ…
なんとなく、
親身に聞いて欲しいだけ
だったように見えたけどなぁ…
後輩に聞いてみると、
やはりクレームの類ではなさそうだった。
何十年か前に、ウチの会社がミスをした
という内容だったらしい。
今更怒る気もないが、聞いて欲しかった、と。
聞いて欲しいだけ
なのだから、
相手がいちばん喜ぶ反応は
『しっかり聞いているように感じる』
つまり、相槌や表情の問題だ。
けれど、後輩はそれをしなかった。
分からなかったのではなく
あえて、やらなかったのだという。
「僕が頷けば、会社の非を認めたことになります。
昔のこと過ぎて、調べることもできません。
笑うのも謝るのも出来ないと思います。」
それは、正論のように聞こえた。
けれど、僕と正反対の意見でもあった。
相手が望んでいることが予想できて
それをあえてやらない
という選択肢が、僕には浮かばなかった。
責任をとれないからやらない
必要とはいえないからやれない
一見、真面目そうな判断ではある。
むしろ、僕の言う「相手の望みに応える」行為は
会社のためではなく自己満足かもしれない。
きっと、余計なことなんだろうな。
でもきっと、何もせずにはいられないな。
…だから、僕はいつも損するのかな?
目撃したまま現場を去るような胸のざわつき。
何の事件も起きていない午後のことだった。