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【試し読み】新刊『江戸の怪異と魔界を探る』から試し読み

 4月13日から順次書店に並び始める、『江戸の怪異と魔界を探る』(飯倉義之監修)。今回は、発売に先駆けて はじめに を公開いたします。みなさま、発売をお楽しみに~

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『江戸の怪異と魔界を探る』
監修 飯倉義之
ページ数 208
判型 A5
本体価格 1700円
出版社 カンゼン
発売日 2020年4月13日

はじめに

 今でも夏になるたびに、怪談は一定の盛り上がりを見せる。それは江戸時代の人々も同じだった。怖いもの、恐ろしいものに対する興味は大きく、歌舞伎、落語、本、浮世絵などの娯楽に取り入れられていった。また、複数人が集まって一〇〇の怪談を話す「百物語」という催しも行われており、江戸の人々は「怖い話」に夢中だった。
 本書では、怨霊、妖怪、幽霊、七不思議など、江戸の人々が恐れおののいた怖い話を紹介していく。その怪異の現場を辿り、歴史を散策できるように、どこで起こった事象なのかを記すように心掛けた。ぜひ本書を片手に江戸の人々が遭遇した怪異に思いを馳せながら実際に歩いてみてほしい。江戸の怪異を知ることで、当時の文化の一端を垣間見ることができるのではないだろうか。
 

怖い浮世絵~幽霊・怨霊

 現代と同様、江戸時代にも怖いものや恐ろしいものに対し、庶民は大いに興味をもっていた。四世鶴屋南北による歌舞伎『東海道四谷怪談』が評判になるなど、怪談ものの歌舞伎や小説が人気を博した。その流れは、浮世絵にも波及し、多くの〝怖い〟絵が描かれた。
 「怖いもの見たさ」という言葉があるように、「恐ろしい」とか「怖い」という感情は、今も昔も人間がもつ普遍的なものである。ここでは、江戸の人々が恐れおののいた浮世絵を紹介していく。


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(右ページ)夫に殺害された累の怨霊を描いたもの。体をくの字に曲げ、左手で自分の髪の毛をつかみながら恨めしそうな顔に描かれている。題名となっている「藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)」とは、平安時代の貴族で、彼が詠んだ「秋来ぬと 目にはさやかに 見へねとも 風の音にそ おとろかれぬる」という歌が左上に書かれている。「秋が来たと、はっきりと目には見えないが、風の音で気づいた」という意味で、累の怨霊が秋の夜に風とともにあらわれることを暗示している。(『見立三十六歌撰』のうち「藤原敏行朝臣」)
(左ページ)『東海道四谷怪談』に登場するお岩の怨霊が提灯に乗り移った様子を描いている。提灯には「南無阿みた仏 俗名いわ女」と書かれている。(『百もの語 四ツ谷』)


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(右ページ)歌舞伎や小説の題材に多く取り上げられた小幡小平次は、女房の不倫相手に殺害されるが、怨霊となって女房とその男に復讐を果たす。これは血まみれになって現世に舞いもどってきた小平次の姿を描いたもので、青ざめた表情のなかに憎しみの眼差しを秘めている。(『小幡小平次』国立国会図書館蔵)
(左ページ)右ページの絵と同様に小幡小平次を描いている。小平次が亡霊となって女房と不倫相手が暮らす家にやってきて、二人が寝入っているところを蚊帳越しに覗き込んでいる様子だという。この絵は葛飾北斎の絵を歌川芳幾が模写したもの。(『百ものがたり 小幡小平次』)


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