見出し画像

井口峰幸

井口峰幸

陶芸家

~衝動で動くと人生は面白くなる~

日本最古の焼き物と言えば今から13000年前の縄文土器に遡るが、時代と共に多様な変遷を経てより洗煉された陶芸として現在に至る。

井口は25歳の時、加守田章二の陶芸を観て衝撃を受け突如陶芸家としての道を志す。

『これだ!』と直感した。

これを機に、アーティストを周知させるため裏方の仕事に従事していた井口の人生が大きく方向転換する。

人生の表舞台に立ちたい!
自分自身が輝きたい!
そう切望したのだという。

「あんまり後先考えると何も出来ないのかもしれませんね。あの時は何も考えてなかったのかもしれないなぁ。」
そう朗らかに振り返る井口。

直ぐさま、瀬戸、常滑などの陶芸研究所に赴き基礎をみっちりと学ぶ。
国内で基礎を習得すると、再び直感に従い陶芸指導の青年海外協力隊員として突如アフリカに渡る。

そこでいきなりの洗礼を受ける。
いつ来るかわからない電車。
満員になるまで発車しないバス。
接待しないと手に入らない住居。

アフリカでは全てが手探りで何から何まで一から始めるしかなかった。
想定外のことに一時は暗澹たる思いにかられる井口だったが道を切り開くべく一念発起する。
自身の足で現地の地質調査を進めながら自ら陶芸指導の仕事を開拓していった。

ひたすら目の前のことに取り組んでいったその経験が、後に帰国して自身の窯を開く時に全て生きていると言う。

人生の節目節目に衝動で動いたことが幸いしていると回想する井口。

決断の瞬間に躊躇がない。

現在、井口の創作活動は三つの柱からなる。
織部焼などの日本の伝統的な焼き物、油滴天目など中国南宋時代の焼き物、井口の地元大多喜町に伝わる大多喜焼。
中でも一番力を入れているのがご縁をいただいた地元の大多喜焼である。
地の材料を使い手をかけることで用と美の調和を志す。手にとってその味わいを知ってもらいたいと語る。

土に触れていることが自身の体質に合っているのだと言う。

体質に合うとは実に感覚的な言葉である。

振り返るとその萌芽は幼い頃に既にあったようだ。子供の頃粘土を触っているのが好きでいつまでも戯れていられた。

創造の原点はそんなシンプルなことにあるのかもしれない。
井口の話を聞きながら筆者にも見落としていることがあるのではないかと感じた。
今まで生きてきた道のりを丁寧に振り返ると、人生のどこかにそんな萌芽が潜んでいるのかもしれない。

《人生の表舞台》というキーワードが気になり 「人生の表舞台に立つとはどういうことですか?」と尋ねると

「それはごく自然なことなのではないですか?あなたもそうではないですか?誰もが感じることだと思うけど。」
直球で問い返され一瞬怯んで逡巡する筆者を井口の言葉がストレートに揺さぶる。

自分の心の声に素直になること。
突き上げてくる衝動に蓋をしないこと。
そして、安定や成功を求めないこと。

そうは言っても、なかなか最初の一歩が踏み出せないのではないか?
そんな疑問を投げ掛けてみた。

「先のことを考えていたら何も出来なくなるんじゃないかな。」

学校教育の現場にも携わる井口は、自ら進んで行動できない原因として日本の教育制度にも問題の一端があると語る。
子供たちが萎縮している。
全てお膳立てしてるから自発的に動けない。
そのことに危機感を感じた井口は子供たちが自発的に考えて行動する機会を意識的に作るようにしているという。
工夫、試行錯誤という手間隙を省かないこと。

話の端々に表れる井口のメッセージは実に明快だ。

自分のために生きる!
(何かのため、誰かのためではなく)
自分自身のリーダーシップをとる!

自分に正直に生きる!
自分に嘘をつかない!

今を生きる!
人生は長いようで短い!
時に食らいついていく気持が大事!

「自分の場を作ることが大事です。そのためには、ネットを見て閉じ籠っていては何も始まらない。自ら求めて動き回ることで人とも出会うし体験も増える。自分自身の衝動を押し止める人が多いのは勿体ないことだと思う。日本人は特に失敗を恐れる。失敗したってそれさえ経験値になる。全ては自己責任であり人任せじゃないから面白いんです。」

そして、自分の心の声に素直に生きることで不思議と物事が展開していくようなご縁ができるのだと言う。
それは世界中どこへ行っても同じだと井口は確信している。

「ご縁ってほんとに不思議ですよ!」
と井口は何度も繰り返す。

現在窯と住居を構える大多喜町との出合いもご縁をつないでくれた人がいた。
損得勘定ではなく自分に正直に動いた時に必ず導いてくれる人が現れるのだと言う。

道を拓いて来た井口の他力を信じる言葉には曇りがない。

古戦場だった近隣には地獄橋があり、仏沢があり、そして井口の《阿弥陀窯》と不思議な符号が続く。
火の力を借りる陶芸はまさに他力の産物であり、気象条件や化学反応など奇跡の出合いの上に成り立つと考える井口らしい命名だ。

人事を尽くして天命を待つ!

陶芸家井口の信条である。

*️⃣井口さんの作品は、千葉そごう百貨店7階の千葉ギフトコーナーで展示販売しております。

《編集後記》

いつもぐずぐずしていて自発的に行動することを回避する癖のある筆者にとってストレートなメッセージの連発でした。

行動を起こす時に《最初の一歩》なんかないのだ!ということを気づかせていただいたのは特筆すべきことでした。
思えば何と長い間この《最初の一歩》という言葉に呪縛されてきたことでしょうか。

最初の一歩が踏み出せない!というのは巧みな罠です。

子供の頃から点数で評価されることに慣れていて、無意識に高い点数を取らなければいけない、上手くやらなければいけない、失敗したくないなどのイメージに囚われそれに怯む心理が見えてきました。

ただひたすらに自分の心の声に素直に従って生きてきた井口さんのシンプルさに感嘆致しました。

井口さんのお話は至る所にキーワードが散りばめられていて筆者が自分自身を振り返るテーマとリンクしていたのがとても面白かったです。 《表舞台》というのもその一つでした。

《表舞台》に立つのが怖い!

深層ではずっとそう思って生きてきた筆者にとって井口さんのストレートなメッセージはまるで陰陽の貝合わせのように符号するのでした。

出合いの妙を感じずにはおれないインタビューでした。

ほんとに感謝申し上げます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?