【青森県横浜町】横浜観光も青森で
青森で横浜といえば世界に誇る神奈川県の県庁所在地、横浜市ではない。
下北半島と本州の中間部に位置する、上北郡に属する小さな町、横浜町だ。
横浜町の人口は約4千人。横浜市の人口376万人と比べるとあまりにも小さな町だ。
というかそもそも青森県の人口は120万人、岩手県の人口は116万人、秋田県の人口は91万人なので、実は横浜市の人口だけで北東北3県の人口を合わせたよりも多い。
とはいえこの町が横浜市に因んでつけられたかというと、決してそんなことはない。それどころか横浜市よりも先に、この地が横浜と名付けられたと言われている。
その名前の由来となったのは、陸奥湾に面した長く続く砂浜である。その距離なんと23km。
横浜市で例えると横浜駅から品川駅までの距離が大体そのくらいだ。
この広い浜は古くから利用され、戦国時代末期には既に交易港として栄えていたという。
現在この砂浜の一部は、砂浜海岸海水浴場として整備されている。
毎年7月中旬から8月中旬 (2024年は7月22日から8月12日)の期間は海水浴場として開放されているほか、指定されたエリアであればキャンプも可能でコテージを借りることもできる。
そんな横浜町は当然漁業も盛んだ。
春にとれるナマコは町の名産品の1つだが、もう1つ欠かすことのできないこの町の海産物がある。
ホタテである。
陸奥湾で盛んに水揚げされるホタテは、陸奥湾そのものの象徴でもある。
横浜町の北部沿岸には陸奥湾の美しさの維持と漁業の繁栄と安全、そして旅行者の健康と交通安全を祈願して作られたほたて観音なるものもある。
ほたて観音が面する国道279号線は下北半島に至る主要かつ重要な道路であり、かなり車通りが多い。
現在は下北半島の中心であるむつ市まで、自動車専用道路である下北半島縦貫道路が2032年の全線開通を目標に建設が進められている。
しかし2024年現在開通しているのは横浜町南端の横浜吹越インターチェンジまで。まだまだこの周辺は主要道路としての性格が強い。ほたて観音周辺には駐車場やコンビニのほか、休憩したり食事を取ったり土産物を買ったりできるトラベルプラザ・サンシャインという施設もある。
さて、国道279号線ははまなすラインとも呼ばれる。
先述した横浜吹越インターチェンジのすぐ近くに、昼になるとたくさんの車で賑わう飲食店がある。
その名もはまなすドライブインだ。
あまりにも迫力のある外観に正直かなりたじろいだが、中に入ってみると古いながらも多数の客で活気に溢れている。
常連客と思わしき客の姿も多く、この時点で当たりの店だと確信する。
店主の女将さんが1人で回しているのだが、見るからに忙しい中でも非常に親切な方だった。
多数のメニューの中、客のほとんどが注文しているのが焼肉定食だ。
ホルモン定食、豚とろ定食、牛カルビ定食の3種類があるのだが、今回は牛カルビ定食を注文。
本来はさらにキムチがつくが、キムチ抜きをオーダーした。
まずボリュームがすごい。
特に肉の量は間違えてダブルを注文してしまったのではないかと焦ったが、ダブルの人には同じ肉皿が2つ出ていたのでこれが通常サイズらしい。
この肉を卓上の焼き器で焼きながら食べれば、肉厚で食べ応えがありながらも柔らかい。甘めのもみだれでしっかり味つけられた肉は、たれにつけて食べてもそのままご飯に乗せて食べても美味しい。
初めての店で不安だったので安定の牛カルビを選んだが、これくらいの肉を出してくれる店ならホルモンも美味しいだろうなと思った。
牛カルビももちろん美味しかったが、次回は大好きなホルモンを注文したいと思った。
そしてもう一件、はまなすドライブインとも程近い場所に地元の有名店がある。
豆腐をはじめとした大豆の加工品を製造・販売している湧水亭だ。
元々豆腐店のこの店は豆腐はもちろん、様々な豆乳やおからの加工品も販売している。中でも有名かつ人気なのはおからドーナツだ。
購入した際も他のお客さんが10個単位で買い求めていく姿を何度も目にした。
他にもアイスクリームや豆乳ヨーグルトなどもあるが、自分がお勧めするのは「おとうふの白玉ぜんざい」だ。
賞味期限は当日中だが、国道279号線を通る時は毎回のように買い求めている。
そして、横浜町を語る上で最も欠かせないのは菜の花だ。
ちょうど桜の花が終わった頃、例年4月の終わりから5月にかけて咲く菜の花は横浜町の象徴になっている。
毎年5月の中頃の週末、2024年は5月11日と5月12日には菜の花フェスティバルというイベントも開かれるが、その期間以外も菜の花の開花している時期は菜の花畑の一部が観光用に開放されている。
さて、一面の花畑が生まれている状況は大抵「特定の種類の植物が1種類 (あるいはごくわずかな複数種類)だけ多数生えている」という前提の上で成り立っている。
全国の桜並木のように初めから花を目的として植えられたものも多いが、横浜町と同じ青森県内の例を挙げると階上岳の大開平のつつじ (かつて盛んに放牧が行われており、牛が食べないヤマツツジだけが生き残った結果毎年5月の下旬になると一面にツツジの花が咲くようになった)のように偶然そうなったというパターンもある。
横浜町の菜の花はどちらかというと、人工的に植えられているものながら実は元々は花そのものは目的としていなかったパターンにあたる。
というのも、元々この菜の花はジャガイモの連作障害 (※)を防ぐために植えられたものだからだ。
※ 同じ畑で同一の作物を育て続けることで、土壌の栄養や土壌に生息する生物が偏ってしまい作物が育たなくなること。これを防ぐために直接栄養となる肥料を与えたり土壌を消毒したり微生物を増やす肥料を与えたりするほか、違う作物を植える場合がある
横浜町はジャガイモの生産が盛んな地域でもあり、横浜町で採れたジャガイモの加工品なども道の駅で販売されている。
そしてジャガイモ栽培の合間に植えられている菜の花もまた立派な農作物だ。それ自体を野菜として食べる他に、菜種を絞ることで得られる油も農家の収入になっていることが多い。
菜の花は空き地にも自生していることに勘違いするかもしれないが、畑一面に咲く菜の花は勝手に生えているものではなく意図的に植えられていることが多い。
農作物を踏み荒らすことは言語道断だが、例え直接植物を傷つけなくても外部の人間、特に遠くから来た観光客が入ってしまうと、靴に元々ついていた土などから病害虫が入り込む可能性がある。
特にジャガイモシストセンチュウのようなものが入ってきてしまうと、最悪の場合はその年の作物が全滅どころか、畑が何年も使えなくなってしまうということにもなりかねない。
畜産動物に関しては定期的にニュースになり、漫画『銀の匙』などでも取り上げられていることから、外部から入ってきた人間による感染症持ち込みの危険性はある程度認知されつつあるが、農作物でも同様の危険性があることは決して忘れないでほしい。
菜の花大迷路はそういったリスクを考慮の上で観光地として解放している非常に稀なケースである。
横浜町はもちろん、他の場所でも菜の花畑があるからと無断に立ち入ることは絶対にしてはいけない。
菜の花は横浜町の象徴だ。
町を走れば菜の花の写真やモチーフがそこかしこに見られ、菜の花の名前を冠したものも数多い。
菜の花健康体操なるものまで存在している。
菜の花健康体操は別に歌詞などに菜の花要素は一切ないのだが、だからこそ横浜町=菜の花というだけの象徴性の強さが感じられる。
そんな菜の花を冠した施設の代表こそ道の駅「菜の花プラザ」だ。
前述した下北半島縦貫道路では、2025年度中にこの道の駅に直結する横浜インターチェンジまでが開通することが予定されている。今後ますます行きやすくなる道の駅だ。
土産物コーナーでは菜の花の切り花や名物の菜種油といった菜の花に関する商品はもちろん、菜の花の生はちみつを始めとした上質な蜂蜜と、それらの加工品。10センチほどの大きさの殻がついた新鮮なホタテが1枚80円程度で販売されていたほか、この時期の定番の山菜であるワラビやウルイ、ネマガリタケの他にもアザミなど他ではなかなか見かけない山菜も多数販売していた。
他にも面白いものでは菜種を絞った後の生の油粕が肥料用に販売されていた。油粕自体はホームセンターの園芸コーナーなどでよく販売されているが、乾燥させておらず鮮やかな緑色を保った状態だった。
今回は当初予定していたものの事情により登ることができなかったが、東北100名山の1つに数えられる吹越烏帽子があるのもこの町だ。
標高は507.8m。頂上付近のガレ場を除いて比較的緩やかで往復3時間足らずで登れる山なのだが、陸奥湾と太平洋を同時に望むことができると共に菜の花が盛りの時期は山の上から菜の花畑を見ることができる。
他にも青森県の天然記念物に指定されているゲンジボタルの生息地も横浜町に存在し、横浜市の夜景と比べれば実にささやかながらもその輝きで静かに夜を彩ってくれる。
小さな田舎町、横浜町。
有名な菜の花は勿論のこと、美しい自然に囲まれたのどかな町だ。
下北半島を訪れる際は、ぜひこの町でも足を止めてみてほしい。
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