菅野稀|Kanno Mare

小説を書いています。子供の頃に読んだ「空色勾玉:荻原規子」が私の創作の原点です。時代小…

菅野稀|Kanno Mare

小説を書いています。子供の頃に読んだ「空色勾玉:荻原規子」が私の創作の原点です。時代小説のような、ファンタジーのような世界観が好き。第16回角川春樹小説賞最終選考突破。noteでは過去に小説投稿サイトで公開していたものや、公募向きではない小説を投稿しています。

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  • 時代小説・風を待つ

    新羅王の妃になるはずが、人質として中大兄皇子に捧げられることに…。 645年、新羅王族の文姫は、倭国との同盟のために倭王へ嫁ぐことになる。 文姫は三人目の子を産んだばかりだった。それでも新羅のため、兄の金庾信(ユシン)のために、夫の金春秋と別れて倭国へと赴く。 中大兄皇子、大海人皇子、そして中臣鎌子の間で翻弄される文姫。 激動の三国時代に翻弄された、誇り高き王后の物語です。

  • 毎日更新:創作メモ

    創作に関する気づきや1行日記などをつぶやきます

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風を待つ<第1話>人質

 645年(仁平12年)11月――  新羅王宮・月城の庭。  生まれたばかりの赤子を抱いて、文姫はしあわせに包まれていた。  おのれの身体からひとつの生命が生まれた。文姫の持つすべての力を奪い取ったかのように、赤子は生きる力に満ちあふれている。柔らかな肌はみずみずしく、芽吹いたばかりの葉を連想させる。ふたつの目は清らかで、にごりのない黒曜石のよう。肉付きのよい指に生えた小さな爪。おのれの爪が珍しいのか、赤子はじっと手をみつめている。  赤子は「法敏」と名付けられた。父親

    • もうすぐnote創作大賞の中間発表のようですね。応募した人はドキドキしてるだろうなあ。

      • 風を待つ<第20話>

         文明は毅然とした礼容で、宝姫にねぎらいの言葉をかけた。 「これまでの勤めに感謝する。これからは王后の妹として、私を支えてくれ」  宝姫は眉を吊り上げて、顔を赤くした。文明からの謝罪を期待していたのだろう。骨の浮いた拳を握り締め、じっと視線を下に向けている。 「――さすが、姉上です」  宝姫は顔をひきつらせた。 「私にはとても、姉上とおなじことはできませぬ。倭王の妾となり、挙句、家臣の子を孕まされるなど、とても耐えがたきことにございます。屈辱に耐えて帰還なされた姉上には頭が

        • 100枚くらい書いたけどやっぱりボツにしようかな…… いつもこのあたりで悩み始めるのだよな…… このまま突き進むべきか……

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        風を待つ<第1話>人質

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        記事

          風を待つ<第19話>文明王后として

           その夜、金春秋は盛大な宴をひらいた。王は袞龍袍を着用し、花郎徒たちの礼を受けた。その横に王后として並んだ文明は、叩頭した花郎徒、文官、妃妾たちの姿をざっと見渡す。平穏な日々を犠牲にして得たものに対して、どんな態度で座ればよいのか。  人質としての苦難を乗り越えた文明を、金春秋は讃えた。文明が倭国で子を産んだことは一切明かさない。文明王后は、清らかな身のまま、倭国での人質生活を終えたのだ。そして文明王后の功績で、倭国も新羅に屈するだろう、と金春秋は述べた。花郎徒たちの歓喜の

          風を待つ<第19話>文明王后として

          ChatGPTで鬼滅の刃の絵を描いてと入力したらこんな絵が……

          ChatGPTで鬼滅の刃の絵を描いてと入力したらこんな絵が……

          風を待つ<第18話>鳳簪

           文姫が新羅を旅立ってから、十五年ぶりの帰還となった。  懐かしいはずの月城は、よそよそしく文姫を出迎えた。  金冠を頭上に戴いた金春秋――新羅王が、玉座で文姫を迎える。 「よく戻った」  文姫は夫の顔を見つめた。戦いに明け暮れ、日に焼けたその表情は、王としての貫禄を十分に備えていた。だが、文姫を前にして、なんと声を掛ければよいのかわからぬ、といった表情ではある。  文姫もまた、金春秋に何を言うべきか、わからなかった。  長年の別離を悲しみ、再会を喜ぶべきなのか。あるい

          風を待つ<第18話>鳳簪

          添削講座でお世話になった先生の新刊がKindleで販売された。1冊目が出たと思ったら、1ヶ月もたたないうちに2冊目が……どんだけ早いんですか^^;

          添削講座でお世話になった先生の新刊がKindleで販売された。1冊目が出たと思ったら、1ヶ月もたたないうちに2冊目が……どんだけ早いんですか^^;

          風を待つ<第17話>襲撃

           六五九年(皇極五年)、文姫は男児を産んだ。  不比等と名付けられた男児は、鎌子に似た凛々しい眉と、文姫に似た形の良い顔立ちをしている。  不比等はすこやかに成長していった。不比等を育てながら、氷上娘を産んだとき以上に、至福の時を過ごしていた。  あれから、兄からの書簡はぱたりと途絶えた。新羅の戦況を鎌子に訊くと、あまり良い顔をしなかった。鎌子はたまに鏡宮を訪れても、食事をするだけで帰ってゆく。  ある月から、鎌子がまったく姿を見せなくなった。  遠征に行くのであれば、

          風を待つ<第17話>襲撃

          今更だけど柚木麻子さんの「BUTTER」読了。実際の事件をベースにしているけど、ドキュメンタリーとかじゃなく、しっかり小説だった。バター食べたくなるのでダイエッターは読んではいけません。私は読了後にハイカロリーな食生活して太りました。

          今更だけど柚木麻子さんの「BUTTER」読了。実際の事件をベースにしているけど、ドキュメンタリーとかじゃなく、しっかり小説だった。バター食べたくなるのでダイエッターは読んではいけません。私は読了後にハイカロリーな食生活して太りました。

          風を待つ<第16話>兄からの書簡

           鎌子が帰ってからしばらくの間、文姫は茫然と書簡を眺めていた。  文姫の膝には、首の座ったばかりの氷上娘がいる。時折、膝をゆすってやると、ふわりと笑う。その笑顔につられて、文姫も微笑んだ。  新羅に置いてきた我が子は、こんなふうに手元で育てられなかった。  ――いまさら、この子を置いて帰りとうはない……  庾信の書簡には、きっと「帰国せよ」と書いてあるはずだ。あれほど新羅へ帰る日を待ち望んでいたのに、あれほど王后と呼ばれる日を夢見ていたのに……  文姫は書簡を読まずに

          風を待つ<第16話>兄からの書簡

          9月スタート早々、仕事がいっぱいです;;11月までに公募用の小説、書き上がるかなあ……今度こそはと思っているので、気合い入れないと。

          9月スタート早々、仕事がいっぱいです;;11月までに公募用の小説、書き上がるかなあ……今度こそはと思っているので、気合い入れないと。

          風を待つ<第15話>陰と陽

          「ですが、夢やぶれて誅殺されるかもしれませぬ。石川麻呂のように。山背大兄皇子のように」 「だから妻を一人しか持たぬのか」  いずれ殺されるかもしれぬのに、死なせるとわかっていて子を作れぬと鎌子は考えていたのか。 「臣が妻子を少なくしておるのは、怖いからです――血族すべてが吾のために殺されると思うと」 「真逆だ、鎌子どの」文姫は鎌子の衣を握りしめていた。「だから子を多く作らねばならぬ。ひとりで戦おうとしてはならぬ」  鎌子ははっとして、文姫を見た。 「そなたひとりで何

          風を待つ<第15話>陰と陽

          台風が来ると、リモートワークのできる環境で本当にありがたいなと思う。以前は子どもの保育園や学校が休校になるのか、仕事を休まなければならないのかとヒヤヒヤしていた。「じゃ、オンラインで」と言える環境が最高すぎる。

          台風が来ると、リモートワークのできる環境で本当にありがたいなと思う。以前は子どもの保育園や学校が休校になるのか、仕事を休まなければならないのかとヒヤヒヤしていた。「じゃ、オンラインで」と言える環境が最高すぎる。

          風を待つ<第14話>鎌子の闇

          「私は倭国の王と縁をむすびに来たのじゃ。悪いが、鎌子のような大臣は、私の身分とは釣り合わぬ。婚姻するつもりはない」  困惑する奈津の横で、真人はまばたきもせず、文姫の膝のあたりを凝視している。 「それに、そなたにはりっぱな男子がおるではないか。中臣の妻は、奈津、そなたしかおらぬ」  奈津はふるふると首を振った。 「私ではいけません、それくらい、私にだってわかります。この子は、出家させます」 「なにを言う」  奈津の思い込みは甚だしい。文姫が鎌子の妻になると思い込み、

          風を待つ<第14話>鎌子の闇

          小説のプロットはAIと壁打ち〜デジタルで変わったこと

          小説を書く際、PCとインターネットのおかげで作業がかなり楽になった。 資料集めのために図書館に行くことも少なくなり、Kindleを使えば、秒で書籍を購入できる。 それだけでも便利だったのに、さらに生成AIの登場が加わった。 私はClaudeを使って小説のプロットを作成している。 「この設定はどうだろう」と問いかけながら、エピソードを少しずつ追加していく感じだ。 時には、本文もAIに書かせることがある。ただし、AIに本文を書かせると、たいてい「それはちょっと違うな」と違和感

          小説のプロットはAIと壁打ち〜デジタルで変わったこと