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時代小説・風を待つ

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新羅王の妃になるはずが、人質として中大兄皇子に捧げられることに…。 645年、新羅王族の文姫は、倭国との同盟のために倭王へ嫁ぐことになる。 文姫は三人目の子を産んだばかりだった。…
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記事一覧

風を待つ<最終話>

 庾信の表情はほとんど見えなかったが、顔をしかめているとわかる。わずかに天を仰いだ庾信は…

風を待つ<第21話>確執

 年が明けて六六一年、月城の雪が溶け始めるころ、文明はある噂を耳にするようになった。  …

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風を待つ<第20話>

 文明は毅然とした礼容で、宝姫にねぎらいの言葉をかけた。 「これまでの勤めに感謝する。こ…

風を待つ<第19話>文明王后として

 その夜、金春秋は盛大な宴をひらいた。王は袞龍袍を着用し、花郎徒たちの礼を受けた。その横…

風を待つ<第18話>鳳簪

 文姫が新羅を旅立ってから、十五年ぶりの帰還となった。  懐かしいはずの月城は、よそよそ…

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風を待つ<第17話>襲撃

 六五九年(皇極五年)、文姫は男児を産んだ。  不比等と名付けられた男児は、鎌子に似た凛…

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風を待つ<第16話>兄からの書簡

 鎌子が帰ってからしばらくの間、文姫は茫然と書簡を眺めていた。  文姫の膝には、首の座ったばかりの氷上娘がいる。時折、膝をゆすってやると、ふわりと笑う。その笑顔につられて、文姫も微笑んだ。  新羅に置いてきた我が子は、こんなふうに手元で育てられなかった。  ――いまさら、この子を置いて帰りとうはない……  庾信の書簡には、きっと「帰国せよ」と書いてあるはずだ。あれほど新羅へ帰る日を待ち望んでいたのに、あれほど王后と呼ばれる日を夢見ていたのに……  文姫は書簡を読まずに

風を待つ<第15話>陰と陽

「ですが、夢やぶれて誅殺されるかもしれませぬ。石川麻呂のように。山背大兄皇子のように」 …

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風を待つ<第14話>鎌子の闇

「私は倭国の王と縁をむすびに来たのじゃ。悪いが、鎌子のような大臣は、私の身分とは釣り合わ…

風を待つ<第13話>思うひと

 「いえいえ、それこそ非礼でありましょう。文姫さまを側室扱いするわけにはまいりません。私…

風を待つ<第12話>奈津

 「夫が私を捨てただと……なにを言う、無礼者め!」  文姫は白湯の椀を鎌子に投げつけた。 …

風を待つ<第11話>鏡の名

 文姫は、中大兄皇子の横に座った。  中大兄皇子の見つめる視線の先には、大鳥が飛んでいる…

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風を待つ<第10話>まどろみの中で

 いつの間にか眠っていたらしい。  目覚めたとき、全身は汗で冷たくなっていた。腰がくだけ…

風を待つ<第9話>額田王の歌

「毗曇という男を知っているか?」 「ええ――兄上の……金庾信の麾下です」  文姫は毗曇をよく知っている。庾信とも、金春秋とも親しかった。  優秀な花郎で、上大等の地位にまでのぼりつめた。女王の政治は庾信と毗曇によって支えられていたといってもよい。 「その毗曇が、謀反を起こしたそうだ」  金庾信からの書簡によると、女王は、毗曇が起こした内乱を鎮圧するために出陣していた。その陣中で病に斃れたらしい。 「あの毗曇が、裏切った……」  なにゆえ、と言いたい気持ちをぐっと堪える