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殺人事件×〇〇!?超新感覚ミステリ『屍人荘の殺人』感想

「ミステリ」って好きなんだけど、殺人事件が起こる→探偵役が解決という一連の流れが定番すぎて、謎自体は面白いものの、展開としては退屈というか予見ができてしまう。

『屍人荘の殺人』も、探偵役が登場して、大学生たちが夏の合宿に出かけて……という超ありがちな展開に、「はいはい、こっからどうせクローズドサークルになるんでしょ」と思いながら読み進めた。

それがまさか〇〇になるなんて……。
あまりの衝撃的展開に、ページをめくる手が止まらなかった。

さっそく紹介していこう。


あらすじ

神紅大学ミステリ愛好会に所属する主人公・葉村譲は、「神紅のホームズ」を自称するミステリ愛好会会長・明智恭介と共に、「ホームズとワトソン」のような関係で学内の事件に首を突っ込んでいた。

2人は、探偵少女(?)の剣崎比留子に誘われ、映画研究部の夏合宿に参加することになる。
山奥のペンション・紫湛荘にたどり着いた彼らは、予想だにしない状況に見舞われ、紫湛荘に立てこもることになる。

そこで起こった密室殺人事件。
果たして彼らは生き残り、この事件を解決することができるのか!?


ネタバレなし感想

作者の今村さんは、「今までに無かったミステリを」という思いでこの作品を作り上げたそうだ。
まさに、『屍人荘の殺人』は今までになかったミステリだ。

ミステリに〇〇をかけ合わせるなんて、今まで全く思いつきもしなかった。

途中まで「ミステリにありがちな展開」をなぞっていたので、あまり期待せずに読んでいた。

しかし途中の展開で「そう来たか!」と思った。この要素があるだけで、「ありがちなミステリ」が一気に化ける。

先の予見がつかず、予想を裏切ってくれるのが心地いい。

また、ミステリは登場人物の名前が多くて覚えにくいという難点がある。しかし本作では、途中で登場人物の名前を再度紹介し、語呂合わせなどで覚えやすくしてくれている。それも、話の流れの中で自然に。親切〜!!!

各登場人物もキャラが立っていて魅力的だ。
「比留子」って名前かわいくていいね。

続編もあるようなので、登場人物のその後をまた追いたいと思う。

1つ注意点があるのだが、本書を読む予定がある人は「屍人荘の殺人」と検索するのは避けた方がいい。なぜか犯人のネタバレが出てきた
私の端末だけかもしれないが念のため注意喚起しておく。

↓以下ネタバレありなので注意。


ネタバレあり感想

ゾンビの登場により、「なんだ!?実はパニックホラーものだったのか!?」と思ったものの、紫湛荘に立てこもってからはちゃんとミステリだった。おもしろ!

ゾンビがクローズドサークルを形成するためだけの要素でなく、密室殺人の謎としてちゃんと関わってくるのもいいね。

明智は死んだと見せかけて、実は生きてるんでしょ。いいキャラだもん。と思っていたが、普通に死んでて悲しかった。
もっと明智のことを知りたかったよ……。

最近読んだ中で1番わくわくした本だった。


個人的に気になる点が少々。
夜這い」という言葉をどういうニュアンスで使っているのかが、私にはいまいちわからなかった。

というのも、夜這いというのはレイプの隠語の場合があって、「セックス目的で女性の寝所に忍び込む(合意なし)」という意味だったり、単に「セックス目的で女性の寝所に訪れる(合意あり)」的な意味だったり、使用者によって両極端に意味がばらけていることが多い。

今回は七宮と立浪は、行為後に付き合ってるから合意なんだろう。そうすると出目の「未遂」は何の未遂なのか。
「口説いたがうまくいかなかった」程度のことを指しているのか?あるいは「強引に迫った」としたら、レイプ未遂にならないか?
高木は「未遂だからまだいい」と言っていたが、後者だとしたらむしろ七宮と立浪よりタチが悪いと思う。

また、「女性を喰い物にする」の意味は?
単に付き合いを匂わせてヤリ捨てしていた、くらいの意味なのか、断れない状態に追い込んだ、実質的レイプを繰り返していたのか。

前者なら、それにひっかかるウブな女の子はバカだなあと思うし、後者ならOBは極悪非道な鬼だし。でも、部屋提供してくれてるOBたちが、夜部屋にやってきてもなかなか断りにくいよな、とか思ったり……。

なんか、そこの微妙なニュアンスによってOBたち(特に立浪)への同情心とか、犯人の正当性とか、そういうところに寄せる気持ちが変わってくると思うので、重要な要素だと思うんだけど。

「夜這い」に限らず、「女性関係の問題」「喰わせる」「生贄」みたいなふわっとした表現が多くて、結局OBたちが具体的になにをしたのかがわかりにくかった。

なんかさ……男女関係って色々な場合があるじゃないですか。その「色々」の部分が実はめちゃくちゃ大事で、そこの事情によって誰に責任があるとか誰が悪いとか変わってくる思う。

しかし本作では「色々」の部分がぼかされているので、いまいち誰に思いを寄せることもできなかった。また、OBが何をしたのかよく知らない状況は登場人物たちも同じなのに、葉村がOBに同情しすぎじゃないか?と思ってしまった。

私は自殺だって、本来はそこまで追い詰めた奴の「殺人」だと思うので、たとえ悲しい過去があろうが、関係ない女を巻き込んでる時点で同情に値しないと思うんだけどな。

そういう事情で、「作中に共感できる人物がいない」という点が少しネックにはなった。


おわり

個人的に気になる点はあげたけれど、めちゃくちゃ面白かった。

『屍人荘の殺人』は、第27回鮎川哲也賞の受賞作品で、最終選考では満場一致で選ばれたという。
それも納得の圧倒的面白さだ。

作者の今村昌弘氏は、大人になってから小説を書き始めたという。それにも驚きだ。天才か!?

私も葉村がミステリを語るように、あるいは重元がゾンビ映画を語るように、好きな本を語れるようになったらいいな。たくさん本を読むぞ〜。

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