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言葉の蛇口〜小さな草花の中に〜幸福を探し出す方法

この間ね、もうすぐ5歳になる男の子とご両親が遊びにきてくれたの。
お父さんは初めてお会いしたんだけれど、男の子から私のことはよく聞いているからって、親戚みたいに楽しく過ごせたわ。男の子が、「どうしてもパパとママと3人で遊びに行きたい」って言っていたらしいの。嬉しいわよね。
男の子は、お父さんを連れてうちの庭を案内していたわ。
庭の花や野菜を教えていくの。
「これがジャガイモ。白い花が咲いているでしょ。土の中においもがあるんだよ」
「これはきゅうり。小さいきゅうりが見えるでしょ。きゅうりは好きじゃないけど、今度食べてみようと思っているんだ」
「これはアジサイ。この間、この葉っぱの中にカタツムリがいたよ」
「これはレモン。葉っぱを見て。この黒い虫はアゲハチョウの赤ちゃん」
「あの木はイチジク。イチジクができたら食べさせてくれるって」
「あれがクマバチ。大きいけど、怖がらなくても大丈夫」
こんな風に、見るものを一つひとつ紹介していたの。かわいいのよ。
しばらくして、お父さんがこう聞いたの。
「◯◯君、いろいろ教えてくれてありがとう。いつの間に、こんなにたくさんのことを覚えたの?」って。
すると、こう答えたわ。
「この家のおばちゃんが教えてくれたんだ。『花や木にも名前があって、よく見るといろんな虫がいて虫にも名前があるんだよ』って。ぼく、知らない花や虫を見つけたら、おばちゃんと一緒に図鑑で調べているんだ。おばちゃんが教えてくれることもあるけれど、ぼくが教えてあげることもあるんだよ。」って。
お父さんが来てくれたことが嬉しかったんだろうね。たくさんお喋りをして、おやつも食べないでお昼寝をしてしまったの。
お父さんがこんなことを言ってくれた。
「いつも、こんな風に過ごさせていただいているですね。どうして息子がこの家に来ることを楽しんでいるのか、どうして私を連れてきたかったのかがよく分かりました。息子の案内でお花や野菜、虫を見ていて、私もとても楽しかったんです。
花や虫に興味が湧いたということではなくて、実際には、花や虫を案内してくれる息子の姿を楽しんでいただけなのだと思いますが、とても幸福な時間でした。花や虫を見るために足を止めるようにはしてこなかったことを少し後悔しています。
きっとこれまでにも息子は何度も立ち止まりたい場面があったのだろうと思います。仕事が忙しいので、休日の息子と過ごす時間はできるだけ意味のある時間にしようと思ってきたのですが、予定をこなすことが目的になっていたのかもしれません。息子から『遊園地に行くよりも、おばちゃんの家に行きたい』って言われた理由がよく分かりました。息子とはもう少しゆったりとした時間を過ごしてゆこうと思います。花や木々、虫や鳥のことを息子と一緒に調べたり、息子から教えてもらうことを大切にしてみようと思います。そして、時々、この家にも遊びにきます。」
 
草花や木々も虫や鳥も、名前を覚えてみると、目に留まるようになるわ。見過ごしてきたものに目を留めると、そこから気づかされることもたくさんあるの。幸福を探し出す方法の1つは、足元の草の名前を覚えることかもしれないわね。

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