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『聖なるズー』を読んではいけない。

我ながらとんでもなく失礼なタイトルで、著者の濱野ちひろさんと、出版社の集英社さんに申し訳ないのですが、この本を読んでしまった正直な感想は、『聖なるズー』を読んではいけない。です。

ただ、無茶苦茶面白い本です。面白いという形容詞はいささか不謹慎なのですが、面白い本です。

私は、ゲームが好きで、それはもう呼吸をするようにゲームを遊んでいます。漫画も呼吸です。ごく稀に脳に大きなダメージを与える作品に出会いますが、基本的には呼吸です。

ですが、本は私にとって深呼吸です。意識を集中しないと読むことができません。私は読書があまり好きではないのです。

私にとって、本は深呼吸です。ですので、意識をして吸い込んだ感想は、どこかに吐き出さないと窒息死してしまいます。ですので、今この感想を書いています。

私がこの本を読んだのは、このLive配信をみたのがきっかけです。

こちらのイベントで、ダイヤモンド社の今野良介さんが、『聖なるズー』をお勧めしておられました。

今野良介さんは、担当書を11作連続重版に導いた、敏腕編集者さんです。(多分、今年中にその記録は12作に塗り替えられると思われます。)

また、早稲田大学文学部ご卒業で『雨は五分後にやんで』に小説寄稿もされておられる、ご自身もとても文才のある方です。

ただ、そんな言葉のプロフェッショナルとも言える今野さんが、この『聖なるズー』という本をご紹介されている時、正直なところ、さっぱり要点を得ない、不可思議な書評をなされておられました。

いわゆる、「出方」ではない「裏方」の方なので、ご緊張なさっている? とも思いましたが、このお言葉を聞いている時に、それが理由じゃないぞと思ってしまいました。

愛の多様性って、世界に77億人くらいいるとしたら、77億通りあるはずで、それを踏まえて多様性と言えると考えた時に、全然他人事じゃないんだなって思ったってことが響いた感じですね。
ビジネス書編集者が語りつくす!「今年の推し本」 #読書の秋2020

なんというか、私には、説明を放棄しているように思えたのです。
「この本には77億通りの感想があるよ」
って。

敏腕編集者さんで、今年中に担当書を原書12作連続重版に導くであろう、言葉のプロフェッショナルですら、上手に説明できないって、一体何が書いてあるのだろう・・・?

私は、とても気になって、物見遊山でこの本を購入してしまったのです。

さて、今更ですが、この本の概要を説明いたします。正確を記すため、Amazonの紹介文を引用します。

衝撃の読書体験! SNS、ネットで話題沸騰!! 2019年 第17回 開高健ノンフィクション賞受賞作。「2020年Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」「第19回 新潮ドキュメント賞」「第42回 講談社 本田靖春ノンフィクション賞」「第51回 大宅壮一ノンフィクション賞」各賞ノミネート!
犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」。性暴力に苦しんだ経験を持つ著者は、彼らと寝食をともにしながら、人間にとって愛とは何か、暴力とは何か、考察を重ねる。そして、戸惑いつつ、希望のかけらを見出していく──。
【開高賞選考委員、驚愕!】
・「秘境」ともいうべき動物との性愛を通じて、暴力なきコミュニケーションの可能性を追い求めようとする著者の真摯な熱情には脱帽せざるをえなかった。――姜尚中氏
・この作品を読み始めたとき、私はまず「おぞましさ」で逃げ出したくなる思いだった。しかし読み進めるにしたがって、その反応こそがダイバーシティの対極にある「偏見、差別」であることに気づいた。――田中優子氏
・ドイツの「ズー」=動物性愛者たちに出会い、驚き、惑いながらも、次第に癒やされていく過程を描いたノンフィクションは、衝撃でもあり、また禁忌を破壊するひとつ

イライラします。どれもこれも感想を書くことから逃げています。貴様らそれでも言葉のプロか!

私は、この本にかかれた「本当のこと」を、引用と共に語ってやりますよ! ええ、雄弁にかたってやりますとも!

「セクシュアリティは今世紀最大の問題なんだ。これから人々はこのことについて、きっと、真剣に考えていくんだよ。食の次に、セックスは大事なことだと僕は思う」
ーエピローグより抜粋ー

この本は、セックスよりも、大切な事をそれはもう雄弁に語っています。そう!

ドイツ人が愛してやまない伝統料理「クネーデル」はおいしくないと!


すみません。
今野良介さんの書評はとても正しかったのです。
やっぱり私にも、この本のことを上手に語ることはできそうもありません。

ですが、『聖なるズー』を読んでしまった私は、これから一生、この言葉にさいなまれ続けることでしょう。

それまで「他人事」だった問題を、身近な当事者の「自分事」として突然提示される。
ー「第六章ロマンティックなズーたち」よりー

改めて、注告をしておきます。『聖なるズー』を読んではいけない。

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