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憎しみのオーラ

バイトをしていた居酒屋の正社員に、Mさんという人がいました。
確か、今年30と言っていたと思います。
とにかく気さくな人で、大きな体に下がった眉毛もとても悪い人には見えなくて、本当によく好かれている人でした。
皆に明るく話し掛けたり、自費で豪華な賄いを作ってくれたり。
異動の多い社員さんの中でも何故か特別に異動が多い人だったけれども、どこでも上手くやっていることが証明していました。

ただ一つ見当たる、その人の欠点は、奥さん。
いや、この言い方は語弊がありすぎます。が、何と言えばいいのでしょう。
とりあえず、聞いてください。

Mさんの奥さん(という言い方には違和感もあるけれど、私はその人を存じ上げないのでこのままいきます)は、嫉妬深いというか束縛が強いことで、正社員やバイトの間では有名でした。
束縛が嫌だとMさんはよく零していました。
結婚指輪を捨てたいとか。パチンコ以外は一緒に出掛けたくないとか。家に帰りたくないとか。
離婚はしたいけれど子どもは好きだし、色々面倒なのでしないのだと。

結婚した経緯だっておそろしく受け身だったらしく、Mさんは結婚する気はなかったのらしいのです。
毎日毎日、婚姻届にサインしてくれと言われるのがうざったくて逃げていたMさん。
けれど既に奥さんは妊娠していて堕ろせない時期になってしまい、もう面倒臭くなって結婚した、と本人談。

私はMさんが大好きでした。
いつも笑顔で、周りにいる人間を癒やしてくれる人でした。
でも、奥さんのことを語るMさんは大嫌いでした。ただただ、妻のことを憎んでいるみたいで。というか憎んでいて。今すぐに離婚できると語り。家に帰りたくないと言い。
そして私は思いました。
憎しみは、きっと何かよくないものを呼び寄せているに違いない。

だって、奥さんのことを語るMさんには近寄りたくなかったから。
出来ればMさんの口か私の耳を塞ぎたくて、話題を変えたくて、側には寄りたくなくて、そんな言葉を浴びながら作られたMさんの賄いは食べたくなくて。

憎しみを抱いてしまうのは仕方がないとしても、出来れば、自分の中で何度もろ過して土に埋められるような感情になるまでは仕舞っておけるようになりたいのです。
憎しみは、体の外へ出すべきではないのでしょう。悪いものは、悪いものを誘うしかないから。幾重にもユーモアにくるんで笑顔で吐き出せるようになるまでは。


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