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ショートショート:「角の部屋に住む小豆洗いさん」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝妖怪〟と〝皮肉〟から考えた話です。
僕個人の息抜き回みたいなものなので、
気楽に楽しんで頂けると幸いです。


【角の部屋に住む小豆洗いさん】

作:カナモノユウキ


古い木造アパートの奥から、今日もシャカシャカと音がする。
角部屋の扉には【安眠枕小豆洗い】と書いていて、そこはかとなく怪しい。
ただ今日は流石に言わないと、毎晩のこの騒音のせいで、僕の安眠が妨げられ続けてしまう。
「すみませーん!新井さん?301号室の吉田です、新井さーん!」
ドアを叩いてしばらくすると、シャカシャカという音は止んで、中から如何にもな中年男性が現れた。
「ああ、吉田さん。どうしました?」
「どうしましたじゃないんですよ、毎晩毎晩何ですかこの音。」
「この音って、あー。小豆洗ってる音ですか?」
「何の音かなんてどうでもいいんですよ、何時だと思ってるんですか。」
「あなたが聞いたんじゃないですか……。ああ、夜の一時ですねぇ。」
「ですねぇじゃなくて、うるさいんですよシャカシャカ。」
「あー……ごめんなさい、五月蠅かったんですね。」
「そうですよ。ここ壁薄いし、小豆洗ってる音なんて、ここでは筒抜けなんですよ。」
「ご迷惑かけてすみませんでした、これからは静かに洗いますんで。」
「いや、夜に洗わないでください。」
俺はこの人と絡んだのは数回しかない、だからちゃんと面と向かって話すのはこれが初めてだ。
そんなほぼ初対面の相手に言うのは、はばかられる感想なんだけど。
……なんか、人間離れした顔してるなぁ。
「あの、新井さんて何で小豆洗ってるんですか?」
「ああ、この看板に書いてる〝安眠枕〟を作るためです。」
「安眠枕って、もしかして〝小豆枕〟を作ってるんですか?」
「ええ、そうです。」
薄く開いた扉の直ぐ傍にはダンボールの山と、更にその奥。
風呂無しワンルームが広がっている場所には、ザルに入った小豆と大量の枕が見えた。
「あの、お一人で作ってるんですか?部屋凄いことになってますけど。」
「そうです、この枕を作れるの私だけなんで。注文も最近増えたから大変なんですよ。」
「へぇ~、そんなことしてたんですか新井さん。…注文が増えたって、儲かってるんですか?」
「まぁぼちぼちですよ。」
「……引っ越さないんですか?」
「私も色々考えてるんですがね、ここが好きなもので。」
今にも潰れそうなこのアパートが好きとは、物好きな人だ。
それにしても、夜なべしないと間に合わないほど人気な枕って、いったい何なんだろう。
小豆枕なんて、今となっては結構マニアックな枕のはずなのに。
「あの新井さん、その枕は何で人気なんですか?」
「なんでも、日々の疲れが洗い出されるように、眠りに入れるそうです。」
「洗い出されるように……〝寝やすい〟ってことですか?」
「いやそれが、本当に疲れを癒す枕の様で。」
「小豆枕ってそんな効果ありましたっけ?」
「私が作るから、そういう効果があるみたいで。」
「へぇ~、なんか特殊な技術が必要だったりするんですか?」
「ええ、まぁ……。」
なんだか表情が曇った、何か言いにくいことでもあるんだろうか……。
まぁでも、企業秘密ってやつかな。
「良ければ、おひとつ使ってみます?」
「え?いいんですか?」
「騒音で迷惑かけましたし、お詫びの気持ちと言う事で……。」
「あぁ~、じゃあ遠慮なく。なんか、ありがとうございますぅ。」
「いえいえ、これからは静かに洗いますんで。」
「ええ、お願いしますねぇ。」
新井さんに枕を貰い、現金な性格の為か許してしまった。
何だかわかんないけど、ここ数ヶ月毎日シャカシャカ小豆を洗って作っても、追いつかない人気の枕か。
なんだか得しちまったなぁ~、明日も早いし早速これ使って寝てみようかなぁ~。
銀行勤めの朝は早いから、寝入りがいいなら尚のこと好都合だしな。
そんな気持ちでワクワクしながら眠る準備をして、布団に入り枕に頭を乗せた瞬間。
……気づいたら、朝だった。
しかも起きたい時間ジャストで目覚ましよりも数秒早く。
頭は12時間睡眠した時の様で、5時間しか寝てない感覚とは思えない爽快感。
「……スゲー効果だ。」
小豆を洗う音で苦情を入れた俺がバカみたいだと反省する程、即効性の高いモノだなんて。
数日使っても効果は毎朝一緒で、29年間生きてきてこんないい枕に出会ったのは初めてだ。
ただの〝小豆枕〟のはずなのに。
「近々、菓子折りもって挨拶しに行こう。」
おはぎが良いか、あんころ餅にしようか。
そんなことを考えながら、今日も枕に頭を乗せた。
 


―――――――数日前、私の所に〝また〟苦情を言いに住人が来た。
結構怒っていたが、枕を渡したらすぐさま大人しくなった。
それもそうだろう、私〝小豆洗い〟が丹精込めて洗った小豆を使った特製枕だからな。
いつも洗っている小豆に、まさか人間の浄化効果があったなんてねぇ。
数百年以上生きて来たけど、最近知ったよ。
……それにしても、こうして人間の世界で生きるのも大変なんだなぁ。
妖怪なんて文句も言わず、密やかに生きているのにさ。
音がうるさいとか、枕が固いとか、文句ばっかり言っている。
テレビもネットも、どこもかしこも文句だらけ。……昔はこんなにうるさくなかったのになぁ。
こんなことに疲れた人間もたくさん居るんだろうけど……枕も小豆も追いつかないよ。
小豆を洗う音なんて気にしないで、僕たち妖怪は、君たち人間が静かにして欲しいと願うばかりだよ。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

以前にも何作か〝妖怪〟を題材に書いたのですが、
「小豆洗いは外せない!」と変な使命感が湧いて書いたら、
思いのほか変にシュールな作品になりました。
僕個人の考えとして、「大人しい妖怪から〝うるさい〟と言われることほど、皮肉なことはない。」と思い、こういうオチになりました。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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