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【ワーホリ国際恋愛体験談】㉒内緒のはなし バイロンベイの男2(前編)
☆前回までのあらすじ☆
29歳の時に初ワーホリでオーストラリアへ!
1年間のワーホリ期間が終りに近づき、会いたかった人たちに再会するための旅に出ることに。
最も恋焦がれたのはバイロンベイで出会った才能溢れる画家、妻帯者のロンで…。
ロンとの最初の出会いはこちら↓
☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。
***
(本編ここから)
ツアーで出会った韓国人のキムと一緒にバイロンベイの海を臨む公園を歩いていたとき、会いたかった人に半年ぶりに再会した。
彼の隣には奥さん。私の隣にはキム。
私は何でもないような笑顔で挨拶をした。
それは私を好いてくれるキムを傷つけまいとするためか、
あの人に対しての強がりか、
あの人の奥さんに対して後ろめたい思いを抱えていたからか。
たぶん、大丈夫。
このドキドキは誰にも気づかれなかったと思う。
会いたかった人は美しい絵を描く画家のロン。
初めて彼の絵を見たあの瞬間から、私は彼の描く世界の虜だった。
簡単に挨拶して、何事もないようにキムを連れて立ち去る。
また顔を見られた喜びと、彼に覚えてもらえていた嬉しさで、私は内心どうにかなりそうだった。
キムが何か話していて、私はテキトーな相槌をし、立ち止まることも振り返ることもせずいつも通りを装って歩いた。
非通知から私の携帯電話(当時スマホは無かった)に着信があったのはその夜。
ロンからだった。
以前私の番号を教えてはいたけれど実際連絡をもらったのはこれが初めて。
奥さんにバレないよう、わざわざ公衆電話から電話して来たのだろう。
「ビックリしたよ!来てたんだね!」
私のことを覚えてくれていただけでも嬉しいのに、彼の嬉しそうな声は私を一層舞い上がらせた。
奥さんにバレるのを恐れ携帯電話に私の番号を登録できないと、かつて一緒に行ったパブで笑っていたロン。
メモした紙をこっそりとっておいてくれてたのかなと思うと、もうたまらない気持ちになる。
あんなメモ、捨ててくれれば何も始まらなかったのに。
「今度はいつまで居るの?
ちょっとだけで良いから、また会って話したいな」
私の様子を窺うような彼の声は、初めて会ったときのことを思い出させる。
「私も、会いたいです。
もうすぐワーホリの期間が終るからそれほどここにも居られないけど。」
だって私は、ロンに会いたくてまたバイロンベイにやって来たんだもの。
私の「会いたい」という言葉に異様に反応して喜ぶ彼。
妻帯者のクセしてそんな無邪気な反応をしないでほしい。
会う約束をしたのは2日後の夜。
キムがシドニーに帰って行った日だった。
ロンのことを諦めようとして、これまで他の人に目を向けようとした。
最後の悪あがきでキムを好きになれればと少し頭をよぎったけれど、結局ダメだった。
もうロンしか見えなかった。
彼は私が宿泊するバッパーに迎えに来てくれ、夜のドライブに出た。
町の小さな夜景が見える場所まで行き、彼は車を停める。
「キレイでしょ?
うるさくなくて、ひとりで考えたいときにたまにここに来るんだ。」
辺りには誰も居ない。
大げさでないささやかな夜景が、明るいところで会えない私達にはちょうど良かった。
車の中から少し二人で夜景を眺めて、彼は切り出した。
「はじめに言っておくけど、嫌な思いをさせたらごめん。
でも、僕は君にまた会えて本当に嬉しくて。」
何でそんなことを言ってくれるのか。
それだから私は、諦められない。
仕返しのつもりで、はっきり言ってやった。
「私、あれからずっと後悔していて、だからまた会いに来ました。
会えて嬉しいです。」
まっすぐ彼の目を見て。
私は本当に後悔していた。
以前キスを断ったことじゃなく、少なくともロンに興味を持っているということを伝えなかったことに対して。
「え?」
ロン、びっくりしてた。
「え?会いに?僕に?」
動揺してた。
ものすごく。
私が彼を何とも思ってないと思ったんだろう。
だからあんなに、遠慮なく私への気持ちを表現できるんだ。
私ばっかり自分の気持ちにストップを掛けなきゃいけないなんて、ズルイ。
ロンも気持ちをセーブする努力をしろと、私は言いたかった。
しばし呆然とするロン。
ひと呼吸あって、
「君に、触れたい」
私は俯いて、
「はい。」
彼の手が私の手の上にぎこちなく重なる。
少し探るように、遠慮気味に、
「キスをしたい」
ちょっと躊躇って、恥ずかしくて弱りきった顔を上げて私、
「はい。」
彼が近づく。私は緊張で肩が少し上がる。
触れた唇が熱かった。
唇を重ねたまま、ぎこちない動きで彼の手が私の腕に、腰にやってくる。
キャンバスに対してはあれほど堂々と美しい動きを見せた彼の手は、とても不器用に私に触れた。
シャツの裾から彼の手が中に入ってきた。
そのまま恐る恐る胸に伸び、私は堪えきれず横を向く。
熱い吐息が思わず漏れた。
お互いに何も喋ることなく、ティーンエイジャーでもないのに、三十代の私たちはぎこちなかった。
きっとお互い、別のことを考えずにはいられなかったから。
彼の手が太ももにもやって来た。
お気に入りの大きな花柄のスカートがたくし上げられる。
「ロン、これ以上は…」
太ももを滑る彼の手に触れた。
ロンは慌てて私から手を離して、
「そうだよね。良くないね。」
恥ずかしさに目を逸らした。
一呼吸。
「…どっか、入りたい、ね?」
下から窺うような目で私を見る彼。
私は少し身なりを整えながら俯いたままで、
「…はい」
小さく頷いた。
(続く)
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