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ヨウジヤマモトと古今東西のスタイルアイコンから見えてくる、黒ファッションの魅力

自称ファッションアディクトで、古今東西のファッションがとにかく三度の飯より好きな自分が、黒い洋服のコーディネート、というあまりにもザックリしたテーマに取り組んでみようと思う。

私にとってその原点はヨウジヤマモトのお洋服である。べつに現在全身をヨウジで固めて生活しているわけではないが、ある一時期とてもハマってしまい、年間3桁の金額をつぎこみ、挙句の果てにパリコレのお席をいただくまでに中毒化してしまった。世の中に黒い服やファッションスタイルは山のように存在するが、生まれて初めてヨウジヤマモトの試着室で袖を通した時の感動はたぶん、一生忘れないだろう。

違うのである。ぜんぜん、それまで着てきた服とは感覚がぜんぜん違うのだ。着心地とかいう言葉では表しきれない感覚で、こんな自分の姿はこれまで見たことが無い、と鏡を見て思った。生地の重さまで完璧に計算しつくされたシルエットで、着る快感を味わえる服を生まれて初めて着た瞬間だった。

私にとっての神様みたいなヨウジの話をし始めたら終わらないので、深堀りはやめておくが、ブラックファッションの歴史を遡ると、どうしたって80年代に世界的に衝撃を与えたカラス族ファッションに行き着く。山本耀司と川久保玲が起こしたブームは革命だった。全身真っ黒という色もインパクトがあるが、シルエットも体を覆い尽くすようなビッグシルエットで、当時流行していたボディコンとは異なる形状で、装飾やアクセサリーも少なく、ミニマルなスタイルだった。それが禅のような神秘的なイメージと紐付いて、東洋から来た黒の衝撃、なんて形容もされていたようである。

カラス族で検索すると見つかる代表的な写真 1982年東京(権利元 パルコ、アクロス編集部)

黒という色はとにかくミニマル。何も語らない、寡黙な色だ。
だからこそ、着る人がもともと持っているディテールを反射させる。肌の色、目の色、髪の色、体温、薫り、話し声、息遣い。人間が持つ個性を表すすべての要素がにじみ出る。誰が着ても同じ色だからこそ、ごまかしが効かない、私は私でしかない、という状況に着る人を追い詰めていく。

そういう目線で、私が惹かれる女性ブラックファッショニスタたちを勝手に挙げてみようと思う。笑

・順不同です
ジェーンバーキン
シャルロット・ゲンズブール
ソフィア・コッポラ
ケイト・モス
ウィノナライダー
シャーデー
山口小夜子
ケイト・ブランシェット
キャロリンべセットケネディ
ジョージア・オキーフ
オードリー・ヘップバーン
アヌーク・エーメ

ざっとこんな感じで、日本人が少ないのはなぜか不明だが、特にキャロリンべセットケネディ、ジョージア・オキーフ、オードリー・ヘップバーンについて言及していきたい。

・世界一ファッショナブルで美しい夫婦

1998年の写真(出典元 vanityfair.com FROM REX/SHUTTERSTOCK.)

キャロリンべセットケネディはケネディジュニアの妻で、もともとカルバンクラインで働いていたという経歴を持ち、ヨウジヤマモトのファンだったようで、ミニマルなモノトーンのスタイルは、プラチナブロンドの髪の透明感を引き立たせていた。ヨウジの真っ白でプレーンなシャツをカシュクールのように着こなしたイブニングファッションは伝説のコーディネートだし、オフショットも多く撮られており、夫妻のファッショナブルでアメリカンなスタイルは、マンハッタンの街並みの中でどの写真も映画のワンシーンのようだ。

1999年 伝説的な白シャツの着こなし
90年代スタイルのお手本みたいな風景
JFK Jr.のファッションもアメリカントラッドな雰囲気で素敵
クリーンでカジュアルな着こなしの2人

キャロリンべセットケネディの洗練されたスタイルの素晴らしいところは、アクセサリーが最小限で、まさに自らの美しさをあえてモノトーンで雄弁に語らせているような、戦略さえ感じさせる点である。
言わずもがなだが、こんなに素敵でチャーミングで美しい二人に悲劇の最後が訪れるなんて、神様は残酷すぎる・・・。2人の姿は永遠に若いままだから、憧れは余計に尽きないのかもしれないが、この夫婦が素敵なグレーヘアで歳を重ねてマンハッタンを歩く姿を見たかった、と思っているファンは世界中にいると思う。

・若き日の顔立ちの美しさと晩年のミニマルスタイルの秀逸さ

1948 portrait by Philippe Halsman at her home in Abiquiú, New Mexico.

画家であるジョージア・オキーフ、その作品も大好きだが、彼女のファッションがミニマルでとにかくかっこいい。まるでアジアの老年女性のような、着物みたいな白黒の服装に身を包み、顔に刻まれた皺が知性を醸し出している。

John LoengardによるLIFE誌のポートレート

作品においても、余分なものを削ぎ落とすことで本質を表出させるような考え方を持っていたようであり、そのスピリッツは服装にも現れていたのかもしれない。興味深いのは、そんな引き算のような、日本の美学と共通する価値観に、彼女が強く影響を受けた、ニューメキシコの伝統的な装飾やモチーフが融合したスタイルがとてもクールなこと。由縁のあるモチーフだからこそ、見るものを唸らせるような腹落ち感があるのだろう。こういうスタイルを見ると、ファッションというのは正に生き様だと感じる。(ちなみに晩年まで頻繁に身に着けていたOKブローチ。もともと真鍮だったようだが、※写真1枚目 年老いて髪がグレーヘアになっていった時、その髪の色に合わせてシルバーにメッキをかけて愛用し続けたらしい。なんてこった、やることなすことかっこいい・・。)

George F. Mobley, Georgia O’Keeffe and“Black Place III,” 1980.

そして驚くほど若き日の顔立ちが美しく魅力的で、黒髪に静かだけどドラマチックな瞳が、知性の内側に秘められた情熱を物語っているように見える。

夫であり写真家のアルフレッド・スティーグリッツによるポートレート
夫であり写真家のアルフレッド・スティーグリッツによるポートレート

・ジバンシィとのコンビで花が咲いた元祖スキニーアイコン
オードリー・ヘップバーンといえばジバンシィ。ヒットした彼女の作品のほとんどがジバンシィの衣装である。麗しのサブリナの印象的なスーツ。(サブリナパンツはイデスヘッドによるもの)ティファニーで朝食を、の黒いイブニングドレス。パリの恋人の真っ赤なドレス。そしてもちろん、シャレードのあのスキーウェアも!この時のサングラスはオリバーゴールドスミスらしい。。素敵すぎる。。

 麗しのサブリナのワンシーン BETTMANN/GETTY IMAGES
ティファニーで朝食を の有名なブラックドレス
ティファニーで朝食を のワンシーン
シャレード のスキー場でのシーン このサングラスが。。

とまあ、今観てもどの作品も面白くておしゃれで最高なのだが、ブラックファッションという視点で捉えると、サブリナのワンシーンが浮かんでくる。年上のハンフリーボガードと恋に落ちるお話だが、彼のオフィスにやってきてサブリナパンツ姿で料理をするシーン。この時のコートもシンプルな黒いコートで素敵なのだが、パッとコートを脱ぐと、全身黒いサブリナパンツスタイルで、トップスの背中が大きくVに開いている。靴は黒いフラットシューズで、アクセサリーはフープイヤリングのみ。これがもうため息が出るほど、子鹿のような華奢な体型が際立って美しい。

麗しのサブリナ の撮影風景 このコートがシンプルでいつ見てもかわいい
麗しのサブリナ の撮影風景
麗しのサブリナ の撮影風景
麗しのサブリナ の撮影風景

さらに、料理を作ろうとしてエプロンを探すが見当たらず、キッチンリネンをエプロン代わりに腰に巻く。好きになってはいけない人に、意を決して別れを告げにくる、この重要な場面に選ばれた最もミニマルな衣装。見事、このワンシーンだけで、彼女の無駄のない体型の魅力と、ミニマルスタイルの潔さが存分に脳裏に焼き付き、忘れられない。

シンプルなコートの下にサブリナパンツとフラットシューズのミニマルなスタイル
麗しのサブリナ のワンシーン

映画の中で華やかな衣装はほとんどジバンシィの作品のようだが、もっともシンプルで、主人公の動きや場面展開と合わせて、一番印象に残ってしまう衣装を、デザイナーではなくスタイリストのような位置づけだったイデスヘッドがデザインした、というのも頷ける。単なる作品としての洋服美ではなく、人が着て、動き、生活や場面に溶け込むからこそ完成する、唯一無二の美しさ。それこそがリアルライフファッションであり、本来洋服というオブジェクトが持つ魅力なのだ。

ある山本耀司氏のインタビューで、なぜ黒い服を作り始めたか?という問いに対して、パリコレに出始めた当時、世の中の女性たちはカラフルでゴージャスな服を着ていて、それに飽き飽きした。誰の目も汚さない黒で、その人の魅力を引き出す服を作った、ということを語っていらしたが、黒い服というのは、やっぱり着る人をある意味、丸裸にしてしまう色なのかもしれない。そうなったときに、自分にどれだけ魅力があるのかどうかを、あぶり出すような色なのではないだろうか。
こんな風に書くと、ブラックコーデで出かけるのが恐ろしくなってしまうかもしれないが・・笑 自分自身が持っている今の魅力に向き合う、鏡のような黒という色を勇気を出してまとってみよう。絶対、誰にでもその人にしかない美しさがあるはずだから。。

【出典】
画家 ジョージア・オキーフのポートレートなど
キャロリン・べセット・ケネディ夫妻のスナップなど
映画 麗しのサブリナ
映画 ティファニーで朝食を
映画 シャレード
山本耀司氏インタビュー記事
※ネットで検索して調べられた写真の権利元は記載していますが、どうしてもクレジットが見つけられなかった画像もあります。ご了承ください。

下記のマガジンでは、ブラックコーデをテーマにコーディネートしたコレクションをご覧いただけます。

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株式会社アンティー・デザイン
⑤Vintage Laboratory 水野可奈子
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