神社の就活体験記 #6|私に優しい求人
49歳の女性である自分が神社に奉職(就職)するには、もっと強い覚悟が必要だと思う一方で、そこまでして本当に奉職したいのかと悩む私。
結局、何もできないまま数週間が過ぎた。
7月の中旬。夏休みを間近に控え、このままでは埒があかないと焦った私は、奉職担当の方に改めて相談のメールを送る。
すると、その日のうちに思いがけない内容の返信があった。
私に優しい求人
予想よりも早く届いたメールには添付ファイルがある。求人票のようだ。
この神社は年齢が高い女性を採用した経験があり、先日、採用担当の権禰宜が来学されたところだと書いてある。
正直、「年齢が高い女性」とわざわざ書いてあることに違和感を覚えたが、背に腹は変えられない。
よく見ると、求人票だけでなく、この神社の奉職に関するQ&Aをまとめた資料が付いていた。
そこにも、年齢制限はなく、他業種で社会人経験のある方も歓迎すること、女性神職の採用実績があり、性別による違いがないことが書いてある。
苦戦中の私にぴったりの、優しい求人だ。
他にも、休暇のことなどが丁寧にまとめてある。多くの神社の求人票を見てきたが、このような資料があるのは初めてだ。
好印象を抱いた私は、次の日、早速神社に電話した。
年齢が高い女性
翌週のある日。私はリクルートスーツを着て三度目の神社訪問へ向かった。今までと違って下町にあるお宮だ。都内だが、自宅から1時間以上かかる。
すでに7月下旬。薄曇りの日だが暑い。最寄駅から10分程の道のりを、ジャケットを持ち、汗を拭きながら歩く。
ようやく到着すると、地元の小さな神社という風情だ。神職と事務員の方が5名ずつ在籍されていると聞いていたが、想像よりもこぢんまりとしている。
だが、境内には、各氏子地域を示す旗のようなものが色とりどりに揺れ、小学生から募った和歌の短冊が何枚も飾られるなど、活気がある。
参拝を終え、参集殿で名前を告げると、程なく採用担当だという女性神職の方が現れた。私より少し年上に見える。
「この方が件の『年齢が高い女性』なのだろうか」
思わず余計なことを考えてしまう。
白衣に浅葱色の袴姿の女性は、そんな私をよそに、2階の応接室へ案内してくれた。
清々しい神社訪問
部屋は披露宴が出来そうなぐらい広々としていた。その中にふたりきりで腰掛ける。
しばらくすると、出仕(見習いの神職)らしい若い男性がお茶を持ってきてくれた。汗だくの私は緊張も忘れてすぐに飲む。
採用担当の神職の方は、この神社のことや今回の求人について、とても丁寧に説明してくださった。
「あの資料を作ったのは、きっとこの方だ」
そう思いながら耳を傾ける。明るく穏やかな様子に、次第に緊張もほぐれてきた。
私が早期退職後に47歳で大学に入ったこと、卒業後は神社に奉職したいと考えていること。さらに、奉職活動に苦戦していることも思わず話す。
すると、彼女自身も以前は保育士だったが、長年勤めた後に同じ大学に入ったこと、この神社に奉職して10年以上経つことを話してくれた。
ゆくゆくは地元に戻り、先祖が代々守ってきた山の中にある祠を守っていくつもりだと言う。
「日本では、一見特別ではない、こういう方が神様事を繋いでこられたのだ」
そんな敬虔な気持ちになる。
同時に、私の経歴を特別視されることへの違和感が溶けるような、清々しい気持ちにもなった。
あっという間の1時間。私たちは応接室を後にした。
お礼を言い、参集殿を出る。すると、突然、
「宜しければ、今ちょうどお宮参りの方がいらっしゃいますので、見学されて行かれませんか」
と言ってくださった。急に思い立ったようだ。
取り急ぎ修祓(神事の参列者へのお祓い)をしてくださる。私は御社殿に上がり、特別に見学させていただく。
生まれたばかりの赤ちゃんが、正にご祈祷を受けているところだった。
この神社は1200年あまりの歴史を持つと言う。
世代を超え、この地で受け継がれてきた神事の営み。神職はそのリレーの一端を担うお務めなのだと感じさせられる光景である。
改めてお礼を言い、私はお宮を後にした。
今までになく感触がよく、清々しい気持ちになれた、三度目の神社訪問。
だが、それで私の悩みがなくなった訳ではなかった。
つづく
写真:本田織恵
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