夏物語
夏。
呼んでないのに一年に一度、毎年やってくる、夏。
暑くて眩しくて、緑の絵の具が何種類あっても足りない、夏。
貴方は夏に何を思いますか。
私が今年の春に読んだ、川上未映子の『夏物語』。
実は去年の夏に買ってずっと読み終えることが出来なかった。夏のように終わりそうで終わらない本だったから。そして何よりも、人生のあれこれが煮詰まった作品だった。実際、読み終えてから感想を書くのに2ヶ月もかかった。夏物語は本の分厚さはさておき、物語自体が人生のように終わらせてくれない。飽きてしまうような日常のあれこれや、その日常の中で忘れられてしまう大切なことが、ちゃんとそのなかなか終わらせてくれないページたちの中に詰まっていた。
女として生きること
働くことの意味
日々の過ごし方
幸せのカタチ
過去との付き合い方
人生は必ずしも各駅停車はしてくれないから、知らないうちに特急に乗っていて沢山のものを飛ばしてしまっているように感じる時がある。そんな時に自分にとって本当に大切なものは何かを、見つめ直すキッカケになる1冊だ。
私の夏は、18歳から違う季節になった。
もう今の夏を夏と呼びたくないくらい、18歳までの夏にはもっと色が付いていた。きっと学校があって夏休みがあったこと、そして何より家族といる時間が大きい。学校がある日常から解放されて、何時に起きろと言われることもなければ、夜だって寝ない限りいつまでも夜だった。主人公の夏子は小さい頃から夏も働いていたけれど、私は働きもせずに旅行に連れてってもらったり、友達とプールに出かけたり、恋人と砂浜にハートを書いたり、ぷかぷか浮く浮き輪のように軽く、夏の葉っぱのように鮮やかな日々だった。
鮮やかな私の夏は自然と家族に囲まれた地元と一緒に、まだそこにあるのかもしれない。
私は生まれ育った場所に4年間帰っていない、おばあちゃんとおじいちゃんのシワが数えられないくらい増えていて、いとこには身長が抜かれていると思う。この4年間、私は何かをゆっくりと忘れつつある。私が住むNYの街みたいに私がごちゃごちゃしている。何でもあるこの街は、私にないものを目覚まし時計のように毎日教えてくる。頼んでもないのに。
生まれ育った場所から離れて暮らしても、生まれ育った場所の自分を置いてきてはいけないのかもしれない。
知らないことを知らなかった私を忘れてはいけない。
この街で出会ったかけがえのない人達、出来るようになったこと、何度朝を迎えても忘れたくない幸せたち。そういうものはいつだって小さかった頃の自分が気付かせてくれる。いつだって、すごいねお姉ちゃん。って褒めてくれると思う。
だから今これを読んでくれている人と私の周りの大切な人たちを褒め称えたい、すごいねって。こんなにも出来ることが増えて、沢山のことを乗り越えてきたんだねって。
いつまでも忘れないで、1人で何も出来なかった、知らないことを知らなかった貴方を。
今年も夏が来た、呼んでもないのにやってきた。
夏物語を読んでいる頃に書いた詩
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