見出し画像

Reviews-2 Movie Review

Book Review, Movie Review - 読んだ本や観た映画の感想なぞ。実のところ、映画鑑賞と読書が我々、夫婦の趣味……というか、毎日やることです。なので面白かったなぁとか、考えされられたなぁなんて映画や本なぞを紹介していければいいなと思います。

今回は、Movie Review。おすすめしたい映画、ブラックフィルム編。

少しだけ序章のような:Noteの自己紹介的な文章でも書いているけれど、私の知るアメリカという国は、夫アルゴを通じてのアメリカである。伴侶や友人、周囲の人たちによって、アメリカという国は色々なとらえ方、見方があると私は思う。私が見て、知るアメリカの多くはブラックカルチャーが基軸である。だって伴侶、その家族がブラックなのだ。

たまに伴侶が黒人である、というと、『ふ~ん(ニヤニヤ)ブラックが好きなんだねぇ』と含みのある言い方をされることがある。ちなみに逆にアルゴも妻が日本人だというと、『ほ~ん、アジア人フェチなんだね(ニヤニヤ)』と言われることも多く、なんだかなぁと思う。

人には色んな趣味嗜好があることは知っているし、パートナーとして選ぶ人を人種で選別する人もたくさんいることも知っているが、私は別にアルゴがブラックだから付き合ったわけでも、籍をいれたわけでもない。私は単にアルゴという人間に恋をしてしまっただけだ。そんだけのことなのだ。

とはいえ、アルゴと一緒になってブラックカルチャーに触れることが多くなった。映画、音楽、文学、そして歴史。何度か人種差別についてnoteを書いているので、今回はそれにも関連した映画を3作。どれもオススメなのですが3作ともテーマがヘビーなのでご注意。

Menace II Society

1993年の作品。Menaceというのは、恐怖、危険とかいう意味だからタイトルを直訳すると、「社会への脅威」となるのに、なぜ邦題は「ポケットいっぱいの涙」とかいう陳腐なタイトルになっているのか全くもって意味不明であり、作品の内容、この作品が発表された意味などを考えると、このバカバカしく、陳腐で安っぽい邦題に憤怒を覚えざるを得ない、というのが私のまず第一のコメントである。正直、配給してる会社に10ページくらいにわたる苦情のお手紙でも書き綴りたいと思うくらいには腹立たしい。

ともあれ、この映画はオットであるアルゴと初めて一緒にみた映画である。ママ宅のテレビで。低予算映画として作られたこの映画はゲットーに住む黒人少年の話。ドラッグの売人をする少年の日常的な話。ストリートや家族との生活。貧困、差別、ドラッグ社会への告発と警鐘とも言える作品。若い黒人男性が抱く苛立ち、憤り、悲しみ、苦しみが生々しく描かれている。ずいぶんと前に作られた映画だが、ここに描かれているvicious cycle(酷い悪循環)というものは今でもまだ確実に存在している。

ステレオタイプは良くないとは分かりきっているが、言うならば、ステレオタイプから連想されるネガティブなアフリカン-アメリカンの生活が描かれている。父親はドラッグディーラーで早くにその父と母親を無くし、敬虔なクリスチャンの祖父に育てられた少年の話。周りがみんなそうだから、ゲットーだから、そんな流れでドラッグの売人になる。将来は死ぬか刑務所か、なんて言われる少年の話。

付き合い始めたばかりだというのに、アルゴが何を考えてこのヘビーな映画を私と一緒にみることにしたのか(しかも最初に一緒に見た初めての映画、なんかこうラブコメディとか、普通のコメディでもよくね?と思った)謎なのだけど、アルゴの若い頃の生き方、生活はこの映画に出てくる少年たちとまんま同じだった。

ゲットーを通りかかるたび、この手の映画やドキュメンタリーを見る度にアルゴは『俺は絶対にゲットー、ストリートには戻らない』と繰り返す。私は、ゲットー、ストリートでの生活を自力で抜け出し、そして現在、そこに住まわずを得ない子供たちや若者たちの力になりたい、と教職を仕事にしている彼の生き方や考え方をとても誇りに思う。下に引用した映画トレーラーにもあるが、『高校を卒業して18歳まで生きられたのよ』このセリフはとても重く、苦しい、どうしようもない真実なのである。

こちら日本語の作品紹介のWiki そして日本語のトレーラー(しつっこいけど、この邦題は本当にイラつく)


American Skin

 2019年作:American Skin。以前、人種差別について書いた記事でも紹介したのだけど、息子を警察官に殺されてしまった父親をドキュメンタリー形式で追う、というスタイルの映画。本物のドキュメンタリーなのか、映画なのか錯覚するような作りでグイグイと引き込まれる。いろんな人に観ていただきたい映画なのだが、とても重いテーマ、ストーリーで、しかもハッピーエンドではない。なので、暇つぶしとかいう感じではなく、覚悟してみてね、あと後味悪いよ、としか言えないのですが、見ていただきたい映画。

普通の生活、つまりはゲットー住まいでもなく、ドラッグディーラーでもない。普通のアフリカンアメリカン少年がなんの罪もないのに『自己防衛』だとする警察官に射殺される。システミックレイシズム。裁判の結果、警察官は何の罪にも問われない。ジョージフロイド氏の警察による殺害事件で大きな騒ぎになったが、無抵抗、非武装、そして犯罪を犯していないアフリカンアメリカンが警察による過剰な取締によって命を落とすことは何百件も何千件も起こっている。そんな事件で息子を亡くした父親へのインタビュー、ドキュメンタリーを作りたいと学生たちが取材を始めるところから映画が始まる。

自分の子供がこんな理不尽により殺されたらどうする?システム、司法は無罪にしたけど、それは本当に無罪なの?一生懸命、まじめに生きてきただけなのになんで?色んな、言葉にならない思いがぐるぐると渦巻き、息をするのも苦しくなるほどに重い映画である。

例えば、私はアルゴがこんな事件で命を失ったら(実際に、似たようなケースで命を落としそうになったことが3回ほどある)誰の助言も、慰めも、やめなさいよ、という言葉もなにもかもシカトして。銃で蜂の巣にされて殺されるにしてもそれでも抗うと思う。復讐にすべてのエネルギーを注ぐ。この映画の父親のように。

黒人の子供たちの死亡率は、白人の子供たちの死亡率より高いという。犯罪の有無に関わらず、黒人は白人に比べ、職質される率が非常に高いという。

もしも自分が。自分の家族が、理不尽な死を迎えそれが正当に裁かれなかった時、私はどうするのだろうと考え込む映画。

Nate Parkerは、主演(父親役)であると同時に、監督、および原作者である。なるほど、それでこのドキュメンタリー映画を作るという流れの映画がとてもリアルなのだ、と思う。ちなみに、私はOmari Hardwick(主人公の弟役)という俳優さんがとても好きです。

日本語でのレビュー


The Hate U Give

こちらは、若い方にぜひとも見ていただきたい映画。

2018年作:こちらもまた人種差別についての映画。主人公は16歳の高校生。ブラック。彼女が生活・経験するブラックコミュニティーとホワイトコミュニティーでのお話。主人公のスターは、両親と兄、弟と黒人の低所得者層が住む地域に住んでいる女子高校生。彼女の父親が生まれ育った街で暮らしたいと願いからその場所で生まれ育っているが、彼女は少し離れた豊かな白人の生徒ばかりの高校に通う。まっとうな学生生活を、大学進学を視野に入れられる将来のためにと願う両親。その期待に応えるために、ゲットーと言われる場所に住みながら、彼女の住む街を差別、偏見の目で見る場所にある高校に通う。地元ではアフリカンアメリカン、そして学校ではそれを抑えて・隠して生活している。

ある日、地元でのパーティでの帰り、車で送ってもらっているところを、警察に止められ、友人が射殺される。友人は彼女の幼馴染。車の中にあったヘアブラシを拳銃と間違った白人警察官が彼女の友人を射殺する。唯一の目撃者となった彼女の気持ち、行動が描かれている作品。高校生の彼女、賢く真っ直ぐな生き方、毎日の生活が繊細に描かれている。

先に挙げた2作と異なり、このお話はハッピーエンドで終わる。映画だから、創作の世界だから、と言えばそうなのかもしれないし、現実にそんなことが起こるのかなと思う私はひねくれたババァだけれど、逆に映画だからこそ、物語だからこそ、救いのある終わりを迎えるこの映画は、人ってなんだろう、人種ってなんだろうと改めて考えさせられる良作。

主人公が白人の友達との付き合いで悩むこと、ブラックである自分を抑えてくらしていること、でもそれでも自分はブラックだという力強い誇りがあること。ブラック(だけでなくすべての有色人種)がホワイトソサエティ(白人社会)で生きる息苦しさ、やるせなさ、そんな心情が描かれている。

主人公の姿を私はその姿をアルゴと重ねてしまった。アルゴはそもそも非常に社交的な人なのだけど、人種を問わずいろんな友達がいる。それでも、白人である友人たちとの価値観の違いやズレ、そしてBLM運動などで見る黒人に関するニュース。アフリカンアメリカンであることをすごく意識、そしてブラックであること、ストリートで育ったこと、そんなことにプライドを持っている。ものすごく強く、激しく。

私はそれを共有したいけど、出来ないでいる。20年、一緒にいる。それでも彼が経験してきた差別、そして区別の経験と歴史は、のほほんと生きてきた私が、わかるよ、などとは言えない程に重く、苦しいものであり、だからこそ、気高く、揺るぎないものなのである。

びっくりする方もおられるかもしれないけれど。同じ肌の色の友達しかいない、同じ肌の色の人としか喋ったことがない、という人は多く存在する。むしろ、アルゴのようなケースが珍しい。ママが生きている時はよく「この子はホワイトボーイズとか、アジア人とか、いろんな種類の人と遊ぶ変わった子」と言っていた。良いとか悪いとかではなく。選択肢がない、とか、知り合う機会がない、とそれだけのことなのだけど。

映画の話に戻る。主人公には白人のボーイフレンドがいて、ラップが好きで黒人独特のスラングを話すような少年。私は最初、うへぁ……(嫌悪)と思った。ブラックワナビーな人というのはどこにでもいるし、カルチャーとしてそういうのがあることも分かっているけど、うへぁ……(苦手)と思ったのだけど、このボーイフレンド(お坊ちゃん)がとてもいいニンゲンなのである。人として、純粋で真っすぐで、主人公を大事に想っている。これは私にとって予想外のキャラで、私のようなババァは『あぁぁぁ、あんた!いい子ぉぉぉ(涙)』などと泣きながら映画をみた次第です。

日本語での作品紹介。背景等含めたこのライターさんの紹介文が秀逸なので是非。


(終)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?