マガジンのカバー画像

読書家の善悪

92
運営しているクリエイター

#文学

夏目漱石の『三四郎』の話。情報が錯綜する。手が伸びずに鼻が伸びる。とらわれちゃだめだ。

 夏目漱石の著作、『三四郎』に次のような一節がある。

「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓ひいきの引き倒しになるばかりだ」
 この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常

もっとみる

キミがいるから時間が動いた。桐島は部活をやめるし、兎はこれからも跳ねている。

 美術部にいた時のことを、僕はあまり覚えていない。

 顧問の先生は部活には顔を出さないし、入部しているはずの部員は誰も来ない。そんななかで、部活には毎日でなければいけない、と、あいまいな強迫観念に縛られた僕は、誰にも教わらずに家族旅行でたびたび買っていたポストカードを鉛筆でひたすら描くことを繰り返していた。

 ただそれだけだったんだけど。放課後の教室特有のあの誰しもが経験している雰囲気だけは印

もっとみる